市場に奪われた穀物供給の主導権を国の手に取り戻すことで、国民の統制を強めようとしている北朝鮮。市場での穀物供給を禁じ、全国に280カ所の糧穀販売所(国営米屋)を開設、または復活させ、そこに限って市場より安値で販売している。

首都・平壌の糧穀販売所では、それなりに運営がうまくいっているようだ。ただし、あくまで平壌だけでの話だ。詳細を現地のデイリーNK内部情報筋が伝えた。

市内のある糧穀販売所では、5月20日から24日まで穀物を販売した。本格的な販売が始まったのは、4月15日の太陽節(故金日成主席の生誕記念日)がきっかけだ。

コメ1キロの価格は4000北朝鮮ウォンで、デイリーNKが調査した5月14日の時点での平壌市内の市場でのコメ価格5700北朝鮮ウォン、23日の時点での糧穀販売所の近隣の市場の6300北朝鮮ウォンよりかなり安い。

トウモロコシ1キロの場合、当初は1800北朝鮮ウォンだったのが、2000北朝鮮ウォンに上げられた。これは当初、古くて質の悪いものだったのが、中国から輸入したと見られる比較的質のいいものに変わったためと思われる。ちなみに近隣の市場での販売価格は3300北朝鮮ウォンほどだ。

販売の上限は、労働者1人あたりの1日配給量700グラムの15日分、10.5キロだ。ただし、コメとトウモロコシの割合を3対7にせよとの指示が下されたことで、コメは3キロまでしか買えなくなった。これは、供給量の少なさが原因と見られる。

ポリッコゲ(春窮期)を迎え、市場でのコメ、トウモロコシの価格は上昇傾向にあるため、糧穀販売所での廉価販売はかなり評判がいいようだ。

「先月には太陽節があったのに、販売量が少なすぎてむしろ不満が多かったが、今回は質がいいとは言えなくとも市場より安く穀物がある程度買えて、懐の苦しい人々は助かるだろう」(情報筋)

繰り返しになるが、これはあくまでも平壌での話だ。普段から特別扱いされていて、「首都米」など平壌市民向けのコメの供給も行われてきた。しかし、それ以外の地方で、糧穀販売所の運営はうまく行っていないことが伝えられている。

穀物の市場での販売を禁止したものの徹底しなかったようで、相変わらず販売が続けられている。また、糧穀販売所の穀物価格と市場価格が開きすぎて、糧穀販売所で買って市場で売る転売ヤーが続出したり、逆に価格の差がほとんどなくなり、糧穀販売所を利用する意味がなくなったりするなど、時々刻々と変わる市場に糧穀販売所はついていけずにいる。

また、市場と違ってツケが効かないことから、極貧の人々にとっては利用のハードルが高い。それ以前に、そもそも穀物が入荷しなかったりもする。

当局は穀物増産を目指して農業に力を入れているものの、昨年は散々な結果に終わった。今年も営農資材が不足し、異常気象が予想されていることから、決して見通しは明るくない。

さらには、糧穀販売所にコメを強制的に買い上げられると損をすることから、隠し持って市場に売ろうとする農民が多い。

2010年代、穀物流通を完全に市場に任せていたころの方が、食糧事情がよく、量よりも質を重視する傾向が現れるほどだったのだが、体制維持のための無茶な政策が続き、人々は飢えと絶望に追いやられている。