ここ10年以上、キャラクタービジネスは堅調に推移しているが、日本を代表するものといえば、来年誕生50周年を迎えるハローキティだろう。このキャラクターは、なぜこれほど長きにわたって親しまれ、国内はもとより海外でも人気を博しているのか。ハローキティ擁するサンリオの戦略と今後の展開とは。

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佐藤 この応接室の、いちごの形をしたドアノブを見て思い出しました。小学生の頃、ほとんどの女子がいちご模様のグッズやシールを持っていました。あれはハローキティより前のサンリオの商品ですよね。

辻 私の生まれるずっと前の商品ですね。来年50周年を迎えるハローキティは1974年に誕生、私は1988年生まれです。偶然にも、私とハローキティは11月1日生まれで、同じ誕生日なのですが(笑)。

佐藤 そうすると、辻社長はいま35歳ですか。非常にお若いのに、重責を担っておられるわけですね。社長に就任されて何年になりますか。

辻 2020年の7月に就任しましたから、3年と少しです。

佐藤 おじい様の信太郎氏が創業者ですね。いつ頃から後継者を意識されていましたか。

辻 幼い頃からサンリオ社長の孫と言われ、また家の中にもハローキティをはじめ、さまざまなキャラクターのグッズが置かれていましたが、さほど意識することはなかったんですね。

佐藤 大学卒業後は別の会社に入られています。

辻 ええ、食品会社に入りました。将来は継ぐのだろうな、とぼんやりとは思っていましたが、父の邦彦からはサンリオに入社するのは30代後半でいいと言われていたので、差し迫ったものではありませんでした。でもその父が2013年に出張先のロサンゼルスで急死してしまったんですね。私はその翌年に入社したのですが、そこで初めて、はっきり自分が継ぐのだと意識しました。

佐藤 おじい様は山梨県庁職員からこの会社を創業、一代でここまで大きくされました。どんな方ですか。

辻 プライベートではかなり優しい祖父で、会社に入るまでは一度も叱られたことがありませんでしたね。ただ、やはり事業となると、私が進めたいことと祖父の考えが違い、ぶつかることもありました。孫なので押し通せるかなと思ったのは甘かった(笑)。

佐藤 例えばどんなことですか。

辻 私は前に専務としてマーケティングを担当していたのですが、近年はどうしてもデジタル系のプロモーションやネットを使った展開が増えてきています。でも90歳を超えている祖父にデジタルのことを理解してもらうのは難しいんですね。仕組みがわからないままやりとりをしても、らちが明かない。それで話が進められないということがありましたね。

佐藤 おじい様は昨年まで代表権のある会長でしたから、大きな権限を持っていました。

辻 ですからこのままではいけないと思い、ここ数年は毎日15分ほど会話をすることにしていました。そこで培ったコミュニケーションで、ある程度の信頼関係は築けたと思っています。

佐藤 それでおじい様は代表権のない名誉会長に退かれ、辻社長が完全に指揮を執るようになった。2023年度の売り上げ726億円は前年比37.6%増で、営業利益も132億円と好調です。

辻 過去最高益は10年ほど前の200億円強で、それが本来の実力だと思っています。ただコロナ禍の2021年度は32.8億円の赤字にまで転落し、今回、ここまで回復したという感じです。もちろんコロナ禍が一段落して人流が戻り、マーケット自体が活性化されたことが大きな要因ですが、私どもの進めてきた中期経営計画の中の組織風土改革も寄与していると思います。

佐藤 メディアでは、トップダウン待ち、サイロ化、頑張っても報われない評価制度など、社内の体質が問題視されていました。辻社長もそれを感じておられましたか。

辻 入社した時から感じていました。しかもコロナ禍前も2015年から営業利益は減り続けていた。もちろんトップダウンはトップダウンとしていいところがあると思いますし、会長が決定権を持っていたからこそ、大きくなれたと思います。ただ、ここまで企業体として規模が大きくなり、グローバルにビジネスが回り始めると、一人ですべての仕組みを動かしていくことはできませんし、目の届かない部分も出てくる。

佐藤 組織の近代化が必要だった。

辻 特に会長は物販事業を非常に大切にしていたので、アイテム数がどんどん増えていく一方、赤字店舗にも退店の判断等のメスを入れることがなかなかできませんでした。つまりテコ入れをすれば改善が見込めることでもそこに手が付けられず、正しい提案も評価されないことが多かったのです。

佐藤 そもそも撤退の判断は現状維持より難しいですからね。そこにそうしたバイアスがあると、組織は動かなくなります。

役員、管理職の入れ替え

辻 それで中期経営計画を作るにあたって、まず社員全員にアンケート調査をしました。われわれのどういう部分が弱いのか、社員と目線を合わせてから、組織風土の改革に乗り出した。そして次に行ったのは、人事です。やはり凝り固まっている制度や組織を変えるには、人を替えないといけない。そこで役員クラスから管理職クラスまで、外部から人員を招聘(しょうへい)しました。

佐藤 何人くらいですか。

辻 役員でいえば、常務執行役員3名、社外取締役3名を登用しました。さらに執行役員や部長クラスも含めると、十数人規模の入れ替えです。これにより改革前と現在を比較すると平均65歳だった取締役は52歳に、執行役員クラスでは54歳が51歳に若返りました。

佐藤 かなり大きな変化ですね。外部人材はどこから見つけてこられたのですか。

辻 人材紹介会社に頼んだりもしましたが、常務の二人はもともと一つ前の中期経営計画を一緒に作ったコンサルティング会社から来ていただきました。もう一人の常務は社内の人からの紹介です。

佐藤 コンサルは難関だし、高給でやりがいのある仕事です。どのように口説いたのですか。

辻 単純に一緒にやりたい、ということですね。それまで中期経営計画を作っていく過程で、考え方が自分と合っていると感じていましたし、課題も共有していましたから、彼らにしてもこの会社の未来が見えていたはずです。それを一緒に作り上げていくのも楽しい仕事であると判断してくれたのではないかと思います。

佐藤 管理職以上を外から呼んでくると、社内が大変ではなかったですか。本来なら自分があのポストに行くはずだった、と思った人もいたでしょう。私の外務省時代の経験からすると、1人抜てきすると3、4人が不満を持つ。

辻 そこは私も不安でした。しかもサンリオには外部の人を入れる文化がなかったんですね。一度、2018年くらいに外から1人だけ人を招いたんですが、改革担当が1人では協力者を得られにくく、私のミスでうまくいかなかった。

佐藤 組織ごとに免疫系がありますから、少ないと排除されてしまう。

辻 その失敗があったので、大きな変革をやる時には思い切った手を打たなければダメだと思いました。

佐藤 作戦において、人員の逐次投入は悪手です。

辻 ええ、だから一気に変えました。その上で全社員と1対4の面談をして、自分の思いやサンリオの未来について直接語りかけてきました。

佐藤 どのくらいかかりましたか。

辻 約1年半ですね。それを年代別にやりました。長年勤めてこられたプロパーの方は、急に改革だと言われても困るだろうと思ったのですが、違いました。20代、30代はこれまでの会社のやり方に不安を覚えていたり、改革の意義を分かってくれたりと、そこは予想通りでしたが、40代、50代の方も、もう時代が変わったので一緒に改革しましょう、自分がサンリオにいる間にそれができてうれしい、という反応だったんです。そこはサンリオの良さというか、祖父が作り上げてきた組織の強さを感じましたね。

佐藤 その効果が早々に出たわけですね。

辻 ある程度、課題ははっきりしていました。例えば、手を入れにくかった物販事業なら、年に5千点あったアイテムを2千点台まで減らす、という目標を立てた。

佐藤 年に5千点なら、月に400点以上、新製品が出ていたということですか。

辻 はい。そんなに新商品が出てもお客さんは見ることができないですよね。しかも売れないと廃棄することになる。社長になってからその現場を見に行きましたが、やはりいろいろなキャラクターのついた商品が、封も切られずに廃棄されていくのは悲しかったです。

佐藤 いわば自分の分身ですものね。

辻 そこで、私どものお客さんは1カ月に何度来るかとか、どんなものを買っていくかというデータを取って、適正な商品数、アイテム数を導き出しました。在庫を持つ業界は廃棄がないということは考えられませんが、環境への問題もありますし、そこを極小化しなければならない。売り上げのトップライン(営業収益)が伸びてきたので、現在のアイテム数は2900ほどですが、これにより長らく赤字だった国内物販事業は黒字化しました。

キャラクター作りの極意

佐藤 そうした事業とともに経営の中心にあるのは、キャラクターのライセンス事業ですね。いま、その割合はどのくらいですか。

辻 38%くらいですね。ライセンスビジネスは約130の国や地域で展開しています。

佐藤 やはりハローキティですか。

辻 世界的にはそうですね。ご存じの通り、1990年代に国内で、2000年代には欧米でもブームになりましたから、世界的に知られている。ただ弊社で行っているサンリオキャラクター大賞だと、ハローキティは例年5位くらいです。1位はシナモロール、2位ポムポムプリンという年が多い。

佐藤 ハローキティがこれだけ長く愛され続ける理由は、どこにあるとお考えですか。

辻 私どものキャラクターは、まずモノから始まるんですね。幼い頃のお弁当箱であるとか、ハンカチやランチョンマット、あるいは筆箱などの文房具ですね。だからその方の人生の中で、それを使ってきたという思い出になっている。

佐藤 しかも日常的に使うものです。

辻 そもそも私どもは小物雑貨から始まった会社で、日々使うものにキャラクターのデザインを入れたところから成長してきました。それを持っていた方が50年たって、例えば孫にも買ってあげようと考える。そのサイクルを持っているのが、長年続いているキャラクターですね。

佐藤 それも時代に合わせて少しずつ変わっていますね。

辻 はい。そこは私どものデザイン力で、時代ごとに少しずつ変えてきています。

佐藤 少し前までモノからコトへ、と言われていたでしょう。私はこのところ、コトからモノへという逆転現象が起きているんじゃないかと思うんです。ウクライナの戦争でも、米中対立でも、クローズアップされたのはモノです。ロシアが西側連合に負けないのは、自国で生産できるモノがあるからなんですね。モノがあることの重要性が改めて認識されている気がします。

辻 そういう面はあるかもしれませんね。モノからコト、コトからモノへと行ったり来たりしているのかもしれません。それはデジタルからリアル、リアルからデジタルも同様で、一方通行ではなく、行き来するようなところがある。ですから両方でキャラクターを回していくことが大事だと思いますね。

佐藤 つまり、ぬいぐるみとLINEのスタンプの同時展開ですね。

辻 これまで私どもは小物雑貨を店頭に並べてキャラクターを育ててきましたが、それでは十分でなくなりました。最近はキャラクターとのタッチポイント(顧客接点)が増えています。LINEのスタンプもそうですし、SNSには数分の動画もあれば、30秒の動画もある。またクレーンゲームで最初に触れる人も増えています。

佐藤 娘のためにクレーンゲームに“投資”している親はたくさんいます。昔はクレーンゲームの商品はまがいものが多かったですが、いまはきちんとライセンスを取り、そこでしか手に入らない品物になっている。

辻 最近は外国人旅行者がクレーンゲームをするんですよね。こうしたタッチポイントも見極めながら、キャラクターの展開を考えていくことが大事です。

佐藤 そうなると、新しいキャラクターの作り方も変わってきますね。

辻 ええ、いままではデザインを作ってから、このキャラクターをどう展開していくかを決めていたのですが、いまはこのくらいの市場規模でどんな層にヒットしてほしいか、そのためにはどんな性格のキャラクターが妥当かを決めて、そこからこんなデザインがいい、というような逆算式のプロセスになっています。

佐藤 新しい作り方で、どんなキャラクターが誕生しましたか。

辻 最近だと「はなまるおばけ」ですね。デビューする新キャラクターを一般投票で決める「NEXT KAWAII PROJECT」で1位になったキャラクターです。コンペ形式でしたので、これは先にデザインがあり、いくつかのキャラクターから選んでいただく形でしたが、それぞれ市場規模やターゲットを絞って作り込んでいる。ここで選出されると、X(旧ツイッター)のフォロワー数、約10万人の後押しを先に得てから、グッズ化を始めるといったことができます。キャラクター作りのスピード感やヒット打率が圧倒的に変わります。

佐藤 その中から第二のハローキティが生まれてくるかもしれないですね。

ストーリー性がない強み

辻 私はキャラクターには2種類のパターンがあると考えています。ハローキティのように長く愛されるキャラクターと、一気に盛り上がって少しずつ落ちていくキャラクターです。後者はアニメやゲームに多い。

佐藤 例えば「鬼滅の刃」のキャラクターたちですね。3年前の爆発的なヒットのままでは続かない。

辻 私どもはその両方をやっていこうと考えています。その中で爆発的な人気を博したものが、長く続いていくキャラクターになるかもしれません。

佐藤 私は外務省時代、モスクワに駐在していましたが、社会主義のソ連では知的所有権が整備されていなかったこともあり、キャラクターが育ちませんでした。1980年のモスクワ五輪では大きな予算を投じて「ミーシャ」という熊のキャラクターを作りましたが、まったく定着しなかった。その一方で『ワニのゲーナ』という絵本に出てくる「チェブラーシカ」というサブキャラクターが人気を博し、アニメ化もされましたし、2004年のアテネ五輪以降、ロシア代表選手団のマスコットにもなったんですね。

辻 仕掛けようとしてもなかなかうまくいかないのはよくわかります。私どものキャラクターの特徴の一つは、ストーリー性がないことだと思います。それはいい部分も悪い部分もありますが、人それぞれのハローキティが生まれる。ハローキティが友達だったり、同僚だったり、あるいはリーダーであってもいいわけです。

佐藤 なるほど、物語性のない強さがある。物語性がないなら、あらゆるものを包摂できます。そこは仏教的な「空」につながる気もします。長期間にわたって愛される最大の理由は、そこにあるのかもしれませんね。

辻 そうですね。お客様がどう思うかで、人それぞれのハローキティがあっていいと思うんです。

佐藤 たぶんそうした物語性のないキャラクターは、ディズニーには作れないでしょう。辻社長はライバル企業をどこだと考えていますか。

辻 実のところ、ライバルと捉えている企業はないんです。文具メーカーやおもちゃメーカーと競合する部分はありますが、ライセンスビジネスをここまで手広くやっているところはありません。海外ならディズニーさんがいますが、その事業領域は広いですし、ライバルではなく、その世界観を参考にさせていただいている感じですね。

佐藤 現在、乳幼児英語教材事業にも進出されているようですが、「グローバルエンターテイメント企業」を掲げていますね。

辻 サンリオといえば、ハローキティの会社、キャラクターの会社という認識で、海外ではまだサンリオの名前をご存知ない方も多いのですが、エンターテイメントの会社と呼ばれたいんですね。

佐藤 サンリオの考えるエンターテイメントとは、どんなものですか。

辻 人を笑顔にするモノ、コトすべてがエンターテイメントだと、とらえています。人の生活時間――通勤時間、食事の時間、お風呂の時間など、ありとあらゆる時間を笑顔に変えていく。教育もその一つで、幼児への最初の教育で笑顔を届けることができたらと考えています。そしてその笑顔と笑顔をつなげることで、私どもの企業理念である「みんななかよく」を達成していけるのではないか、そう思っています。

辻 朋邦(つじともくに) サンリオ社長
1988年東京都生まれ。慶應義塾大学文学部卒。大手食品メーカーに勤務するが、父・邦彦副社長の急逝で2014年サンリオ入社。経理部、企画営業本部担当執行役員(ライセンス担当)などを経て、16年取締役、17年専務取締役。20年に創業者の祖父信太郎氏より60年ぶりに社長を引き継いだ。

「週刊新潮」2023年12月7日号 掲載