北朝鮮による軍事偵察衛星の打ち上げが迫っている。日本政府は29日、北朝鮮から「衛星」を発射するとの通報があったと発表した。海上保安庁によると、期間は5月31日午前0時〜6月11日午前0時だという。

これを受け、メディアはもっぱら「実質的な弾道ミサイル」だと報じている。確かに、技術的な面から言えばそのとおりだ。だが、金正恩総書記の妹・金与正(キム・ヨジョン)朝鮮労働党副部長は昨年12月20日発表の談話で、次のように言っている。

「われわれは、大陸間弾道ミサイルを開発するなら、大陸間弾道ミサイルを打ち上げるのであって、(中略)衛星に偽装して長距離ロケット実験を行わない」

つまり、すでにさんざん長距離ミサイルの実験を公開しているのだから、今さら衛星発射に見せかける必要はないということだ。これもまた、そのとおりだ。

実際のところ、北朝鮮にとって、弾道ミサイルとは別に軍事偵察衛星の開発と打ち上げを成功させることの意義は大きい。北朝鮮は核兵器の戦力化を進めているが、それで撃つべき「ターゲット」の状態を把握するための「眼」を持っていない。

北朝鮮は過去、韓国の軍事施設を偵察するために、たいへんな危険を冒して工作員を潜入させていた。1996年に韓国東海岸で発生した江陵浸透事件が代表的な例だ。北朝鮮の潜水艦が韓国に潜入した工作員を回収するため、海岸に接近して座礁したこの事件では、工作員・乗組員 26人のうち、24人が韓国軍・警察との戦闘と集団自決により死亡した。(残る2人のうち1人は逮捕、1人は行方不明)

こうまでしても、工作員が収集できる情報などきわめて範囲が限られていたわけだ。北朝鮮がこうした活動をすでに行っていないとは断言できないが、やろうにも、韓国側の監視能力の向上でかつてと比べ格段に難しくなっている。

北朝鮮の衛星写真は解像度が低いなどと指摘されているが、多少の技術的な進展があれば、米韓軍の集結状況などは概ね把握できるようになる可能性がある。少なくとも、まったく見えないよりはマシだろう。

そして、北朝鮮がそれなりの性能の偵察衛星を持てば、核ミサイルで「どこを、どう撃つか」という計画がより具体化することになる。

北朝鮮による偵察衛星の打ち上げは、その技術が弾道ミサイルと基本的に同じだからというだけではなく、偵察衛星の打ち上げそのものが十分に問題なのだ。