1月16日に実施された値上げによって、日本のマクドナルドで販売されるビッグマックの価格は410円から450円となった。小さくない衝撃を持って受け入れられた新価格だが、他の国々と比べればまだまだ「安い」。ニュースで時折耳にする「ビッグマック」指数をどう理解すればいいのか。経済アナリストの馬渕磨理子氏とマーケティングアナリストの渡辺広明氏が解説する。(※本稿は『ニッポン経済の問題を消費者目線で考えてみた』(フォレスト出版)の一部を再編集したものです)

日本のビッグマック価格は新興国レベル!?

渡辺広明(以下、渡辺): 各国の経済力を示すユニークな指数として「ビッグマック指数」というものがあります。
マクドナルドの人気商品の1 つであるビッグマックは、どの国でもほとんど同じ品質でつくられています。ということは、各国のビッグマックの価格を比較すれば、それぞれの購買力が見えてくるのではないか……という理屈です。
 ビッグマック指数は英誌エコノミストが発表している指数で「その国のビッグマックの販売価格÷ アメリカのビッグマック販売価格」から算出した対ドル購買力平価を、為替レートや実体経済などと比較します。……と言葉で説明してもわかりづらいですよね。

馬渕磨理子(以下、馬渕): もともと知っている人は大丈夫だと思いますが、初めて聞く人にはピンと来ないですよね。

渡辺: そうですよね。というわけで、主要国のビッグマック価格を円換算で計算してみましたので、図をご覧ください。馬渕さん、いかがでしょうか。

馬渕: これはわかりやすいですね。“勘違いしやすい感想”としては「他の国のビッグマックは高いなぁ。日本は安くて良かったなぁ」でしょうか。

渡辺: ありがとうございます(笑)。そうなんですよ、最初に説明しましたが、ビッグマックはどの国でもほとんど同じ品質でつくられていて、これは「購買力が見える指数」です。
日本人は、日本ならば450 円で買えるけど、スイスに行ったら943 円を払わなくてはいけない。でも、現地のスイス人は943 円を高いと感じない。なぜなら、彼らにとってはそれが「適切なビッグマックの価格」だからです。
要するに「日本は先進国のハズなのに、新興国のような価格なんです」ということです。

馬渕: 長引く不況によって平均賃金がなかなか上がらなかったから、価格を上げられずにデフレが続いていたんですね。

渡辺: ちなみに、近年では「iPhone 指数」というものも発表されています。こちらはポーランドのクーポンサイトPicodi が公表している指数で、「iPhone14 Pro(128GB)を購入するのに働かなくてはいけない日数」です。

馬渕: スイスは4.6 日、アメリカは5.7 日働けばiPhone を購入できますが、日本は11.9 日かかるわけですね。

渡辺: でも、iPhone の価格を見ると、ビッグマックと同じく先進国と比較してかなり安いんですけどね。

ついに上がり始めた日本の物価

渡辺: ビッグマックは2022 年9 月に390 円から410 円になったのに続き、2023年1月16日に450円になりました。他にも、2022 年は円安やエネルギー価格の上昇の影響を受けて、多くの商品が値上がりしました。

馬渕: 帝国データバンクによれば、2022 年に値上げした商品は食品だけでも2 万品目以上で、平均値上げ率は14%とのことです。各企業が価格を抑えることが限界に来ていて、価格を上げざるを得ない状況に陥っていますね。

渡辺: 国力と価格が見合わないままだったのが、平成だったんでしょうね。高くなったのではなく、適切な価格に上がろうとしているんですよ。

馬渕: 賃金アップを明言している企業は多いですが、物価の上昇ペースに追いつくのはまだ先でしょうね。

渡辺: 踏ん張りどころなんですよ。家計を圧迫されている人たちは、国の補助や給付を余すことなく利用しながら耐えて、余裕のある人たちはその分消費して経済を回さなくてはいけない。
自分で言っておいて何ですが、厳しい話です。

CPIを正しく理解する

馬渕: 2022 年の相次ぐ値上げで「消費者物価指数(CPI)」という言葉を何度も聞いたと思いますので、せっかくだから解説しておきましょう。

渡辺: お願いします。

馬渕: CPI は、私たち消費者が購入するモノやサービスなどの物価の動きを示す指標です。総務省が毎月発表していて、基準となる年の物価を100 として算出する他、前年同月比や前月比も算出されます。たとえば、2020 年の「総合CPI」を100 とした場合、2022 年10 月の総合CPI は103.7、前年同月比3.7%上昇、前月比0.6%の上昇という具合です。

渡辺: 「総合CPI」ということは、他にも何かあるんですか?

馬渕: 日本のCPI は、主に総合CPI、コアCPI、コアコアCPI の3種類の指数があります。
総合CPI は全体の物価を示したもので、コアCPI は総合CPIから生鮮食品の物価を除いた指数で、コアコアCPI は総合CPI から生鮮食品とエネルギーの物価を除いた指数です。生鮮食品やエネルギーは変動幅が大きいので、これらを除いた数字も把握するため、コアCPI やコアコアCPI があるんです。
ちなみに、アメリカのCPI は「総合CPI」と「コアCPI」の2 つの指数で、アメリカのコアCPI は生鮮食品とエネルギーを除いた指数です。

渡辺: 日本とアメリカでコアCPI が異なるということですか?
馬渕: そうなんですよ。「アメリカのコア」は「日本のコアコア」なんです。わかりづらいですよね。でも、今は日本もアメリカもCPI に関するニュースが多いですから、この違いを覚えておくだけでも理解度が大きく変わりますよ。

馬渕磨理子 (まぶち・まりこ)
日本金融経済研究所代表理事/経済アナリスト。ハリウッド大学院大学客員准教授。公共政策修士。京都大学公共政策大学院修士課程を修了。トレーダーとして法人の資産運用を担った後、金融メディアのシニアアナリスト、FUNDINNO で日本初のECF アナリストとして政策提言にかかわる。またIR(インベスター・リレーションズ)について大学と共同研究を行う。現在、経済アナリストとして、フジテレビの夜のニュース番組「FNN Live News α」読売テレビ「ウェークアップ」のレギュラーコメンテーターをはじめ、各メディアでの出演多数。経済アナリストの知見を活かしたセミナーや講演会も好評を博している。ポリシーは「自分の意志で人生の選択ができる世の中を」。誰もが自分の価値観でしなやかに生きることができる社会を目指して活動中。著書に『5 万円からでも始められる! 黒字転換2 倍株で勝つ投資術』(ダイヤモンド社)、『京大院卒経済アナリストが開発! 収入10 倍アップ高速勉強法』(PHP 研究所)などがある。

渡辺広明 (わたなべ・ひろあき)
マーケティングアナリスト。流通ジャーナリスト。1967 年静岡県浜松市生まれ。東洋大学卒業後、株式会社ローソンに22 年間勤務し、店長・スーパーバイザーを経て、約16 年間バイヤーを経験。コンビニバイヤー・メーカー勤務で約770 品の商品開発を行なった経験をもとに「FNN Live News α」「ホンマでっか!?TV」(以上、フジテレビ)のコメンテーターとして出演中。その他に、静岡県浜松市の親善大使「やらまいか大使」就任。ニュース番組・ワイドショー・新聞・週刊誌などのコメント、コンサルティング・講演など幅広く活動。2019 年3 月、( 株) やらまいかマーケティングを設立。なお、共著者・馬渕氏とともに、Tokyo fm「馬渕・渡辺の#ビジトピ」のパーソナリティも務めている。著書に『コンビニが日本から消えたなら』(ベストセラーズ)などがある。

デイリー新潮編集部