9月7日(木)に行われたジャニーズ事務所の記者会見。テレビ各局は4時間12分に及んだ記者会見を臨時特番や情報番組、ニュース番組の中で生中継した。その後の夕方・夜のニュース番組では収録映像としても放送した。翌日も、その翌日も……と、ジャニーズ事務所の東山紀之新社長や藤島ジュリー景子前社長、井ノ原快彦ジャニーズアイランド社長と記者たちとの言葉のやりとりを放送した。特に土日の情報番組では各局ともトップニュースでこの会見について特集した。【水島宏明/ジャーナリスト・上智大学文学部新聞学科教授】

 日本の「芸能史に残る記者会見」とされた記者会見で、ジャニーズ事務所は正式に性加害を認めた。これを受け、再発防止対策や被害者への賠償、救済やケアなどの人権保護の姿勢を確認するまでは、CMのスポンサー企業にジャニーズ事務所所属タレントとの契約打ち切りや新規契約見送りの動きも広がっている。ジャニーズ性加害問題当事者の会など被害者側が日弁連に人権救済を申し立てたことなどが連日報道され、ニュースでは「ジャニーズ事務所の記者会見」の映像が毎日のように放送されている。

 これまでジャニーズ事務所の性加害については、ジャニーズ事務所の本社ビルの建物と藤島ジュリー景子前社長が5月に発表した謝罪動画しか使える動画がない状況だったので、記者会見の映像が一気に加わって報道しやすい状況になった。

 記者会見以降の1週間、テレビ各局はジャニーズ事務所の記者会見をどのように報道したのか。特に「マスメディアの沈黙」ともいわれる、この問題の報道に対して忌避あるいは消極的な姿勢。それはどうなったのか。それぞれの局がどのように総括しようとしたのかを検証したい。

TBS 週末に「ジャニーズ会見」一色で“マツリ”の様相

 ジャニーズ事務所の記者会見について、その後も一番熱心に報道した局はTBSだったと言っても過言ではない。土曜(9日)の「報道特集」、「情報7daysニュースキャスター」(以下、「ニュースキャスター」)、日曜(10日)の「サンデーモーニング」、「サンデー・ジャポン」、「アッコにおまかせ!」(以下、「アッコ」)など、報道番組、情報番組、トーク・バラエティー番組でジャニーズ会見を冒頭からこれまで以上に長く報道した。この1週間地球上で起きた最も重要なトピックとして、どちらというと国際ニュースが冒頭に来ることが多い「サンデーモーニング」でも、トップ項目はジャニーズ会見映像が流れ、寺島実郎氏や浜田敬子氏、青木理氏がいつもより長めにコメントした。

 調査報道には定評がある「報道特集」は、ジャニーズ性加害問題検証の第4弾としてジャニーズの熱心なファンたちが会見をどのように見届けたのかを密着取材する特集を放送した。

 筆者が驚いたのは、和田アキ子氏とお笑い芸人らがいろいろな話題を話していく生放送バラエティー番組の「アッコ」で1時間15分の放送時間のほぼ100%がジャニーズ会見だったことだ。同じくトーク・バラエティー番組の「サンデー・ジャポン」でも冒頭から全体のおよそ70%がジャニーズ記者会見のテーマで費やされた。芸人たちは「メディアの沈黙」について忖度があったのかどうかや「ジャニーズ事務所」の名称を存続させるべきかについて大真面目に議論していた。

 なかでも筆者の心に残ったのは安住紳一郎アナが司会を務める「ニュースキャスター」だった。

 冒頭から全体の3分の1以上、23分にわたってジャニーズ性加害について放送した。

 この中では1989年に元フォーリーブスの北公次さんがジャニー喜多川氏やメリー喜多川氏を名指して「お前ら、悪いことばっかりやっていて罰を受けない」と強い言葉で非難する映像も放送した。さらに再発防止特別チームが指摘した「マスメディアの沈黙」についても、安住アナが素直に認める発言をした。

 2004年にジャニー喜多川氏による性加害を真実と認めた東京高裁の判決が確定したニュースについて安住アナは「TBSも当時、結果を報じていません」と自分たちの不作為を認めた。

 安住アナは今年3月にBBCがドキュメンタリーでジャニー氏の性加害を報じた際もすぐに番組で放送しなかったのも「忖度だった側面は十分にある」と認めた。たとえ話だとしながら「私自身、簡単なインタビューでも『そのことは聞かないでほしい』『あのことは触れないでほしい』と事前に言われることもあり、もしその約束を守らなければ次からはこちらの依頼に応えてくれない。そういう損得勘定で仕事をしている部分があります」と忖度してふるまっている自分のこれまでを素直に打ち明けた。

 TBSはニュース番組の「news23」でも小川彩佳キャスターがジャニーズ性加害問題を伝えてこなかった自分たちを自省するコメントを繰り返していて、ジャニーズ事務所が正式に加害を認めた衝撃や「沈黙」について反省する姿勢がTBSで放送される様々な番組に表れていた。

日テレ 「バンキシャ!」でも新たな性被害の被害者について報道

 日本テレビはジャニーズ性加害問題で早い段階から「男性が男性から被害にあう性被害」について認識を改めることが重要だという姿勢を示し、ジャニーズ事務所で性加害があったかどうかだけでなく、男性による少年に対する性加害の実例を率先して取り上げてきた。

 日曜朝の情報番組「シューイチ」では番組のコメンテーターである中丸雄一氏(KA-TUN)が所属タレントとして記者会見を見た感想を話した。

 ジャニーズ事務所という社名を残すという判断が示されたことについて中丸氏は次のように語った。

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(中丸雄一)
「客観的に見ると、明らかに(社名を)変えていくのが妥当な道だと思うんですけど、あえてジャニーズ事務所は“茨の道”を現時点では選んだ、と受け取っています。(中略)この件に関してはコメントを控えたい」
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 ジャニーズ事務所の記者会見の後で最初の放送回になった9月10日の「真相報道 バンキシャ!」では新たな性虐待の被害者として元ジャニーズJr.の長渡康二さん(40)が証言した。13歳の頃、性加害の被害をマネージャーに相談したら「ここで言うな」と人がいないところまで連れていかれて、「やったらいいじゃん。だって、(やったら)いろいろ(テレビ番組や舞台などに)出られるじゃん」と言ってきたという。この話題については口にしてはいけないと感じた長渡さんは以後、誰にも相談ができなくなってしまったという。橋田康さん(37)も相談できる大人がいなかったという。「相談できる大人がいたのか」という視点でこの日の「バンキシャ!」では孤立無援でジャニー氏やメリー氏に「やめろ!」と叫び続けた北公次さんによる1989年の告発ビデオを流した。

 メインキャスターの桝太一氏は「テレビに足りなかった視点」を言葉にしてコーナーを締めくくった。

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(桝太一キャスター)
「社会に議題を設定して広く問いかける役割を与えられているのがテレビというメディアです。今後、変わったと証明できる最大の方法は結局のところ、実際に伝える内容、問いかける内容が変わっていくことにあると思います。今回のことに限らず、これまでテレビに足りていなかった視点ははっきりあると私は思っています。変わったということがみなさんに伝わる放送になっていくよう、今後、私個人も含めて取り組んでまいります」
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フジテレビ 「Mr.サンデー」で他局に追いつき、谷原章介も橋下徹も……

 ニュース番組での扱いを見る限り、フジテレビはジャニーズ事務所の性加害問題の報道にこれまであまり熱心だったとは言い難い。それがジャニーズ事務所の記者会見の当日には、東山新社長や藤島ジュリー景子前社長らの会見映像を他の局より長く使って報じていた。もともと災害報道や事件報道に定評がある一方で綿密な調査報道は苦手な印象があるテレビ局だ。ジャニーズ性加害問題では、先行するTBSや日テレに追いつくべく、「後追い取材」を堂々と重ねている印象がある。まず9月10日(日)の「Mr.サンデー」ではジャニーズ事務所の記者会見を迎えるまで苦労を重ねてきた被害者とその家族を取材した。70年前にジャニー喜多川氏から性被害を受けたことを明かした俳優・服部吉次さん(78)の妻で女優の石井くに子さん(74)の訴えを報道した。

「私だって服部(夫)が(性被害を)言ってから何回も吐き気がしているし、食欲はなくなるし、胸は痛いし……」と記者たちの前で性被害にあった男性の家族としてのつらさを怒りのあまり叫ぶ場面を放送した。

「これ以上、いじめないでよ。わなわなきて、私も血圧が上がっちゃったのよね」

 そう語る石井くに子さん。その夫の服部吉次さんは8歳でジャニー喜多川氏による性被害にあった。服部さんの父親は著名な作曲家の服部良一氏。「東京ブギウギ」などの数多くのヒット曲を生み出して国民栄誉賞を受賞した人物だ。服部家はかつてジャニー氏と家族ぐるみのつき合いがあったが、家に泊まりに来ていた当時19歳のジャニー氏によって8歳の時に性被害を受けたことが今も深い傷になっているという。服部氏夫妻は以前、TBS「報道特集」にも登場している。「Mr.サンデー」は妻の石井くに子さんに焦点を当てながら、被害者本人のそばにいる家族も苦しんでいる実態を伝えた。元ジャニーズJr.の二本樹顕理さんも登場したが、彼も以前TBSや日本テレビなどの取材を受けた被害者の一人だ。二本木さんから「妻との性交渉の時にも(ジャニー氏による加害行為を)思い出してしまう」という言葉を引き出すことで、家族の苦悩も間接的に伝えようとしていた。

 元ジャニーズJr.で13歳の時に性被害にあったという橋田康さんにも「人と触れ合うことも怖かったりだとかそういう時期も本当にあって苦しかった」という話を聞いている。

 さらにイギリスの大物司会者で死後に50年以上にわたって10歳未満の子どもを含む男女に200件以上の性加害を行っていた事実が発覚したジミー・サビル氏の事件についても映像を交えて報道した。服部さん夫妻も二本木さんも橋田さんも、テレビで最初に取材して放送したのはTBSだった。サビル氏の事件も最初はTBS「報道特集」の特集で紹介された。

 フジの「Mr.サンデー」は、これまで先行した局が取材してきた人たちを(被害者本人だけでなく、家族など周囲にも性被害の後遺症で苦しめられたという)「少し違う視点で」報道しようとしたのだった。

 ジャニーズ事務所の記者会見を受けて、フジテレビはそれまで先行していたTBS、日テレの「後追い」であることを承知の上でどうにか追いつこうと必死に素材を集めて報道している印象がある。

 フジで日曜日の朝に国際情勢などを政治家らと語り合う報道番組「日曜討論 THE PRIME」も9月10日の放送でキャスターの橋下徹氏が番組の最後に提言した。

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(橋下徹)
「国際社会からの視点を考えた時に社名をそのまま維持するというのはどうなのか。(中略)これはファンに支えられているということがあったとしても、国際社会的にはジャニーズという名前を残すことは許されないと思うし、グローバルな企業の株主も許さないと思う。民間企業としての企業再生の原理原則からはこういう場合には社名を変更するのが原理原則です。藤島ジュリー景子前社長が100%株を所有し続けるということも多くの企業は許さないところがあると思います。テレビ業界はジャニーズ事務所とのつき合いでいろいろな事情があるのでしょうけど、日本社会を変えていくという視点でテレビ局も考えてもらいたい」
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 トーク・バラエティー番組「ワイドナショー」では芸人たちがジャニーズ事務所の会見について感想を語りあった。これは本音のトークが混じって味わい深い。

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Qジャニーズ事務所の会見を見た感想は?
(田村淳)
「新しく会社を建て直すという視点では、僕はやっぱり覚悟が見受けられないなと思いました。社名変更は必ずすると思っていたので……」

<東野幸治>
「僕も思っていました」

<高橋真麻>
「私だったらタレントが所属する事務所は外部資本にして新しく開設して、そこにタレントを移す。ジャニーズの名前を残したいんだったら、被害にあった人たちを救済する組織としてジュリーさんと東山さんはそちらに特化されたほうが、(組織を)分けた方がいいのでは?」

Q「メディアの沈黙」については?

(東野幸治)
「ジャニーズ事務所の性加害についてのワイドショーでの取り上げ方とか、少しずつ少しずつ長くなって、この『ワイドナショー』でもこれぐらい(両手の幅を広げて)、たくさんしゃべれるように……」

(田村淳)
「(今は)しっかりとしゃべっていますよね」

(東野幸治)
「1週間前に(再発防止特別チームから)『メディアの沈黙』と言われたわけですが、それは感じますか?」

(田村淳)
「1週間前にメディアの沈黙のことを第三者委員会(注・特別チームのこと)が言った時に『自分も当事者だな』と思いました。だって噂とかあったもの……。それを噂だけにしちゃって、どこかすごいリアリティーのある噂なのに……踏み込まなかった自分を恥じますし……」

(高橋真麻)
「メディアにいた一員としても、なんとなく会社がそういう方針だったら、一社員としてはそれに乗っかるしかなかった、というのは反省していますが、今回の件はBBCが最初一報を報じた時もほとんどどこも取り上げずで……。ことがだんだん大きくなっていくから、各社なんとなく横を見て、足並みを揃えて放送時間を延ばしていって……、というのがまさにそれ(メディアの沈黙)を体言しているなあと思います」
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 タレントたちが言うように、性加害問題は少しずつ少しずつ(テレビでも)話せる話題になっていった。そうしたトークで自分たちのことをふり返りながら“忖度”について話ができるようになってきたのは健全なことだ。

 いかにもお笑い番組を大事にしてきた局らしく、笑いを交えて「メディアの沈黙」について語っていこうという姿勢なのはフジらしいのかもしれない。

テレビ朝日 テレ朝の呪いは解けず? “報道の雄”なのに腰が重いのはなぜ?

 音楽番組「ミュージックステーション」でジャニーズ事務所のタレントを長い間、起用する一方、他の競合しそうな事務所のタレントやジャニーズ事務所から独立したタレントは起用しないなど露骨なキャスティングが続いたと批判されているテレビ朝日。ジャニーズ事務所の東山新社長がいくら(忖度したキャスティングなどは)「必要ないと思います」と言ったところで、長年のジャニーズ事務所との深い関係や忖度はそう簡単に解消できないのだろうか。記者会見当日の「報道ステーション」は記者会見の映像を編集した「必要最小限」程度にとどめている印象だった。被害者側についても「ジャニーズ性加害問題当事者の会」のメンバーの記者会見に加えて橋田康さんの独自インタビューを交えて報道した。

 TBSや日テレなどがかつて被害を訴えていた北公次さんの告発映像や新たな性被害者の証言などを積極的に取材して放送した中では、一番省力化して報道していた印象だった。

 看板情報番組の「羽鳥慎一モーニングショー」や「大下容子ワイド!スクランブル」でもジャニーズ事務所の記者会見の後に特集したのは1回のみ。さらに週末の情報番組・報道番組でも新社長の東山紀之氏が前週までキャスターを務めていた「サンデーLIVE!!」の冒頭で代役の野上慎平アナが「東山さんはジャニーズ事務所の社長に就任されまして番組降板のお申し出がありましたので本日は私が務めさせていただきます」とスタジオでコメントしただけで、ジャニーズ事務所については記者会見の映像を登場させるわけでもなかった。

 驚いたことに「今週の注目のニュース」でもジャニーズ事務所が記者会見したニュースを入れていなかった。メインのキャスターが急きょ社長に就任して降板したとはいえ、週に一度の情報番組の中でこれほど大きなニュースの映像さえも扱わないのはなぜなのだろう。

 不自然さだけが残るテレビ朝日の対応ぶりだ。以前、筆者が指摘した“テレ朝の呪い”はやはり簡単には解けてはいないようだ。

NHK 「クローズアップ現代」でテレビが沈黙した理由を検証

 NHKには民放の情報番組のように報道的なテーマについて、スタジオで議論しながら問題のありかを考えていく番組はほとんどない。ニュースではジャニーズ事務所の記者会見や被害者側の会見、それぞれの動きなどをその時々で断片的に伝えることが大半だ。ジャニーズ事務所の性加害については再発防止特別チームが「マスメディアの沈黙」だと指摘したが、報道機関が本来果たすべき役割と責任を果たせなかった面がある。

 なぜそうなったのか。商業放送ゆえによりNHK以上に視聴率に左右されがちで、多数の売れっ子タレントを抱える大手芸能事務所の顔色を気にする民放テレビ局も公共報放送のNHKも、ともにジャニーズ事務所の性加害の問題で「沈黙」していた。そこに何があったのか。そうした自分たちテレビのあり方を検証しようとする動きを見せたテレビ番組があった。

 NHKの「クローズアップ現代」だ。9月11日の放送ではNHKと民放の報道と芸能関係の幹部だった現役職員と元職員、計40人に調査した結果を伝えた。ジャニー喜多川氏の性加害を認めた東京高裁の判決が出て、最高裁で確定した2003年と2004年にはニュースなどできちんと報道することができたはずだと当時、NHKと民放の報道や芸能部門で幹部だった人物を取材することにしたという。

 民放キー局で報道・情報番組でプロデューサーや解説者を務めた吉野嘉高氏は番組のインタビューに応じ、「ジャニーズには触れない」「ジャニーズネタは扱わない」という姿勢を「打算的に条件反射で覚えていった」と語る。

「ペン(報道)かパン(利益)かの選択において、結果的にはパン(利益)のほうを選択してしまった」と。

 NHKで「紅白歌合戦」を統括する歌謡・演芸番組部長を務めた大鹿文明氏はジャニーズ事務所での“性加害”について「マスコミが加担したのではないかと言われることには責任を感じる」としながらも、当時、ジャニー氏は「未成年に対して許せないことをやっていたという意識は薄かった」とする。

「裁判を理由に『ジャニーズの起用をどうしようか」と言えば、『お前、おかしいんじゃないの?』と言われるような時代だった」という証言(NHKの元音楽番組プロデューサー)やジャニーズが使えなくなったら、ドラマも止まり、番組ができなくなる。どうするのか。考えるまでもなくNOだ(民放元編成幹部)という証言。さらに「番組を横断して調整する“ジャニ担”という御用聞きが局内にいて、その人物以外はジャニーズの話題に触れてはいけないし、マネージャーに電話すらできない状況だった。もしクビ覚悟で取材できたとしても、放送はできなかったと思う」という証言(元民放テレビ・報道番組プロデューサー)もあった。

 桑子真帆キャスター自身も「報道番組として30年前から放送してきたこの『クローズアップ現代』でも取り扱ってきませんでした」と述べたが、現役職員や元職員らに聞き取ったメモを背景に立って「こうして見ますと、ドラマやエンターテイメント部門では問題に向きあおうとせず、報道では性被害や芸能界で起きることへの意識の低さがあった」と振り返った。

 番組では「人権とビジネス」についてくわしい弁護士が「番組の検証はまだまだ突っ込み不足」だとして、第三者委員会を設置するなど、組織の体制の問題を徹底的に究明する事実調査が必要だと指摘した。

 NHKや民放問わずにテレビ局の責任ある立場の人間を取材してそれぞれの意志決定(なぜ沈黙したのか)について明るみに出したのは今回が初めてで画期的な番組だった。今回は裁判の判決が高裁で確定した2003年、2004年前後の番組の責任者に絞って調査を行っただけだが、もっと広い範囲で調査を続けていけば、もっと明確に「マスメディアの沈黙」が明るみに出るだろう。またジャニーズ事務所側がメディア側にどのように圧力などをかけたのかについては、記者会見の際にも多くの記者たちが「不在」を批判した白波瀬傑前副社長(広報などを取り仕切っていたとされる)の証言は必須になるだろう。

 NHKの検証の動きが今後、もっと広がっていくこと。民放でも同様の動きが生まれること。それを望みたい。それを果たしてこそ、テレビというメディアが本当に「人権」を守るメディアとして生まれ変わることになる。

 今後、それぞれのテレビがどんなかたちで忖度したのかなど、組織ごとに検証して「マスメディアの沈黙」を二度とつくらないようにしてほしい。

水島宏明/ジャーナリスト・上智大学文学部新聞学科教授

デイリー新潮編集部