光を弾くミラーボール、ダンスフロアを包み込むユーロビート、湧き上がる歓声。80年代からバブル期にかけて一世を風靡したディスコ・MAHARAJA(以下、マハラジャ)が、TBSドラマ「不適切にもほどがある!」(以下ふてほど)の第5話に登場した。市郎(阿部サダヲ)の娘・純子(河合優実)が未来の夫・ゆずる(錦戸亮・古田新太)と出会う大切な場所である。女子大生の純子はスケバン時代とまた違った魅力を放ち、当時のMAHARAJAが「特別な場所」だったことを強く印象付けた。

 このロケ地はMAHARAJA ROPPONGI(東京都港区、以下ROPPONGI)。ニュースや情報番組では「バブルの象徴」として引っ張りだこだが、公式SNSで見る営業中の動画からは、ノスタルジーに浸るだけの場所ではない「今」が伝わる。映っている人たちが皆、底抜けに楽しそうなのだ。現在のマハラジャもやはり特別な場所なのか。同店で広報を担当する吉田麻里乃さんに話を聞いた。

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過去最高レベルにこだわった「ふてほど」

「ふてほど」の第5話が放送された2月23日前後は、令和でもっともマハラジャへの関心が高まった時期だろう。吉田さんによると、放送日の前日に株価が史上最高値を更新したことも“火付け役”だった。

「株価がバブル期のピークを越えたことでテレビ局からの取材依頼が殺到しました。放送後は当時ディスコで遊んでいなかったような方にも来ていただけるようになりましたね。一番人気のある『BUBBLY DISCO NIGHT(バブリー・ディスコ・ナイト)』にも、若い人たちがとても多く、若いカップルの姿もあって驚きました」

「バブル期を再現したい」というテレビ側の要望は以前からよくあった。だが、「ふてほど」の制作チームは、過去最高レベルのこだわりを見せていたという。

「80年代のマハラジャを1ミリも残さずすべて再現するという、監督のこだわりがすごかったんです。小道具として作ったマハラジャ発祥のはちみつトーストやフルーツ盛りについても当時の感じを確認して、こと細かに再現していましたね。『そこまでやるの?』と思うほど、まったく映っていない部分まで再現しています」

元黒服が当時の動きをレクチャー

 マハラジャが「ふてほど」と関わったきっかけはロケ地としての協力依頼。撮影の決定後、80年代にディスコの黒服だったゆずるについての演技指導を誰かにお願いできないかと持ち掛けられた。

「元黒服の方に指導をお願いしたいというお話を、早い時期からいただいていました。私も含めて今のスタッフは当時働いていた年齢ではないので、実際の指導は現在DJとして活躍している元黒服の方にお願いしました。打ち合わせでは、制作の方がかなり細かくヒアリングをしていましたね。シャンパンの注ぎ方やドリンクの運び方、お客様を案内するしぐさなど、何から何までです」

 ドラマで流れたディスコミュージックはオリジナルで作られたが、その曲調についても意見を求められた。鮮烈すぎる印象を残したゆずるのダンスは、脚本を担当した宮藤官九郎さんの妻、八反田リコさんの振り付け。当時のノリを見事に抽出した動きは元黒服氏も絶賛だったという。

 こうした「ふてほど」のこだわりぶりこそ、全盛期のマハラジャスタイルが唯一無二だったという証左だろう。

楽しむために仕事をするバブル世代

 全盛期のマハラジャはNOVA21★グループによるフランチャイズのディスコチェーンだった。現在のROPPONGIは、マハラジャの商標を取得した実業家が平成22年に復活させた店舗だ。現在は東京の2店舗(ROPPONNGIとその上階のANNEX)と、それぞれ別企業が運営する京都と大阪の2店舗が営業している。

 吉田さんがROPPONGIの広報となったのは8年前のこと。昭和50年代生まれのためバブル期のディスコを体験しておらず、「アンダーグラウンドな雰囲気を勝手にイメージしていた」という。しかし、いざ働き始めると衝撃を受けた。

「たくさんのお客様がダンスに夢中で、それぞれの表現で踊っているんですよ。かっこいい踊りの方も個性的な踊りの方もいますが、共通しているのは皆とにかく楽しそう! こんなにキラキラして楽しくて健康的な場所は、今の日本で他にないんじゃないかなと思いますね。衝撃でしたけど、ハマりました(笑)」

 言うまでもなく、中心の客層は50代から60代のバブル世代だ。

「今の若い人たちよりも全然パワーがありますね。バブル期に人生の楽しみ方みたいなものを体感したからか、毎日楽しむために仕事をしているように見えます。仕事をして、マハラジャで気分転換をして、家に帰る。ディスコには暗くてうるさい場所というイメージもありますが、そんな皆様が楽しむためにいらっしゃる今のマハラジャは本当にハッピーな場所なんですよ」

名付け親のデヴィ夫人も来場

「でも、バブル世代が懐メロで踊ってるだけでしょ」と思うのは早計だ。現在のマハラジャはかつてのスタイルを老若男女向けに“進化“させている。スペシャルイベントのゲストはその象徴であり、昨年11月に開催された13周年アニバーサリーではデヴィ夫人やDJ KOO、諸星和己、早見優といった顔ぶれがホールを沸かせた。また、松平健を招いた実績もある。

「今の東京にはクラブが何軒もあり、多くのイベントが開催されています。でもマハラジャブランドは唯一無二ですから、他と同じことはしたくないという気持ちがとても強いんですよ。ターゲットは老若男女。誰もが楽しめる空間を作りたいので、かっこいいDJだけではなく、意外性や知名度、若い世代もバブル世代も『この人に会いたい』と思えるような、魅力ある方にオファーしています」

 イベント出演後のデヴィ夫人が、自身のInstagramでマハラジャの名付け親だった事実を明かした件もニュースになった。また、9周年に続く登場だった諸星和己は、ちょっとした“ハプニング“があったという。

「実は当日のDJがDJ JANNY(ジャニー)という名前で。ちょうどニュースになっている時期でしたから、楽屋で諸星さんにお伝えしたところ『ジャニー? それはちょっとまずいですね(笑)』と仰っていたんですね。すると本番では、あえて自分からそのネタに突っ込んでいかれて、上質なトークにしてしまう(笑)。しかも、その部分の動画をSNSで使ってOKという許可までいただけて。何でも気にしなければならない今の時代とは違い、一番にファンを喜ばせることができる“真のスター”だなと実感しました」

ステータスだった時代を超えて

 老若男女をターゲットとする姿勢は、SNSでの発信にも表れている。

「動画をアップするようにしています。当時のディスコミュージックだけではなく、最近の新しい曲もジャンルを混ぜて選曲しているので、それを幅広い世代に知っていただくにはSNSが一番効果的ですから」

 基本料金はなんとドリンク2杯込みで男性3500円、女性2500円。ハッピーアワーはドリンク1杯込みで男性2000円、女性1000円と、衝撃的なまでに安い。

「ハッピーアワーを狙って来店する方も多く、そういったお客様は22〜23時頃にさっと退店されますね。今の時代を感じますが、それでもお客様が健康的に気分転換できて、また明日も頑張ろうと思っていただけるのなら、それでいいんです。また、昔のようにVIPルームでシャンパンを入れていただくお客様もたくさんいらっしゃいます」

 ガラス張りのVIPルームは2部屋。その前にある黒ヒョウの置物と、片方の部屋にある金色のゾウの置物は、80年代当時の店舗に置かれていた実物だ。実は当時の装飾品や備品、黒服の制服などを大切に保管している人物がいるという。「ふてほど」で黒服時代のゆずるがつけていた「スマイルバッジ」もそのコレクションから提供された。

「昔はマハラジャで遊ぶことがステータスでした。芸能人がたくさん来て、料金も高い場所。今のマハラジャにそれを期待すると外れてしまう部分もあると思いますが、『ふてほど』などどんなきっかけでも興味を持っていただけることはすごくうれしい。唯一無二のマハラジャブランドを存続させて、もっといろいろな世代に楽しんでもらえたら。若い世代も楽しめるハッピーな空間だと知っていただきたいですね」

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 吉田さんが熱く語った「唯一無二のMAHARAJA文化」はどのように築かれたのだろうか。第2回では80〜90年代のMAHARAJAでサウンドプロデューサーを務めていたDJ TSUYOSHIさんにご登場いただく。

 第2回【「MAHARAJA」は劇団だった…全盛期のサウンドを作った男、DJ TSUYOSHIが語る「マハラジャ伝説」】につづく

デイリー新潮編集部