今年は落語界で大きな節目が続く。“昭和の名人”こと古今亭志ん生の没後50年をはじめ、志ん生の長男・十代目金原亭馬生の没後40年、次男・古今亭志ん朝の二十三回忌、さらには志ん生の直弟子だった古今亭圓菊の十三回忌が到来するからだ。

「そんな中、7月に落語界に4人目の人間国宝が誕生しました。芸歴55年の五街道雲助(75)です。平成21年に文化庁芸術祭で優秀賞を受賞し、平成28年には紫綬褒章を授与された正統派名人の一人です」

 と言うのは落語担当記者。

「鬼籍に入った名人たちの死にまつわる話とは対照的に、こちらは久々にもたらされた朗報。落語界を挙げて盛り上がっていいはずが、どうにもイマイチで……」

以前ほど盛り上がらない理由

 噺(はなし)家で初となる人間国宝は、平成7年に認定された柳家小さんだ。翌8年には上方落語の桂米朝が、平成26年には小さんの弟子である柳家小三治(いずれも故人)が栄誉に浴した。

「三人が選ばれた当時、小さんや小三治は落語協会の会長という要職にあった。米朝も、一時は“絶滅寸前”といわれた上方落語を復興させた大功労者との評価が定着していました」

 当代一流の話芸に加えて、落語界への大きな貢献。そんな背景も相まって、当時は国民的なお祭りムードに。

「雲助だって江戸の粋を体現した高座に定評がある。立川談志が“雲助の落語には江戸の風を感じる”と一目置いたほどですが、一般的な知名度に乏しい。そのせいかどうか、以前のようには盛り上がらない」

他に4人の有資格者が

 昭和23年に東京・墨田区で生まれた雲助は、明治大学を中退して十代目馬生に入門した。人情噺から滑稽噺、怪談噺と幅広い演目に果敢に挑み、「名人長二」「双蝶々」など、40作もの埋もれていた古典噺を復活させたことでも知られる。弟子にも恵まれ、最近も桃月庵白酒(54)、隅田川馬石(54)、蜃気楼龍玉(50)が活躍中だ。

「記者会見では“私でいいのかなあ。なんせ雲助(かごかき)ですから”と自嘲気味に笑いを誘いました。どこか本人も、人間国宝という評価に戸惑いを感じている様子でしたね」

 3人目の人間国宝となった小三治の死去は令和3年。以来、落語界では4人目の候補を巡り、多くの噺家の名が取り沙汰されてきた。

 さる落語評論家が言う。

「過去の三人は認定の前に、文化庁が主催する芸術祭や芸術選奨で賞を得ていたほか、ミニ文化勲章といわれる紫綬褒章も受章していました。前例に倣うなら、雲助だけでなく、桂文枝(80)、柳家さん喬(75)、立川志の輔(69)、春風亭小朝(68)らも有資格者だったんです」

落語界のバランスへの配慮

 ところが、文枝は過去の愛人問題がネックとなり、志の輔と小朝は年齢的に“若い”と見なされたという。

「というワケで、落語界ではさん喬と雲助が有力候補とみられていたのです」

 結果、選ばれたのは雲助。その背景には、落語界におけるバランスへの配慮があったという見方もある。

「さん喬の師匠は小三治と同じ小さん。この三人は同じ一門なんです。だから、“4人目は違う亭号からでは”との予想が多かった」

 9月には新宿・末廣亭で、冒頭に挙げた4人の追善興行が行われる。

「〈古今亭志ん生没後五十年追善興行〉を謳う中席の公演チラシには〈祝 五街道雲助 人間国宝認定〉との文言もあります。雲助は前半(11〜15日)に昼の部でトリを務める予定ですよ」

 久々に生きた最高峰の話芸を堪能できそうだ。

「週刊新潮」2023年9月7日号 掲載