今年から大幅な制度拡充が行われた「新NISA」。手続きによって、一定の金額まで株式や投資信託で得られた利益が非課税になるという制度で、政府が国民の投資による資産形成を後押しするために整備したものだ。資産形成の手段として、これまで投資をしてこなかった人たちからも注目を集めているが、今も熱心に議論されているのが、「つみたてNISA」の投資先の“最適解”についてだ。

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 新しいNISAは、年間投資上限が240万円の「成長投資枠」と、同じく120万円の「つみたて投資枠」の2種類でそれぞれ投資が可能。

「つみたて投資枠」は特に長期的な資産形成に適しているとされ、証券会社によって取り扱われる商品は異なるが、現時点で280の「投資信託」から積み立て先を選ぶことができる。

 中でも人気なのが、つみたてNISA全体の30%以上を占めるとされる通称“オルカン”。正式名称は「eMAXIS Slim 全世界株式」で、三菱UFJアセットマネジメントが運用している投資信託だ。

 次いで人気なのがアメリカの「S&P500」に投資する商品で、オルカンと合わせてつみたてNISAの60%以上の資金が集中している。

 世間では「オルカン一択」、「オルカンに全ツッパしとけばOK」といった意見を耳にすることが多いのだが、果たして本当にそれで間違いないのか。

 外国株投資のプロであるマネックス証券の岡元兵八郎氏による解説をお届けする。

投資家にとっては素晴らしい時代に

 新NISAの世界では昼夜、「オルカンが良いのか、S&P500が良いのか」という議論がさかんに行われています。

 “オルカン”とは、今日本で大人気になっている投資信託の愛称です。正確に説明すると、「MSCIオールカントリー指数」と呼ばれる世界中の株価指数に投資できる商品です。

 MSCIオールカントリー指数は、世界の先進国23カ国に加え、新興国24カ国の株式市場全体の動きに連動する株価指数です。

 一方の“S&P500”とは、アメリカを代表する500社のグローバル企業の株価に連動する株価指数に投資できる商品です。

 近年、株取引がインターネットで簡単にできるようになり、こうした株価指数に連動する投資信託への投資も手軽にできるようになりました。

 私が社会人になったのは1987年です。当時、NYダウは毎日のように株価が上がり、日本の証券会社の店頭では、「あのNYダウとかいうやつを買いたいのだが」と問い合わせるお客さんがいた、という有名なジョークがありました。

 なぜこれが冗談になるのかというと、当時はNYダウに連動するような金融商品は存在せず、実際にNYダウ指数に採用されている30銘柄をそのまま買うしかなかったからです。

 それが今では、スマホを操作するだけで簡単に買えるようになりました。しかもNYダウのみならず、S&P500やオルカンなど、様々な指数に連動する投資信託に誰でも一口100円から投資できるわけです。投資家にとっては素晴らしい時代になりました。

バックミラーに映る風景に投資するようなもの

 先に白状すると、私自身は「S&P500派」です。私は昨年10月、これまで投資をしてきたオルカンを「解約しました」という動画をYouTubeに上げました。その動画は約40万回も視聴され、改めて“オルカン”というキーワードへの関心の高さに驚きました。

 世の中には株式投資について語るのみの専門家も多くいます。私は米国株投資を解説するのと同時に、ここ数年間、実際に自己資金でいくつかの投資信託に積み立て投資を行い、そのパフォーマンスを毎月YouTubeで解説してきました。

 その中で「オルカンをやめた」と報告した動画が物議を醸すこととなったのです。 では、なぜ、私がオルカンの投資をやめたかの説明をします。

 誤解のないよう申し上げておきますと、オルカンは、世界47カ国のおよそ2800銘柄という非常によく分散された、投資初心者の資金運用の「最初の一歩」として、ケチのつけようのない素晴らしい金融商品だと思っています。

 ただ私は、他の投資信託の組み合わせにより、「オルカンより高いリターンを得ることが可能なのでは」と考えたのです。

「MSCIオールカントリー指数」が投資する国の配分は、「これまで世界で起きた結果」であり、バックミラーに映る風景に投資するようなものなのではないか。私にはそう思えるためです。

 そこで私は、「株式投資は将来起きることを織り込みにいく」という原点に立ち戻って、今後長期にわたって、より高いリターンが得られそうな国や業種の配分を再考しました。

オルカンの新興国への配分は1割程度しかない

 日本は2008年の1億2808万人で人口のピークに達しました。その後は人口減少が続いており、2050年台には1億人を切るだろうというのが国連の予想です。

 一方で、これから人口が増えていくのが新興国ですが、例外として米国は移民を受け入れることで、これからも人口が増え続けると見られています。同じ国連の予想によれば、米国は2050年の時点でもインド、中国と共に、世界の人口トップ3の地位を維持する予想なのです。

 経済の規模をみても、これから高い経済成長率が予想される新興国と並び、米国もやはり、中国、インドと世界3大経済大国であり続けるという見通しです。

 そうするとまず、米国株への投資は押さえておくべきでしょう。具体的には、米国を代表する大企業500社で構成される「S&P500指数」の投資信託は保有しておきたいところです。

 その米国では、誰もが名前を聞いたことのある、エヌビディア、アップル、アマゾン、マイクロソフトなど、イノベーションを産む大企業が多く存在します。こうした企業の成長の流れはこれからも止まらないだろうと考えています。

 その視点で考えると、米国を代表するテクノロジー企業が過半数を占める「ナスダック100指数」に連動する投資信託も押さえておくべきでしょう。S&P500と重なる銘柄も多いのですが、それは成長率の高い銘柄の配分を高くするという意味では、理に適っています。

 また、これからの時代において、高い経済成長率を維持し、国民の中間層が増えて消費の拡大が期待できるのは新興国です。インドや中国に代表される新興国に重きを置いた投資をしたほうが、長期的には高い投資リターンが得られると考えました。

 実はオルカンは、新興国への配分は1割程度しかありません。ちなみに私の戦略では、新興国への配分を高める一方、アメリカを除く先進国への配分はゼロになるため、必然的に日本株指数への投資もしないことになります。

私の考える「つみたて投資の最適解」

 結果として、私の考える「つみたて投資の最適解」は次の通りになります。

(1)世界経済を牽引する米国のグローバル企業の集合体である「S&P500」

(2)人々の生活を変えてくれるイノベーション企業の指数である「ナスダック100」

(3)長期的に先進国よりも高い経済成長が期待できる「新興国」

 上記3つのテーマの投資信託に1/3ずつ集中投資することで、将来のより高い成長の恩恵を積極的に取りにいくことになります。その結果、オルカンのリターンを長期的に上回ることができると考えるのです。

 私はこの3つのテーマ投資を、S&P500の「S」、ナスダック100の「N」、エマージングマーケット(新興国)の「E」の頭文字をとり「SNE指数」と呼んでいます。1999年からこれまでの「MSCIオールカントリー指数」と「SNE指数」を比べると、後者の方が約1.5倍高いパフォーマンスを出していることが分かります(註:デイリー新潮サイトにグラフがあります)。

 SNE指数のリスクについても触れておきたいと思います。そもそもテクノロジーセクターのウエイトの高いS&P500に加え、ナスダック100にも1/3投資をするため、必然的にテクノロジーセクターへの配分が高くなります。そのため、SNE指数は一時的にボラティリティ(価格変動)が高くなり、株価が乱高下しやすくなります。

 また、新興国についても先進国と比べると、ボラティリティが高い傾向にあります。通貨危機や、最近のインドやメキシコの例のように、選挙の結果で大きく株価が下がることも少なくありません。

 ただ、それらは高いリターンの裏返しでもあります。実際のところ、ナスダック100は、1999年末からこれまでS&P500のリターンを大きく上回ってきました。これから先、オルカンのリターンも上回ってくると考えます。

 新興国株の特徴として、これまでドル安の時にオルカンやS&P500のリターンを上回る局面が見られました。もし今後、世界的なドル高基調が終わった際、新興国株のリターンは先進国のリターンを上回ると見ています。また、新興国株は配当利回りが最も高く、先進国株の下落時のリスクヘッジの役割も担ってくれます。

「SNE指数」への積立投資は、今後の世界の経済成長を長期的な視点で捉え、積極的にそのリターンを取りにいくことができる投資戦略です。“オルカン”がバックミラーを見ながらの投資だとすれば、“SNE指数”はフロントガラスに映る景色に投資する戦略だと言えるかも知れません。

岡元兵八郎
マネックス証券の専門役員。専門である外国株のチーフ・外国株コンサルタントのほか、マネックス・ユニバーシティ投資教育機関のシニアフェローも務める。元Citigroup/米ソロモンブラザーズ証券のマネージング・ディレクター。外国株に30年以上携わるプロフェッショナルで、関わった海外の株式市場は世界54カ国を数える。海外訪問国は80カ国を超える。米国株はもちろんのこと、新興国の株式事情にも精通している。ニックネームは「ハッチ」。Xアカウント名 @heihachiro888

デイリー新潮編集部