NHKがようやく本音を明かした。4月25日の衆議院総務委員会で小池英夫 専務が「ネット配信のみを利用する受信料額は、地上波契約と同じ水準にする方向で検討している」と具体的な金額に言及したのだ。むろん、すでにテレビの受信料を支払っている世帯に新たな負担は生じない、と言うのだが――。

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 当のNHKは、以下のように報じた。

《インターネットを通じた番組などの提供をNHKの必須業務にすることなどを柱とする放送法の改正案が、衆議院総務委員会で賛成多数で可決されました。/放送法の改正案は、NHKの放送番組が社会生活に必要不可欠な情報として、テレビを持たない人にも継続的かつ安定的に提供される必要があるとして、インターネットを通じた同時配信と見逃し配信、それに番組関連情報の配信を必須業務にするとしています。(中略)費用負担については、受信料を支払っている人は、追加の負担なく利用できるとしています》(“ネット配信 NHKの必須業務に” 放送法改正案 衆院総務委可決:4月25日配信)

 一見すると、これまでと何も変わらないように思える。放送担当記者に聞いた。

「放送法でNHKにとって“必須業務”はテレビ放送とラジオ放送のみと定められていました。つまり、これが“本業”です。これまでネット配信はテレビを持たない人への“補完業務”と位置づけられていましたが、これを本業に加えようというわけです。平たく言えば、本業になれば堂々と受信料を請求することが可能になります」

 NHKは、ネット配信は“補完”と明言していた。つまり、課金しないはずだった。

有料化は昔からの希望

「2017年7月、NHKの幹部が総務省の有識者検討会で『将来的にはネット配信を必須業務にしたい』、つまり有料化したいと口走ったため、民放各局が民業圧迫だと大騒ぎしたことがありました。当時の上田良一 会長は『本業はあくまで放送で、ネット配信は補完的存在にすぎない』と火消しに走りました。しかし、いつまでも放送の補完では収入にはなりません。受信料の支払い世帯数は頭打ちで、おまけに値下げも行った。収入を増やすためには、ネット配信から受信料を得る必要があるのです」

 NHKの目論見どおり放送法の改正案は可決された。そこで満を持してネット配信の受信料に言及したのだ。現在「NHKプラス」では総合テレビとEテレの常時同時配信と見逃し配信サービスを行っているが、受信料を支払っている世帯でなければ登録できない。

「NHKは『受信料を支払っている世帯なら無料で登録できます』と大宣伝をしていますが、昨年6月末に発表された資料によると、22年度末までに『NHKプラス』に登録したのは約373万件、受信料支払い世帯は3644万件。つまり1割ほどしか登録していないことがわかりました。『NHKプラス』の本格運用は20年4月からなので、丸2年かけて1割にしか普及しなかったことになります」

 現在、地上波の受信料は月1100円だ。無料だとしても1割しか登録していない「NHKプラス」に、わざわざ1100円を出して登録する人がどれほどいるのだろう。

補完から有料化の前歴

「Netflixはスタンダードプランが1490円、Huluは1026円と、民間企業の配信も1000円前後と値段的にはそれほど変わりませんが、映画やオリジナルコンテンツなどが豊富ですから割安感がある。若者がチューナーなしのテレビを購入するのは、こうした民間の配信も見ることができるし、民放のバラエティやドラマもTVerなど広告付き無料配信で見られるからです。その一方で、チューナー付きのテレビを自宅に設置しただけでNHKの受信料が発生してしまうため、チューナーなしのテレビを購入する人もいる。NHKには1銭たりとも支払いたくない人も少なくないのですから、わざわざお金を払ってNHKの配信を見ようという人は多くはないでしょう」

 せっかくネット配信を“補完”から“本業”にしたのに、儲からなくては法改正までした甲斐がない。今後、NHKはどうするのか。メディア文化評論家の碓井広義氏は言う。

「NHKはかつてBS放送を補完放送としていました。地上波が届きにくい難視聴地域はもちろん日本のどこでも放送衛星でNHKを見られるようにするため、受信料は無料でした。ところが、いつの間にか有料化され、現在は地上波と併せて受信料は月1950円になりました。ネット配信も補完から本業になることで、同じような道を辿る可能性は十分にあります」

 つまり、テレビ受信料にネット受信料の上乗せである。さらに、ネットが視聴できるスマホやチューナーなしテレビへの受信料負担も考えられる。やはり補完に過ぎなかったはずのワンセグにも、受信契約の締結義務があるという最高裁の判例だって出ている。放送法の改正によっては、テレビの設置と同様、ネット配信も通信機器を持っているだけで受信料を課すとこじつけることもできるだろう。

「テレビ業界で視聴率が世帯よりも個人を重視するようになったのと同じく、NHKも世帯から取っていた受信料を個人から取るようになるかもしれません。今やスマホは一人一台の時代なのですから」(同・碓井氏)

デイリー新潮編集部