テレビ業界に変化が起きている。いわゆるピー音、放送できない言葉に被せる自主規制音が少なくなりつつあるというのだ。

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 民放ディレクターは言う。

「上沼恵美子さんが『上沼・高田のクギズケ!』(読売テレビ・中京テレビ制作)で、漫才師時代、『(若井)はんじ・けんじ師匠にイビられました』と実名を挙げて告白したり、おぎやはぎの小木博明さんが『千原ジュニアのヘベレケ』(東海テレビ制作)で、『アンジャッシュの渡部(建)さんに共演NGくらってます』と話したりするなど、これまでならピー音を被せるような内容でもそのまま放送することが増えてきました」

 コンプライアンスの遵守がますます重視されていく中、そんな時代の趨勢に逆行しているかのようだ。まさかとは思うが、ドラマ「不適切にもほどがある!」(TBS)に影響されたとか?

「YouTubeの影響が大きいと思います。ここ数年、関根勤さんや勝俣州和さん、小沢仁志さん、鬼越トマホークなどのYouTubeチャンネルでは、実名告白が人気ですから」

「関根勤チャンネル」では、元アイドル歌手の倉田まり子を口説いた話、俳優の江守徹がプロデューサーの胸ぐらを掴んで激怒した話、明石家さんまにブチ切れた浅田美代子の話……などを明かしている。

「勝俣かっちゃんねる」では、ゲストの鈴木おさむと共に「笑っていいとも!」時代のヒロミがいかにとんがっていたかが語られた。

「笑う小沢と怒れる仁志」の【大スター列伝】シリーズは、もはや名作と言っていいかもしれない。

「今やYouTubeでも、実名を伏せて話すのはつまらないと言われ始めています。それがテレビにも影響し始めたということです」

ピー音とは

 そもそもテレビのピー音は、いつ生まれたのだろう。

「はっきりしませんが、少なくとも30年前にはありました。最初は放送禁止用語にはじまり、プライバシー侵害への対応、不適切な発言などを消すために使われるようになったのだと思います。ピー音だけでなく、“バキューン”といった銃声、“ピヨピヨ”など鳥の鳴き声、ホイッスルの音、美しい音楽、そして無音などが演出として使われてきました」

 その後、ピー音は、さまざまな使われ方をされるようになった。

「放送できない発言への対応だったものが、クイズ番組などバラエティ番組で発言を消す、いわゆる“引っ張り”といった演出上の目的で引き継がれています」

 だが、多用されるとうるさいと感じることも。

「耳障りと捉える視聴者も少なくないので、番組ならではの音を使用することもあります」

 その一方で、ピー音をなくす番組が増えているのだ。YouTubeならともかく、テレビがピー音をなくして大丈夫なのだろうか。

なくすのも演出

「ピー音を使わないのは、本当に放送できない危ない実名ではない場合に限ります。かつてのようにピー音を入れないとまずい内容の時、つまり実名を明かせない話は、カットされることが多くなっています。放送できるかどうかの最終判断はプロデューサーになりますが、番組によってチェック体制は異なります。そして、エピソード内容がコンプランス的に大丈夫か、昔話で済む話なのか、実名以上に内容のチェックが重要になってきます」

 それゆえ、放送可となる実名告白は、

「テレビの場合、実名告白はといっても、ネタになる話、笑える話がほとんどです」

 それらはポジティブ系とネガティブ系に分けられるという。

「つまり、良い話と悪い話です。悪い話といっても、すでに和解していたり、故人の武勇伝であったり、笑えるオチがあったりと、テレビショー向けの話として紹介されることが多い。今後も実名告白は増え、ピー音も減っていくでしょう。それがネット記事になれば、番組宣伝にもなるわけですから」

デイリー新潮編集部