松本伊代さんが収録中の事故で腰椎を骨折したという。昨年はストレッチ中に胸椎を圧迫骨折しており、災難が続いた格好だ。「伊代はまだ16だから」と歌っていた時代から早40年。無理なことはさせないでほしいとテレビ局に懇願する声は多い。

「落とし穴」企画は、バラエティー番組で長年使われてきた「型」である。相手が大物であればあるほど、そしてリアクションが大きければ大きいほど面白い。だからバンジーやら水中飛び込みやら、高いところから落とすという手法はよく使われてきた。特に「落とし穴」はロケでもスタジオでもセットを組める、優良企画だろう。ただ、事前にスタッフがシミュレーションを行ってはいるものの、現場で何が起きるかはわからない。爪痕を残したいタレントほど予想外の動きをするという不確定要素もある。

 しかし危険な要素が多く予想がつかないからこそ面白い。そんな企画に、夢中になったのは視聴者だけではない。さまざまな大物MCたちも、「当たり」の匂いを感じていたのではないだろうか。「ロンハー」の「落とし穴大賞」や、「みなさんのおかげでした」の「全落・水落オープン」といった、落とし穴のリアクションだけにフォーカスした企画は人気を集めていた。

 伊代さんの夫であるヒロミさんも、フジテレビのジャニーズバラエティー「VS魂」で「落とし穴の罰ゲーム」を提案。共演者に、もっとジャニーズならではのカッコよさを体現した展開を見せろと説教したこともある。そうした姿勢がフジテレビからは怖がられ、ドッキリ企画も過激なものを考えがちなので番組に呼ばれないと、YouTubeチャンネルで明かしていたヒロミさん。実は本人も20代の頃、フジテレビの企画で大やけどを負った過去がある。まさか30年以上の時を経て妻も負傷するとは想定外だっただろうが、ヒロミさんにしろとんねるずにしろ、大物MCのいる場所で事故は起こるべくして起こるのではないだろうか。それは彼らのプロ意識の高さのあまり、共演者の生温いリアクションを許さないだろうからである。

大物MCと視聴者ウケと安全対策……成立が難しい「三方良し」に制作サイドは四苦八苦?

 大物MCたちの「無言の圧」と、売れ始めの芸人たちの野心がかみ合ってしまうと事故が起きやすいのだろう。2012年にはテレビ朝日「Qさま!」の特番で、10メートルの高飛び込みに挑んだスギちゃんが、胸椎を骨折。次いでいとうあさこさんも打撲傷を負ったと報じられた。今年に入ってからも「アメトーーク!」の企画で、ジェラードン・アタック西本さんが鎖骨を骨折。ぐるぐるバットをした後に三段跳び、という流れでフラつくことは容易に想像できるだけに、視聴者からも危険だという指摘は上がっていた。

 ヒロミさんの事故は笑いに変えたフジも、収録中の事故は多かった。ずんのやすさんや葛城ユキさんが、「みなさんのおかげでした」の企画内で骨折している。特にやすさんの腰椎骨折は深刻で、一時は復帰も危ぶまれたほどだ。また、芸人ではなく歌手であり、当時54歳の葛城さんを「人間大砲」と称して体を張らせた経緯には非難が集中した。

 日テレでは2019年の「絶対に笑ってはいけない青春ハイスクール24時!」での佐野史郎さんの事故が有名だ。液体窒素を入れたペットボトルの破裂する力で、ドラム缶の上に座っていた佐野さんがどれくらい浮くのかという企画で、全治2カ月の骨折をする事故に。また2012年には、ウッチャンナンチャンの内村さんが司会を務めた特番「うわっ!ダマされた大賞2012」にて、ドッキリを仕掛けられたSHELLYさんが驚いた拍子にセットが動いてしまい、全治3週間の骨折をするけがを負っている。

 派手な演出に笑う視聴者と、生ぬるいリアクションは許さないであろうMCの利害は一致する。しかし綿密な安全対策も両立せよとなると、途端に破綻してしまうというのが制作側のジレンマなのではないだろうか。だからギリギリのところを攻めても許してくれる、「お約束がわかっているタレント」頼みになってしまうのだろう。

体を張る若者タレント不在の時代に……伊代さんの幅広い世代への好感度がアダに?

 若者のテレビ離れといわれて久しいが、今や若いタレントも体を張る企画に意味を感じていない気がする。NGなしでバラエティーに挑んでいた鈴木奈々さんは「うるさい」と炎上して好感度が急降下。ブレーク時には「虫を食べたり空を飛んだり体を張りたい」と言っていた藤田ニコルさんも、クールなみちょぱさんの人気を受けてか今やトークもどこか冷めている。ワイプ芸や大声は、視聴者も若いタレントもうっとうしがる時代のようだ。

 しかしみんながみんな能面では、見ている方はつまらない。テレビ局側も、MCから不興を買うリスクもある。だから幅広い世代に知名度と好感度があり、なおかつ夫ともども「お約束」がわかっている伊代さんは、重宝されやすいのではないだろうか。

 先月に生命保険会社から発表された、理想の有名人夫婦では1位にランクインしたヒロミさん・伊代さん夫妻。幅広い世代からの支持がうかがえる。もし派手なリアクションがなかったとしても、伊代さんの天然トークはテレビ映えするという計算も局側にあっただろう。MCの意向と幅広い視聴者ウケとコンプライアンス、「三方良し」を成立させる稀有なタレントゆえに、不運に見舞われたという面もあるのかもしれない。

 なお今年の秋に放送された別のバラエティーで、落とし穴に落とされた相葉雅紀さんが、「もっと若い時に落としてほしかった」とコメントしていたのが印象深い。伊代さんも同じ気持ちだったろう。それこそ16歳並みに、早く回復されることを祈っている。

冨士海ネコ

デイリー新潮編集部