石油元売りの第3位・コスモエネルギーHD(以下コスモ)と村上世彰氏率いる「村上ファンド」の対立が明らかになったのは1月上旬のことだ。

 大手証券会社の石油業界担当アナリストが言う。

「もともとコスモの筆頭株主はUAEのアブダビ首長国の政府系ファンド・ムバダラ投資会社でした。約21%の株を握っていたのですが、昨年になって、全株を売却してしまった。村上ファンド(保有名義は『シティインデックスイレブンス』など3者)はそれをかき集め、昨年4月に約6%を持つ大株主として登場したのです」

 以後も同ファンドの買い増しは続き、昨年11月時点での保有率は19.81%。投じた資金は約570億円である。真意を測りかねたコスモ側は、村上氏側に20%以上の買い増しをしないよう求めていたが、注目すべきはその狙いだ。

「コスモの経営陣との話し合いで、村上サイドは当初“金儲けには興味がない。石油業界の再編を手助けしたい”と言っていたのです」(全国紙の経済部デスク)

一気に“戦闘モード”へ

 これには説明が必要だろう。村上氏は通産省(現経産省)時代、石油業界を担当したことがある。元売り業者が乱立していた頃だ。その経験から、石油元売り会社は2社で充分と村上氏は考えるようになったという。実際、5年前に持ち上がった出光興産と昭和シェル石油との統合問題では、反対する出光の創業家に持論を説いて、統合を納得させた経緯がある。

「言うなれば、業界3番手のコスモは存在意義が薄いというのが村上サイドの真意なのでしょう。1月6日の話し合いでは、洋上風力発電など将来性のある事業を否定し、今度は株主還元の話ばかり。もちろん、コスモ側としては受け入れられない要求です」(同)

 業を煮やしたのか、村上氏側はここで20%以上の株を取得すると通告。これに対してコスモ側は第三者の株主に新株予約権を与えるなどの買収防衛策(ポイズンピル)を決議、両者は一気に“戦闘モード”に入る。

 気になるのは、今回、村上氏が政治力も匂わせていることだ。

「話し合いでは村上氏自身や、経産省の大物事務次官経験者をコスモの社外取締役として入れることを強く求めています。経産省の黙認があるとも受け取れる提案でした」(同)

 業界再編と金儲けのどちらが本当の目的なのか。それとも両方狙っているのだろうか。

「週刊新潮」2023年1月26日号 掲載