今月6日の夜、北朝鮮から漁船に乗って2家族9人が脱北し、韓国に入国していたと、韓国メディアが報じている。

東亜日報は、2家族は夫婦とその子ども、両家の親戚の合わせて9人で、黄海南道(ファンヘナムド)の康翎(カンリョン)から木造船に乗って脱出。海上の軍事境界線と言われる北方限界線を超えて韓国側の領海に入り、救助された。一方、SBSテレビは人数を10人と報じている。

2つの家族は、韓国軍、国家情報院、統一省の合同尋問で、「韓国のテレビを密かに見て憧れを抱いていた」と述べた。出身地、居住地は明らかにされていないが、黄海南道はもちろん、首都・平壌周辺でも、韓国のテレビの受信が可能だと言われている。

日々悪化する経済難、食糧難とコロナ対策による監視強化に耐えかね、脱北を決意した彼らは船の改造、ルート選び、決行時期の見極めなど1カ月に及ぶ緻密な準備の末、脱北を敢行した。

東亜日報は政府筋の話として、「尹錫悦政権になって、過去の政権とは異なり、北朝鮮の人権(問題)解決を強調する基調が帰順(脱北)の決心に影響を与えたようだ」と伝え、韓国のテレビを見て現政権の対北朝鮮政策が、脱北者を送り返さないだろうと判断したのかもしれないと報じている。

これは、文在寅前政権が、乗組員を殺害した上で韓国に逃亡、亡命の意思を示した脱北者2人を、北朝鮮に送還した件を念頭に置いたものだ。

国家情報院は、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)の取材に「最近、北朝鮮住民が帰順した事実があり、合同調査を行っている」と明らかにした。一方、統一省は、北朝鮮を脱出した人はすべて韓国国民として保護すべきとの原則論を述べるに留まった。韓国政府は、一部の例外を除いて、脱北の事実を公開しない姿勢を取っている。

なお、北方限界線を超えての海上脱北は、2017年の7月以来のことだ。ただ、脱北を目指したが失敗した事例はある。