人気漫画「ゴールデンカムイ」の実写版映画キャストが先日発表された。実写化と聞いた時点で不安を抱えていた原作ファンのひとりだが、玉木宏さんと舘ひろしさんのWひろしのビジュアル完成度に、ちょっとワクワクしてしまった。
全てのキャラに熱狂的なファンがついているだけに、役を背負う俳優陣たちも苦労していることだろう。しかし、主役の杉元佐一役の山崎賢人さんはどうにも線が細いという印象が否めない。「不死身の杉元」と呼ばれ、鬼神のような大立ち回りを見せるキャラとしては、見た目の迫力やにじみ出る男臭さに欠けるのだ。そして何より「ゴールデンカムイ」は、ギャグ要素が肝心なだけに、山崎さんには少々荷が重いのではないだろうか。
数々の実写版で主役を演じてきた山崎さんに対しては、さすがに「またか」の声も上がっている。上映中の「キングダム」シリーズでも主演とあって、イメージが混乱するという反応も少なくない。迫力あるセットや戦闘シーン、共演者たちの熱演もあって大ヒットを記録した「キングダム」だが、キャスト発表時には「山崎さんで大丈夫か」と冷めた目で見られていた。
端正な容姿と178cmの高身長、29歳の今も少年のような透明感。山崎さんは、恋愛漫画の王子様そのものである。だからかつては少女漫画の実写版に引っ張りだこだった。「L・DK」「ヒロイン失格」「オオカミ少女と黒王子」「四月は君の嘘」……剛力彩芽さんや二階堂ふみさん、広瀬すずさんら、人気の若手女優を相手にイケメン役を好演。同世代の女性たちは夢中になった。
しかし少年漫画の実写版では、「キングダム」まで苦戦が続いたのではないか。ドラマ「デスノート」でのL役や、「斉木楠雄のΨ難」の斉木楠雄役などは支持されたとは言い難い。とりわけ「ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章」の東方仗助役への抜てきは、賛否の両方を呼んだ。映画レビューサイトも低評価が多く、興行収入は目標としていた10億円に一歩届かず。前月に封切られた小栗旬さん主演の実写版「銀魂」が公開初週から興行収入9億円を突破する好スタートを切っただけに、明暗がくっきりと分かれてしまった。
誰がやっても批判がつきない実写版。しかし山崎さん以上に起用が多いのが、ジャニーズタレントたちではないだろうか。
少女漫画の実写化はジャニーズ一強 映画界で増え続ける実写版コンテンツのうまみと「人材難」
映画料金も高くなって、自宅で見られる配信コンテンツも増えた。動員に悩む映画界で、実写版コンテンツのうまみは大きいはずだ。「キングダム」や「東京リベンジャーズ」の大ヒットは、それを知らしめたことだろう。少女漫画の実写化も毎年のように続いており、今年3月の「わたしの幸せな結婚」は興行収入30億円に迫る大ヒットを記録した。
2023年下半期も、漫画実写化の波は止まらない。「Gメン」「OUT」「僕らの千年と君が死ぬまでの30日間」「カラオケ行こ!」「君は放課後インソムニア」……往年の名作「沈黙の艦隊」「翔んで埼玉 〜琵琶湖より愛をこめて〜」にも期待がかかる。
小説原作を含めればもっと多い。しかし出演俳優を見ると、ジャニーズの多さに目を見張る。上半期も含めると、恋愛ものはジャニーズ独占状態だ。「わたしの幸せな〜」の目黒蓮(Snow Man)さん、「なのに、千輝くんが甘すぎる。」の高橋恭平(なにわ男子)さん、「おとななじみ」の井上瑞稀(HiHi Jets/ジャニーズJr.)さん……。
ティーン向け恋愛映画なら、10代後半から20代の美男子が必要だ。まさに売り出し中のジャニーズたちの世代である。演技もできるイケメンを、一からオーディションする体力を持たない現場にとっては重宝されるのもうなずける。
少年漫画も、年齢の壁は大きい。実写版で定評のある藤原竜也さんや山田孝之さんらはもうアラフォー、菅田将暉さんも30歳を迎えた。実写化はしたいが、「若手人材難」の時代。ジャニーズや山崎さん頼みになってしまうということなのだろう。
ただ今後はどうなるかわからない。ジャニーズ事務所問題が依然注目を集めている今、「ジャニーズ」を背負うタレントの起用に、不安を示すスポンサーが出るかもしれない。特に、未成年との恋愛がテーマの場合は気を使う。そうなると再び、非・ジャニーズで実績のある山崎さんや、北村匠海さん、新田真剣佑さんらに主役が集中する流れに戻っていくことはおおいに考えられる。
飽き飽きしているのは俳優側も同じ? 山崎さんの作品選びに見る「実写版俳優」のジレンマ
そもそも実写版映画への出演は、メリットばかりとも言い切れない。王子様役が続いた山崎さんのように、「実写版俳優」と印象が固定されるデメリットが生じる。あれだけ待望された鈴木亮平さんの名前が「ゴールデンカムイ」に無いのも、そういう理由かもしれない。
だから山崎さんは、役柄の幅を広げるチャレンジをしているようだ。「キングダム」でのアクションもしかり、テレビドラマ「グッド・ドクター」では、自閉症スペクトラム障害とサヴァン症候群を抱える研修医という難役に挑んだ。NETFLIX「今際の国のアリス」では不条理なゲームに巻き込まれるインドア派の青年に、又吉直樹さん原作の映画「劇場」では無精ひげを生やした“ダメ男”に。実写版に抜てきされる面々が同じという批判の裏には、知名度アップとイメージ固定のジレンマに悩む若手俳優たちの苦悩も透けて見える。実写版に飽き飽きしているのは、視聴者より山崎さんら俳優の方かもしれない。
また、一口にジャニーズ起用が悪とも言い切れない。「ゴールデンカムイ」の杉元役で見たかった役者として多く名前を見たのは、元TOKIOの長瀬智也さんだった。体格にも恵まれたイケメンというのは山崎さんと同じだが、コメディーセンスの良さも評価されたのではないだろうか。宮藤官九郎さん脚本の「池袋ウエストゲートパーク」「タイガー&ドラゴン」などでの演技は人気を博し、「王子様」という模範的なジャニーズのイメージにとどまらない、ワイルドで豪快な雰囲気は同性からの好感度も高かった。
これからの山崎さんには長瀬さんを超える男気とコメディー力が問われるのは確かだろう。実写版頼みと「人材難」を抱える日本映画界を支え、実写版やりすぎという批判にも耐えている姿勢には頭が下がるばかりだ。ここ最近は、NETFLIXなど世界配信作品への出演も目立つ。ハリウッドでも実写版主演を勝ち取った真剣佑さんもいるだけに、海外に“金脈”を見すえているのかもしれない。
冨士海ネコ(ライター)
デイリー新潮編集部