小栗旬が鎌倉幕府第2代執権・北条義時を演じるNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」(NHK総合・毎週日曜日20:00〜ほか)では、登場人物のほぼ全員が権力の座を巡って激しい争いを繰り広げる。なかでもひときわ異彩を放つ存在が、脚本を手掛ける三谷幸喜が生み出したオリジナルキャラクターのトウだ。

 特に強烈なインパクトを残したのが第2代鎌倉殿・源頼家(金子大地)の暗殺が描かれた第33話「修善寺」だった。頼家を斬り殺しただけでなく、“両親の仇”として師匠で育ての親の善児(梶原善)も手にかけてしまった。まさかの展開となったが、その“殺陣”の見事さ、完成度の高さにも注目があつまった。トウ役を演じたのは、“新世代アクション女優”の呼び声も高い山本千尋だ。元武術太極拳の選手でもある彼女の、珍しい経歴を辿ってみよう。

 山本は1996年8月29日、兵庫県神戸市出身の26歳である。ジャッキー・チェンのカンフー映画にハマっていた母親に勧められて3歳のころから中国武術を始め、小学生になると週6日練習に通っていたという。そして08年、小学6年生のときに世界ジュニア武術選手権で金メダル1(槍術)、銀メダル1(長拳)を獲得した。4年後の同大会でも金メダル1(槍術)、銀メダル2(長拳・剣術)に輝き、2度目の世界一を達成する。国内でも10〜12年にかけてJOCジュニアオリンピックで長拳、剣術、槍術の3種目で3連覇を果たしており、もしこれらがオリンピック種目だったら金メダリストの大本命だったに違いない。

競技を引退したわけ

 ところが彼女は16歳で競技生活から引退してしまう。きっかけは、2度目の世界一の直前、彼女の活躍を知っている人物から、当時日本テレビ系で放送されていたオーディションバラエティ「スター☆ドラフト会議」に出てみないかと声をかけられたことだった。すると番組を観た人たちから「その能力をアクションに活かせば」とアクション女優への転身を勧められた。直後の世界大会で結果を残したこともあり、競技への思いを断ち切り、「自分が好きだからこそ中国武術をオリンピック競技にしたい。そのためにも自分が少しでもその魅力を広められる立場になりたい」と芸能活動を開始したのである。

 翌13年8月に舞台「時空警察ヴェッカー1983」で女優デビューを飾ることに。さらに14年6月公開の映画「太秦ライムライト」では映画初出演を果たすと同時に、ヒロインの伊賀さつき役に大抜擢された。本作の監督・落合賢はオーディションの際、山本の演技を一目見て「天賦の才がある」と起用を決めたという。そして本作で第3回ジャパンアクションアワードベストアクション女優賞を受賞した。

 その後、ハリウッドのアクション映画女優への憧れもあり、高校卒業後の15年に単身渡米する。当初の予定では1年間ロスで学ぶはずだったが、大ヒット漫画「キングダム」の連載10周年実写特別動画プロジェクト(16年4月公開のショートムービー)の仕事が舞い込み、半年で帰国する。美しき凄腕剣士・キョウカイ 役で出演し、華麗に舞うような剣技を披露した。振り付けは山本に任され、原作を読んで感じた彼女なりのキョウカイを表現したそうだ。太極拳で鍛え上げた肉体を駆使して披露した剣舞姿は、原作ファンの間で大きな話題を呼んだ。

 すると今年7月に公開された映画「キングダム2 遥かなる大地へ」でキョウショウ役で出演することに。6年前に演じたキョウカイ(今作では清野菜名が演じる)が姉のように慕い憧れる存在で、限られた登場シーンながら、キョウカイが素性を隠して戦場に赴いた理由に深く関わっている存在だ。アクション女優としても定評のある清野が超越した強さを持つキョウカイ役を演じるならば、キョウショウ役にはそれを上回る説得力が必要だった。その点、山本が起用されたのは必然だったといえるだろう。

 日本の三大特撮作品を制覇している点にも注目したい。スーパー戦隊シリーズの15年度作品「手裏剣戦隊ニンニンジャー」へのゲスト出演に始まり、映画「仮面ライダー平成ジェネレーションズ Dr.パックマン対エグゼイド&ゴーストwithレジェンドライダー」(16年12月公開)、ドラマ「ウルトラマンジード」(17年7〜12月)と立て続けに出演。特に「ウルトラマンジード」ではヒロイン役でのレギュラー出演で、ストイックでクールな鳥羽ライハを演じた。剣術や武術に長けている設定で、まさにうってつけであった。

 18年5月にはNHK総合の土曜時代ドラマ「そろばん侍 風の市兵衛」で念願の時代劇に初出演し、清国からやってきた女剣士役を熱演した。19年4月には人気ドラマ「特捜9」(テレビ朝日系)のスペシャルに正義感の強い検察事務官役でゲスト出演し、刑事ドラマにも初挑戦を果たしている。19年5月公開の映画「チア男子!!」では文科系代表の女子大生役を好演、アクションを一切封印したメガネ女子姿は実に新鮮であった。恋愛モノにも挑戦し、21年4月クールの「着飾る恋には理由があって」(TBS系)では横浜流星の元カノ役で出演するなど、近年ではアクション以外でも目立つ存在になっている。

 今年4月クールには木村拓哉が高校ボクシング部のコーチ役を務め話題となった「未来への10カウント」(テレビ朝日系)にも出演し、ライバル強豪校の女子部員・奥村紗耶役を演じた。高1でインターハイに出場した実力の持ち主という設定だったが、実際に山本は今年1月に日本ボクシングコミッションC級ボクサーライセンスを取得していたこともあって、その強さに説得力があった。

代表作を挙げるなら…

 山本の代表作を1つ挙げるならば、初主演作である特撮アクション時代劇「BLACCKFOX: Age of the Ninja」(19年10月からネット配信)を推したい。演 侍や忍者がいた時代に人里離れて暮らす忍者一族“狐”に生まれ育った石動律花を演じ、不思議な能力を持つ少女・宮(矢島舞美)と出会ったことから起きるさまざまな危機に立ち向かっていく姿が描かれた。アクションはかなりハードなものだったが、キックやパンチ、武器などをスタントなしでこなし、圧倒的な存在感を示した。

 山本のアクションにはいつも鬼気迫るほどの迫力がつきまとっている。そこに笑顔はない。過激な表現をすると、気を抜いたら殺される、絶対に相手を倒すという緊張感と殺気が常に漂っているのだ。身長こそ155センチと高くはないが、その動きは鋭く素早く、何より美しい。まさに“令和が生んだアクション女優”と断言できる。その見事な身のこなしを、まずは今後の「鎌倉殿の13人」で存分に堪能したい。

上杉純也

デイリー新潮編集部