批判が噴出したNHK連続テレビ小説「ちむどんどん」が終わる。10月3日からは福原遥(24)主演の次回作「舞いあがれ!」が始まる。今度は朝ドラの評判と威信を回復する作品になりそうである。その理由を3つ挙げたい。

【脚本が期待できる】

 ドラマの良し悪しを決めるのは「1に脚本、2に役者、3に演出」。古くからのセオリーである。

 脚本に描かれた主人公に魅力がなかったり、ストーリーが破綻していたりすると、いくら名優が演じ、名演出家が撮ろうが、どうにもならない。その点、「舞いあがれ!」は心配ないはず。

 制作は大阪拠点放送局。在阪スポーツ紙記者によると、メインライターを務める桑原亮子さん(42)は昨年8月、こうコメントした。

「(ヒロインの岩倉舞は)辛いことがあるたび、空を見上げて前に進みます。(視聴者が)その姿を見ているうち、いつの間にか元気が出てくる、そんなドラマになることを願っています」

 福原遥が演じるヒロイン・舞は長崎県・五島列島の空を飛ぶ「ばらもん凧」に魅せられ、パイロットを目指す。かよわい存在だったものの、夢の実現に向け、困難を乗り越えていく。物語の底流には、力の強弱に関係なく、誰にでも居場所や役割があるというメッセージが込められる。朝ドラのメインストリームに位置する作品になるはずだ。

 桑原さんはラジオドラマで秀作を書き続け、2020年に初めてテレビの連続ドラマを手掛けた。柄本佑(35)が主演したNHK「心の傷を癒すということ」(2020年)である。

 阪神・淡路大震災で心が傷ついた人たちと向き合う精神科医の物語だった。言葉の美しさと会話のリアリティなどが賞賛され。ドラマ各賞を総ナメにした。

 また、桑原さんは重度の聴覚障がい者であることを公表している。両耳がまったく聞こえない。小学6年生のころから徐々に聴力が落ち、早稲田大学在学中に人の声が聞こえなくなった。朝ドラを書くのは初めて。それもあって、嶋田うれ葉さん(48)、佃良太氏(30)も脚本作成に参加する。

 ストーリーはこうだ。時代は1994年4月。ヒロインの舞(少女時代は浅田芭路)は小学3年生である。町工場がひしめく東大阪で生まれ育った。

 父親・岩倉浩太(高橋克典)もネジ製造の町工場を営むが、従業員は笠巻久之(古舘寛治)ら2人だけ。経理や事務は母親・めぐみ(永作博美)が一手に引き受けていた。家族はほかに成績が抜群に良い兄の悠人(横山裕、少年時代は海老塚幸穏)がいる。

 舞は体が弱かったことなどから、一時的に五島列島に住む祖母・才津祥子(高畑淳子)と暮らす。そこで逆風が強いほど高く舞い上がる「ばらもん凧」と出会い、空に憧れる。

 やがてパイロットになることが目標となる。だが、その実現までの道のりは遠く、険しかった――。

 舞の少女編から視聴者を惹きつけそうだ。東大阪の小学校で仲間はずれにされていた望月久留美(山下美月、少女時代は大野さき)を窮地から救おうと舞は躍起になる。久留美は父子家庭で貧しいことを恥じていたが、舞は一向に気にしなかった。

 みんなと同じことをするのが苦手な隣家の同級生・梅津貴司(赤楚衛二、少年時代は齋藤絢永)とも舞は友情で結ばれる。貴司は繊細で心優しく、舞の心の拠り所となる。

 その後の舞台として、舞が入学する浪速大学航空工学科、同大の人力飛行機サークル、大学卒業後に入る航空大学校などが決まっている。変化に富む。飽きさせそうにない。

【ヒロイン役の福原舞が期待できる】

 昨年11月の制作発表で福原は「憧れの場所に立つことができて、本当にうれしい」と涙ぐんだ。

 小1だった2005年に子役としてデビュー。テレビ朝日「声ガール!」(2018年)、テレビ東京「ゆるキャン△」(2020年)、日本テレビ「アンラッキーガール!」(2021年)などに主演してきたが、朝ドラヒロインは格別らしい。夢だったという。過去、3度もヒロインのオーディションを受けた。

 感激に浸っているので慢心することなどないはず。演技力は折り紙付きだ。山下智久(37)が主演したNHK「正直不動産」(6月終了)での新入社員・月下咲良など誠実な役柄ばかり演じてきたように思えるが、演技の幅も広い。

 菅野美穂(45)が主演した日本テレビ「ウチの娘は、彼氏が出来ない!!」(2021年)では編集者(川上洋平)と交際するド派手で軽い女性・伊藤沙織役に扮した。月下とは大違いだった。

 とはいえ、やはり一番似合うのは明るく前向きな女性に違いない。声優を目指していた「声ガール!」の主人公・菊池真琴と、不幸に襲われてもめげなかった「アンラッキーガール!」の同・福良幸の役柄はともにそうだった。典型的な朝ドラヒロイン像と重なる。舞役もハマるだろう。

 作品の人気を下支えしてくれる基礎票もある。2009年から4年間、Eテレの子供向け料理番組「クッキンアイドル アイ!マイ!まいん!」でメインを務めたため、子供と一緒にこの番組を観ていた保護者らに熱心なファンが多い。これほど好条件のそろった朝ドラヒロインもそういない。

【助演陣、制作陣も不安なし】

 舞の父親・浩太に扮する高橋克典(57)と母親・めぐみ役の永作博美(51)は安定感のあるベテラン。兄・悠人を演じる横山裕(41)はジャニーズ事務所屈指の演技派だ。昔ながらの表現をすると、性格俳優である。クセのある人物を演じるのが得意。どうやら悠人も一筋縄ではいかない人物だ。

 50代以上の視聴者の間で話題になりそうなのが、舞の幼なじみ・梅津貴司役の赤楚衛二(28)。既に若い視聴者の間では人気を博しているものの、朝ドラの視聴者の3分の1以上は50代以上。この作品への出演で全世代に名を知らしめるはずだ。TBSの夏ドラマ「石子と羽男-そんなコトで訴えます?-」の演技はリアルだった。シャイで実直な青年に成り切っていた。

 浩太が経営するネジ工場の従業員・笠巻久之役の古舘寛治(54)は作品の重しのような存在になるはず。「ちむどんどん」第114回(9月15日放送)にもゲスト出演し、セリフがほとんどないのに圧倒的な存在感を見せた。「役柄に憑依する」という言葉が一時期流行したが、この人の場合は逆。役柄を自分に引き寄せてしまう。目が離せない。

「兄貴」こと哀川翔(61)も登場する。少女時代の舞に目配りする五島列島の船大工・木戸豪を演じる。兄貴らしい役柄だ。ちなみに木戸も哀川も大の釣り好きという共通点がある。

 又吉直樹(42)も出る。東大阪の古本屋「デラシネ」の主人・八木巌役だ。儲けは考えず、詩を創作しながら店を営んでいる。素に近い役柄ではないか。幼いころの舞や貴司らに店を遊び場として提供する。

 航空大学校編の出演陣も既に発表されている。教官・大河内守に扮するのは吉川晃司(57)。元航空自衛隊のパイロットで、指導が厳しく、鬼教官として恐れられる。

 制作統括は熊野律時氏。大阪出身で、過去には大阪を舞台にした「カーネーション」(2011年度下期)で演出陣に名を連ねた。この朝ドラは放送文化基金賞優秀賞などを受賞し、2000年以降の朝ドラでは間違いなくベスト3に入る。

 やはり明治期の大阪が描かれた「あさが来た」(2015年度下期)のプロデューサーも経験した。視聴者から「大阪を知らない」「大阪の人に失礼」などといった誹りを受けることはないはずだ。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。大学時代は放送局の学生AD。1990年のスポーツニッポン新聞社入社後は放送記者クラブに所属し、文化社会部記者と同専門委員として放送界のニュース全般やドラマレビュー、各局関係者や出演者のインタビューを書く。2010年の退社後は毎日新聞出版社「サンデー毎日」の編集次長などを務め、2019年に独立。

デイリー新潮編集部