韓国のソウル首都圏に属する京畿道(キョンギド)は1日、金浦(キンポ)市と坡州(パジュ)市に対してマラリア警報を発令したと韓国メディアが報じている。両市では今年に入ってから集団発生が相次ぎ、全国のマラリア患者は120人と、前年同期比の44%より大幅に増えている。また、全体の約6割が京畿道で発生している。

マラリアと言えば、熱帯地方の感染症というイメージがあるが、必ずしもそうでない。日本にはかつて土着マラリアが存在し、年間数万人の患者が発生していた。韓国にも土着マラリアがあったが、世界保健機関(WHO)は1979年に撲滅宣言を出した。しかし、1994年に再び発生した。

これは、北朝鮮が未曾有の食糧危機「苦難の行軍」にあった時期だ。北朝鮮では医療システムが崩壊、衛生状態が悪化したことで、マラリアが大流行。三日熱マラリア原虫を持ったハマダラカが、南北を分断する軍事境界線を超えて韓国側にやってきて感染が広がったものと思われる。

もちろん、普通に韓国を旅行するにはまず感染リスクはないが、軍事境界線付近で働く軍関係者や農民の間で感染者が発生している。

北朝鮮のマラリアの現状だが、WHOが昨年12月に発表した世界マラリア報告書によると、2021年の発生件数は2357件で、2012年の2万1850件と比べて大幅に減少したものの、2020年の1819件と比べると1年で2割以上増加した。

その理由はわかっていないが、新型コロナウイルスの国内流入を防ぐために国境を封鎖したことで、医薬品や殺虫剤が輸入できなくなったことが考えられる。また、南北関係の悪化で、韓国からの支援物資が受けられなくなったこともあると思われる。

韓国の軍事境界線沿いの地域が、そのとばっちりを受け、WHOの示した2020年までの再撲滅の計画が達成できなくなった。

北朝鮮で感染が広がっているのは、マラリアだけではない。

国営の朝鮮中央通信は昨年6月、黄海南道(ファンヘナムド)海州(ヘジュ)市で、急性腸内性伝染病の感染者が発生したと報じた。政府は対策に乗り出したものの、翌月には首都・平壌や以北の地域にまで感染が広がってしまった。

この「急性腸内性伝染病」の具体的な病名はわかっていないが、腸チフスやコレラと思われる。いずれも病原菌に汚染された水や食べ物から感染するもので、開発途上国で多く見られる感染症だ。

最近では、平壌や北西部の平安北道(ピョンアンブクト)、北部の両江道(リャンガンド)、北東部の咸鏡北道(ハムギョンブクト)、咸鏡南道(ハムギョンナムド)で、熱病が発生し、会寧(フェリョン)や咸興(ハムン)などで死者が発生している。

コロナ、インフルエンザや病原性の弱い三日熱マラリアなど様々な可能性が考えられるが、深刻な食糧不足で栄養状態が悪く、多くの人が亡くなっているようだ。

次から次へと様々な感染症が発生する北朝鮮。「社会主義保健医療制度」で誰もが無料で医療を受けられると未だに宣伝しているが、ワイロなしには医療が受けられないのが現実だ。