「あなたとコンビニとニッポン」第1回(後編)井上康生×渡辺広明

 全国5万8000店舗、年間155億人が買い物する“コンビニ超大国ニッポン”。老若男女、昼夜を問わずさまざまな人が訪れるコンビニは、その目的や利用方法も人によってさまざまだ。「コンビニとの付き合い方」を覗いた先に見えてくるものとは? コンビニジャーナリスト・渡辺広明氏が、ゲストを招きコンビニについて大いに語り合う──。

 記念すべき第1回目のゲストは柔道家の井上康生氏。前編では、アスリートならではのコンビニとの関わり方を語ってくれた井上氏。後編となる今回は、家族を持ったことによって変化したというコンビニの利用法や、コンビニに求めるサービスなどについて持論を展開してくれた。(全2回の2回目)

ホットコーヒーはセブン、カフェラテはローソン

渡辺:学生時代の康生さんは「補食」というアスリートらしいコンビニの利用が目立ちましたが、その後はいかがでしょう。結婚や現役引退といったライフスタイルの変化に伴って、コンビニの利用にも何か変化は起こりましたか?

井上:子どもの影響が大きいですね。うちは子どもが4人いるのですが、みんな甘い物が大好きなので、コンビニでデザートを購入する機会が増えました。とくにミニストップの「ソフトクリーム」がお気に入りで、よく買いますよ。

渡辺:ミニストップの看板商品ですね。実は日本で最もソフトクリームが売れている場所は、ミニストップなんです。

井上:僕もたまに食べますが、抜群に美味いですよね。あとは「からあげクン」も子どもたちの大好物なので、ローソンも利用します。

渡辺:特定のチェーンにこだわりがあるのではなく、商品に紐付いたチェーンの利用ですね。ところで、ミニストップって近くにあります?

井上:ありますよ。でも、ミニストップの店舗数って少ないんですよね? 各コンビニチェーンの店舗数の割合はどの程度なんですか?

渡辺:セブン-イレブン(以下、セブン)が約2万900店舗と最も多く、ファミリーマート(以下、ファミマ)は約1万6500店舗、ローソンは約1万4600店舗です。全国のコンビニが約5万8000店舗なので、この大手3社だけでコンビニの約9割を占めていることになります。一方、ミニストップは約2000店舗で全コンビニの3%程度です。個人的には、大手による吸収合併が繰り返された結果、コンビニチェーンが減ってしまったことが残念でなりません。チェーンによって品揃えが変わるので、それを楽しむ機会が奪われてしまったわけですからね。康生さんが高校時代に通っていたスリーエフも、現在はローソンと提携して店名がローソン・スリーエフへと変わっています。

井上:想像以上に大手3社以外のコンビニは少ないんですね。

渡辺:商品に紐付いた購入は、店舗数の多さも大きな要因となっています。お子さんのお気に入り商品とは別に、康生さんご自身が「この商品を買いたいからこのチェーンに行く」というケースはありますか?

井上:僕はコーヒーが好きなので、ブラックの「ホットコーヒー」を飲みたいときはセブンで購入しています。ただし、たまに甘い物が飲みたくなって「カフェラテ」を購入するときだけは、セブンじゃなくてローソンやローソン・スリーエフと決めています。ブラックならセブンですが、ラテはローソン。好みの味を求めた結果、この選択に辿り着きました。

渡辺:商品によってチェーンを選ぶ人は多いですね。コンビニに行くペースは、週に何回程度でしょう。

井上:週2〜3回くらいです。現在、僕は東海大学で講義を行っているので、朝から予定が詰まっている日は通勤途中でコンビニに寄り、あとは仕事に専念…というパターンが多いです。その日、必要な買い物をコンビニ1店舗で済ますことで、仕事の効率化を図っている部分もあります。

渡辺:食品だけでなく日用品も扱っていますから、コンビニに行けばほとんど揃ってしまう。時間的なパフォーマンスは高いですよね。

井上:その通りです。さらに最近ではセルフのレジも増えていますし、より効率的に買い物ができていると思います。

コンビニに望むさらなるサービスは?

渡辺:これまで康生さんは国際大会などで海外に行く機会も多かったと思いますが、海外にいるからこそ、日本のコンビニの便利さを実感したことはありますか?

井上:海外ならではのお店、あるいは専門店の強みというものはあると思いますが、それを差し引いても日本のコンビニの便利さはとんでもないと思いますよ。

渡辺:365日24時間、全国5万8000店舗で食品や日用品が購入できる。イベントのチケットだって買えるし、ほかにも宅配便を送ったり受け取ったりもできるし、マルチコピー機では行政サービスにも対応している。そんな国はほかにないんですよ!…と、こんな話をした上で、あえて窺います。現状ですら便利なコンビニに、さらなる要求をするとしたら康生さんはどのようなサービスを望みますか?

井上:いや、これは難しい質問ですね…。

渡辺:これまでコンビニは消費者が望んだことのほぼすべてを叶えてきましたからね。実現していないのは全店舗に医薬品を置くことくらいです。

井上:医薬品で思い出しましたけど「氷嚢」かな?

渡辺:氷嚢ですか?

井上:以前、子どもが運動中に軽い怪我をしたことがありまして、氷嚢を探して近くのコンビニを回ったんです。でも、さすがに氷嚢は置いてなかったんですよ。

渡辺:たしかに氷嚢を販売しているコンビニはないですね。

井上:スタジアムなどのスポーツ施設の周辺にあるコンビニならば扱っている、といった可能性は考えられませんか?

渡辺:僕は聞いたことがないですね。ただ、そうした“局地的な仕入れ”というものは存在します。僕がローソンに勤務していた時代の話ですが、病院の横にある店舗で「白いストッキング」を販売していたことがありました。当時、その病院では女性の看護師が白いストッキングを着用していたので、彼女たちの要望を受けて置くことにしたんです。とは言え、これは珍しいケースです。

井上:そうですか…。では、氷嚢はあきらめて、コンビニで「ドライブスルー」というのはどうでしょう?

渡辺:ドライブスルーは考えたこともありませんでした(笑)。商品のピッキングに時間が掛かるので実現は難しいと思いますが、ユニークなアイデアです。代わりと言っては何ですが、宅配サービスは行われてますよ。セブンは「ネットコンビニ」、ファミマは「menu」、ローソンは「Uber Eats 」など、各社で対応店舗の拡充が進められています。

井上:なるほど。そう考えると、事前にアプリなどで注文して、受け渡しのみドライブスルーで行うのは可能でしょうか?

渡辺:それなら可能ですね。車の利用が多い地方の店舗などで実験的に試してみたら、コンビニの新たな可能性が見えるかもしれません。

(取材・構成/松本晋平)

井上康生(いのうえ・こうせい)
柔道家(七段)。1978年宮崎県生まれ。東海大学体育学部武道学科卒、東海大学文学研究科博士課程コミュニケーション学専攻満期退学。2000年シドニー五輪男子柔道100キロ級金メダリスト。2008年に現役を退いたのちに指導者の道を進み、2012年から2期9年にわたって柔道全日本男子監督を務める。現在は東海大学教授として教鞭を執るほか、NPO法人JUDOs理事長として柔道を通じた国際理解・交流にも尽力している。

渡辺広明(わたなべ・ひろあき)
流通アナリスト。コンビニジャーナリスト。1967年静岡県浜松市生まれ。株式会社ローソンに22年間勤務し、店長、スーパーバイザー、バイヤーなどを経験。現在は商品開発・営業・マーケティング・顧問・コンサル業務など幅広く活動中。フジテレビ『FNN Live News α』レギュラーコメンテーター、TOKYO FM『馬渕・渡辺の#ビジトピ』パーソナリティ。

デイリー新潮編集部