まもなく梅雨がやってくる。ウェザーニュースによると、日本人の傘の所有数の平均は4.2本だという(「傘調査2022」より)。これは、急な雨のときに買ってしまい、それを繰り返すうちに家にたまってしまっている、ということなのだろう。

 しかし、現在ではこのような消費行動が変化しつつある。

 それがまず現れているのが、購入場所。みなさんは、傘を購入するときどこに行くだろうか。「コンビニ」と答える人が多いかもしれない。実際、過去のピーク時には、年間4,500万〜5,500万本が売れると言われていた。だが、近年は販売数量は微減が続いている。こうした動きと対照的に、販売数を伸ばしているのが、雑貨などを扱う「PLAZA」なのだ。

 理由は、傘の“種類”にある。

「現在、PLAZAの傘の販売割合は、晴雨兼用傘が62%、雨傘が38%と完全に逆転しています。晴雨兼用の折りたたみ傘を持ち歩き、晴れの日は日傘として使い、もちろん雨の日は雨傘として使うケースが多いのです。そのため、一昔前とは、購買行動が変化していると言えます」

 とは、同社バイヤーの大塚里奈氏。コンビニで売れる傘が、非常時の“緊急購買”中心である雨傘なのに対し、晴雨兼用傘は“お気に入りの1本”を求める傾向が強い。ゆえに、PLAZAのような店舗に足を運ぶと推察できる。

「PLAZAのメイン顧客は女性ですが、晴雨兼用傘は若年男性も購入されたり、お子さまへのプレゼントとしてお母さまが購入されることもあります」(大塚氏、以下同)

慌てて傘を買う、が減った

 さらに、突然の雨で慌てて購入するケースは、かつてより少なくなっているそうだ。

「天気予報と雨雲レーダーの進化、普及で、雨傘の売上は少なくなっているとメーカーさんがおっしゃっていました。多くの消費者は家を出る前にスマホで予報やレーダーをチェックする習慣がつき、あらかじめ傘を持っていくようになったからです」

 スマホのアプリで簡単に確認できるようになり、天気予報に接する機会が増えているとも考えられる。こうした情報の発達に加え、そもそものお天気事情が、雨傘から晴雨兼用傘ないし日傘への移行理由として大きいと、メーカーは分析しているという。

「ここ数年は降雨量が平均を下回り、かわりに猛暑日や残暑が増えています。一方で、短時間に一気に雨が降るという不安定な天候。そのため、日傘をメインとして使いつつ、急な雨にはそのまま日傘を雨傘として代用されている印象があるようです。梅雨の時期でも、1日中雨の日は少なくなり、日傘で一時的に防げればいいという声もあるそうです。雨傘のでも、急な雨に備えて持っておける、軽量やコンパクトなものの売れ行きが好調になっているといいます」

 慌てて傘を買う、が減ったこともコンビニの傘の売り上げが鈍化した要因なのだろう。

インバウンド需要も

 かつてのコンビニ傘のライバルは、タクシーの初乗り料金だといわれた。突然の雨で、タクシーに乗るか傘を買うかを消費者は天秤にかけていたわけである。そのため、2017年にタクシーの初乗り料金が730円から410円になったことで、コンビニの傘の売上は少なからずダメージを受けたのである。これに加え、天気予報と雨雲レーダーのスマホアプリ、そして日傘への移行が、コンビニ傘の販売数に変化をもたらしているようだ。

「日傘が人気な理由は、もちろん紫外線を防ぐ目的です。日焼け止めは、『完全にUVをカット』とは表示できないですが、日傘はデータに基づき『100%カット』と表示されています。商品デザインは、シンプルなものが好まれていましたが、今後はカラーや形状のバリエーションも出していく予定です」

 PLAZAでは青山学院高等部の生徒と共同で企画した日傘が、6月から発売されるという。

「推し活をテーマにした晴雨兼用傘を販売します。多くのカラーバリエーションを取り揃え、メンバーカラーを選べるようになっています。また、アクリルポーチに収納でき、さらにフックでバックやリュックにかけることで手軽に出し入れが可能です。ポーチには、推しのシールやステッカーを入れたりもできます。高校生からは『推し活の現場では、長時間外にいることも多いがそこでテンションが上がるような日傘が少ない』という意見が出て、このようなアイテムを開発いたしました」

 PLAZAを筆頭に、日本では多くの日傘が売られている。それは、インバウンド客からも非常に人気が高い。

「特に韓国人観光客から人気です。カラーや柄のバリエーションもあって、かつ軽くて丈夫な日傘は日本だけなんだそうです。インバウンド効果も多少は関係していますが、今のところPLAZAの日傘の売上は、去年の2倍になるペースです。若年層の男性でも、すでに日傘を使うことは当たり前になっているので、今後そのような価値観が広まれば、さらに日傘需要は伸びると思います」

 男性がリップクリームを一般的につけ始めたのは1998年くらいで、定着するまで10年ほどかかっただろうか。それほどまでに、男性の美容意識の定着は遅いのだが、現在では情報の伝達スピードはかつてとは比べ物にならない。

 男性の日傘が定着する日は早々に来そうである。

渡辺広明(わたなべ・ひろあき)
消費経済アナリスト、流通アナリスト、コンビニジャーナリスト。1967年静岡県浜松市生まれ。株式会社ローソンに22年間勤務し、店長、スーパーバイザー、バイヤーなどを経験。現在は商品開発・営業・マーケティング・顧問・コンサル業務など幅広く活動中。フジテレビ「FNN Live News α」レギュラーコメンテーター、TOKYO FM「馬渕・渡辺の#ビジトピ」パーソナリティ。近著『ニッポン経済の問題を消費者目線で考えてみた』(フォレスト出版)。

デイリー新潮編集部