北朝鮮が先月31日に強行した軍事偵察衛星の打ち上げが失敗に終わったことで、韓国メディアの報道には「幹部の責任が問われるのではないか」との論調が見られる。

特に「危ない」と見られているのが、朝鮮労働党中央軍事委員会の李炳哲(リ・ビョンチョル)副委員長だ。空軍司令官出身の高官である李氏は同月29日、打ち上げ実施の宣言を発表。この計画の責任者であると考えられている。

「許されぬ領域」

仮に、李氏の指揮に落ち度があって打ち上げが失敗したと少しでも疑われた場合、金正恩総書記は何らかの罰を下す可能性はある。李氏以外の幹部についても同じだ。

しかし金正恩氏は、技術的な失敗については寛容だと見られている。ミサイル実験においても、父親の時代に開発された「ムスダン」の発射では失敗が繰り返されたが、技術陣に果敢な挑戦を求め続けたことが、ハイペースでの開発成功に結び付いた可能性が高い。

だが、いくら金正恩氏の寵愛を受けるエリートたちであっても、許されない領域は間違いなくある。そこに踏み込めば、処刑などの極刑が待っている。

北朝鮮内部の高位情報筋が韓国デイリーNKに伝えたところによると、北朝鮮当局は昨年9月15日、党・政・軍の傘下で核兵器関連業務を担当する機関幹部らを対象に政治学習資料を下達した。

この政治学習資料には、2021年12月から翌年8月までの間に、「不純な思想」を持った特殊機関の幹部と職員3000人余りが「法的処理」されたという内容が明示されていた。特殊機関には、核ミサイルを運用する戦略軍司令部の要員も含まれていたという。また「法的処理」は、収容所送りを意味すると見られている。

彼らが処罰された主な理由は、私席などで核戦力の「法制化」に反対する意見を述べていたことだ。北朝鮮は2022年9月9日に開催された最高人民会議第14期第7回会議で、「国家核戦力政策の法制化」を断行した。それに先立つ世論集約の過程で、反対意見を持つ幹部が相当数あぶり出されたということだ。

「法制化」の中身についてざっくり言うと、金正恩氏の主観的な判断により、核兵器を先制的に使用することを可能にする内容だ。反対意見の多くは、これが米国などを過度に刺激すると考えたものだったらしい。

幹部らももちろん、表立って反対意見を述べたわけではない。そんなことをしたら命がいくつあっても足りない。それでも金正恩氏は秘密警察を動かし、徹底的にホンネを調べ上げたのだ。

果たして今回の失敗を巡って、こうした処罰は行われるのだろうか。