今季、主要な登場人物が記憶喪失というあまりにベタな設定のテレビドラマが、同時に5作品も放送される異常事態が起きている。この不可思議な現象の原因を探ってみた。

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 元来、ドラマ制作者にとって記憶喪失は避けるべき題材だった。コラムニストの今井舞氏によれば、

「脚本のセオリーでは、登場人物のキャラクターを作り上げる際、記憶喪失は孤児院育ちと並ぶ代表的なタブーだとされています。どちらもよほどの物語上の必然性がなければ、視聴者からご都合主義だと興醒めされてしまうからです」

 だが、この春の連続ドラマは記憶喪失モノがめじろ押しである。

「『アンメット』以外はイマイチ」

 具体例を挙げると、主役が記憶喪失の作品では、杉咲花(26)が一日しか記憶がもたない脳外科医役で主演する「アンメット ある脳外科医の日記」(フジテレビ系)と、“めるる”こと生見愛瑠(める・22)が自身に関するあらゆる記憶を失ったヒロインを演じる「くるり〜誰が私と恋をした?〜」(TBS系)。また、中村アン(36)が過去の記憶の一部を喪失している刑事役で主演する深夜ドラマ「約束〜16年目の真実〜」(日本テレビ系)も放送中だ。

 その他に、主役ではなくとも重要な登場人物が記憶喪失になっている作品として、「366日」(フジテレビ系)と「9ボーダー」(TBS系)がある。

 テレビドラマ研究家の古崎康成氏はこう語る。

「『アンメット』は記憶喪失という設定がミステリー的な展開にうまく絡んでおり、今年を代表する名作になる可能性もあるほど面白い。しかし、他の記憶喪失モノは程度の差こそあれ、いずれもご都合主義が目立つなどして、イマイチなのが正直なところです」

韓流ドラマ

 なぜ、同時多発的に記憶喪失モノが放送されるに至ってしまったのか。

「2020年代の初頭、ネットフリックスなどの動画配信サービスで韓流ドラマが世界的なブームになりました。韓流といえば古くは『冬のソナタ』に代表されるように記憶喪失が“鉄板ネタ”で、近年でも非常に多くの作品で用いられています。そんな韓流の影響が、今頃になってようやく日本のドラマ界に表れてきたと指摘する声があるのです」(キー局関係者)

 日本のテレビドラマの企画概要は、半年から1年前に決まるといわれており、

「現在、韓流ドラマのブームはもはや一段落し、沈静化していますが、去年はまだまだ余波が続いていました。この春、日本で放送されている記憶喪失モノはちょうど去年のその頃、韓流を参考にするような形で企画概要が決まったと考えられるのです」(同)

“韓流あるある”を連発する日本ドラマ界

 前出の古崎氏に聞くと、

「かつての日本のテレビマンであれば、臆面もなくベタな展開を繰り広げる韓流ドラマを模倣するようなことはしなかったと思います。でも、今や日本のドラマ界ではいわば“韓流あるある”が連発されている。ネットフリックスなどの海外の大資本に圧倒され、余裕がなくなっているのではないでしょうか」

 前出の今井氏もこのように嘆く。

「もう記憶喪失はお腹いっぱい。各局のお偉いさんたちで話し合って、記憶喪失モノは全局で1クールに何本まで、という規制を作ってほしいくらいです」

 かくも一向に止まらないテレビ離れ……。何か付ける薬はあるのだろうか。

「週刊新潮」2024年5月23日号 掲載