続編にキャスティングされなかった小栗旬

 ハリウッド版「ゴジラ」シリーズと「キングコング」のリブート作品である映画「ゴジラ×コング 新たなる帝国」が4月26日に公開された。世界中のファンから愛される2大モンスターのリブート作品は、2021年に公開された「ゴジラvsコング」の続編。しかし、今作では、前回出演していた小栗旬(41)はキャスティングされなかった。

「小栗さんはハリウッド進出に向けて準備を重ねて、この役をゲットしました。同作への出演をきっかけに、本格的なハリウッド進出を目指し、妻で女優の山田優さんと子供達を連れて家族で渡米しました。しかし、その後、ハリウッド作品のオファーが来ることはなく、結局、昨年6月、所属するトライストーン・エンタテイメントの2代目社長に就任。社長と俳優の二足のわらじをはいている状態で、ハリウッド本格進出は難しくなりました」(民放テレビ局関係者)

 日本のエンタメ界にとってハリウッドは、作品の製作費、俳優へ支払われるギャラの金額などからして、野球でいえば“メジャーリーグ”のような位置付けだ。現在、ドジャースの大谷翔平(29)、山本由伸(25)、パドレスのダルビッシュ有(37)、カブスの今永昇太(30)ら、11人の日本人選手たちがメジャーで活躍している。ひと昔前の日本球界なら考えられない状況だ。

 その一方、日本でも知名度があり、ハリウッドを拠点とする“メジャーリーガー”として活躍しているのは、真田広之(63)くらいしかいない。長年、米・ロサンゼルスで暮らし、「ラスト サムライ」(03年)、「スピード・レーサー」(08年)、「ウルヴァリン:SAMURAI」(13年)、「アベンジャーズ/エンドゲーム」(19年)、「ブレット・トレイン」(22年)など数々の作品に脇役ながら出演。そして、主演・プロデューサーを務めたドラマ「SHOGUN 将軍」は、今年2月にDisney+などで配信され話題を呼んだ。

「真田さんは『ラスト サムライ』の出演をきっかけに、渡米しても自分はやれると、手応えをつかんだそうです。その最大の要因は英語力。同作の撮影時に、日常会話レベルを超えた、感情表現を伝える英語力を身に着けていました。それもあって現地のエージェント会社と契約を交わしてオーディションを受け、着々と役をゲット。実績を積み重ねているうちに、オーディションなしでもオファーが来るようになったのです」(映画担当記者)

 おそらく、小栗も真田のような未来像を描いて渡米したと思われるが、いくら日本で実績があるとはいえ、“メジャーリーグ”で活躍するのは相当な努力がなければ難しいという。

演技に特化した英語力

「ハリウッドでは日本での実力や知名度は関係なく、オーディションを受けて役を得るのが基本です。そもそも日本の芸能事務所には、向こうのオーディション情報がほとんど入って来ません。かつては、大物キャスティングディレクターを通して入手するしか手がなかった。今は、現地のエージェント会社と関係を作れば情報が入って来るようになりました。小栗さんの事務所は、先代の社長がハリウッドの関係者にもコネがあったので“橋渡し”してくれたのです。しかし、やっぱり大事なのは英語力。ハリウッド進出を目指すなら、真田さんのように英会話はもちろん、演技に特化した特別なレッスンを受ける必要があります」(映画業界関係者)

 真田とともに「ラスト サムライ」に出演、ハリウッドデビューを飾ったのは渡辺謙(64)だ。劇中では英語のセリフを流ちょうに話し、「ゴールデングローブ賞」と「アカデミー賞」の助演男優賞にノミネートされたが、オーディションの段階では英語力がいま一つだったという。

「当初、渡辺さんの役には役所広司さんも候補にあがっていました。しかし、スキンヘッドで英語を流ちょうに話す武士、という特殊な役柄でもあり、184センチでがっしりした体格の渡辺さんが選ばれました。もっともオーディション時はそこまでの英語力がなく、合格後に猛特訓したそうです。すると、すっかり役がハマって“和製ユル・ブリンナー”としてハリウッドの関係者たちから大絶賛されました」(先の記者)

 その後、渡辺はクリント・イーストウッド(93)監督の作品「硫黄島からの手紙」(06年)に出演、嵐の二宮和也(40)と共演している。その二宮が22年8月7日放送のTBS系バラエティー番組「日曜日の初耳学」で、同作のオーディションの様子を明かしている。

 当時、それほど仕事がなかったという二宮は、事務所に「何かないですか?」と聞いたところ、同作のオーディション情報が。監督がイーストウッドだったことから、会いたい一心でオーディション会場に行ったものの、審査の場に監督は来ておらず、やる気を喪失した。そのためオーディションで出された「やりたいシーンを3つ選んで」というお題には、「黙っているシーンを3つやった」という。

 さすがにスタッフから「セリフのあるシーンを1つくらいやって」と注文され、渋々演じることに。だが、逆にその「やる気のない感じが現代的で、あの役にピッタリ」とスタッフの心に刺さり、晴れて役をゲットしたという。二宮は「オーディションで監督に会っていたら(興奮してしまい)間違いなく落ちていたんだなと思う」と振り返っていた。

「これは、かなりラッキーなケース。非英語圏の俳優は、英語が話せることをアピールしようと、語学の特訓の成果を出し尽くしても残念な結果になることが大半です。小栗さんは『ゴジラvsコング』で、渡辺さんがハリウッド版『ゴジラ』シリーズの『GODZILLA ゴジラ』(14年)などで演じた芹沢猪四郎博士の息子・芹沢蓮役を演じました。しかし、出演時間は10分に満たず。さらに、実験に失敗して白目をむくという、なんともなシーンもある雑な扱いで、結局、今作はお呼びが掛からずでした。一方、コンスタントにハリウッド作品からお呼びがかかっていた渡辺さんですも以前はロスを拠点にしていましたが、現在は再々婚相手と長野・軽井沢を拠点にしています」(先の業界関係者)

名前があってもチヤホヤしてくれない

 他にも日本で名の知れた俳優では、赤西仁(39)がキアヌ・リーブス(59)主演の「忠臣蔵」をモチーフにした「47RONIN」(13年)に、山下智久(39)はNetflixで配信中の映画「マン・フロム・トロント」、木村拓哉(51)はHuluで配信中のドラマ「THE SWARM/ザ・スウォーム」で海外進出。赤西は主要キャストだったが、「47RONIN」以後、海外作品への出演がなく、山下と木村は端役の中でも、かなりセリフの量が少ない役どころだった。

 3人とも、オファーが来た時点で、国内では絶大な力を持っていた旧ジャニーズ事務所(株式会社SMILE-UP.)の所属だったが、結局、海外進出は成功したとは言い難い。

「いくら日本国内で大きな事務所に所属していても、海外進出したら実力で勝負するしかありません。最近、真田さん以外で海外での活躍が目立つのは、『SHOGUN 将軍』にも出演している浅野忠信さん、故平幹二朗さんと佐久間良子の息子である平岳大さんです。特に平さんはアメリカの高校・大学を卒業。コロナ禍の20年、国外で活動するために妻子と共にハワイへ移住しました。木村さんと『The Swarm』で共演していますが、出番もセリフ量も木村さんを上回っています。もう一人、故千葉真一さんの息子・新田真剣佑さんは、米国育ちで英語力は申し分がないので、今後が期待されます」(同前)

日本の芸能人は安定志向?

 真田が今年2月29日、フジテレビの情報番組「めざまし8」でオンエアされたインタビューで、自身が実感した「日本人がハリウッドで成功するための条件」をかなりリアルに語っている。

「向こうで活動するとなると、コミュニケーションはやはり英語が大事ですね。オーディションで通訳を通さないといけない人だと『ハイ、次の人』ということにもなりかねません」

 と英語力の重要性を力説している。さらに、

「日本のように名前があっても、チヤホヤは絶対してくれません。『このクルーの前でお前は何ができるんだ?』と思われるので、納得させないと信頼してもらえないんですね。ですから当然マネジャーも現場には来ませんし、単身、直にやりとりをして信頼を勝ち取っていくという感じです」

 そして、日本の芸能界との違いをこう説明した。

「守られすぎた人は『えっ!』ということになると思います。プロダクションのパワーも通用しませんから。逆に言えば、厳しいけどもやりがいのある状況だと思います」

 ところで、そもそも日本人俳優で“メジャーリーガー”級の活躍をしている人が少ないのは、英語力以外にも理由があるという。

「今年の『アカデミー賞』で露呈した“アジア人差別疑惑”などからして、いまだに向こうではアジア人を蔑視する風潮があります。そもそも、アジア人が中心人物になる作品はほとんど製作されません。それでも、中国や韓国の役者は“メジャーリーガー”を目指す人が多く、米俳優組合(SAG-AFTRA)に入っている役者も多い。アジア人役はまず組合から優先的に起用されてしまい、日本人が“新規参入”することは難しいのです」(先の記者)

 日本の芸能界は芸能事務所、各テレビ局、各映画会社、CMクライアントなどの仕組みや関係がしっかり確立されており、知名度を上げて売れれば、その仕組みの中で仕事も回り、それなりのギャラを得ることができる。

「そこで活躍すれば、何よりも安定します。それに比べて、“メジャーリーガー”になろうと思ったら、相当の覚悟が必要です。野球界では日本で活躍した選手たちが、さらなる高みを目指して続々と“メジャーリーガー”を目指していますが、日本の大多数の芸能人たちは向上心より、安定を求める気持ちが上回るようですね」(同)

デイリー新潮編集部