NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』で、ついに鎌倉幕府第3代将軍・源実朝(柿澤勇人)の暗殺が描かれた。実朝を斬ったのは2代将軍・頼家(金子大地)の次男・公暁。演じるのは若手俳優・寛一郎だ。彼については名優の三國連太郎を祖父に、佐藤浩市を父に持つスーパーサラブレッドということは知られているが、その実像を詳しく探ってみよう。

 1996年8月16日生まれの現在26歳で東京都出身。本名は佐藤寛一郎だが、芸名の寛一郎は文字と文字の間に半角スペースが入った“寛一郎”が正式表記とのこと(本稿では寛一郎と表記)。予定日よりも2ヶ月ほど早く生まれた体重1,600グラムほどの未熟児だったため、“大きく伸び伸びと育ってほしい”、“寛大な心を持ってほしい”という願いが込められた名前だという。

 芸名に“佐藤”を付けなかった理由はなにか。フルネームが長いため短い名前が良いと思ったことが1つ。そしてやはり父親のイメージが強かったことだ。あえて“佐藤”を捨て、己の力で勝負する決意が込められた芸名ともいえよう。

 俳優の道へ進むことを決意したのは18歳のとき。幼いころから父親に連れられて映画の撮影現場に足を踏み入れていたものの、小学校を卒業するころには父に対する複雑な感情があった。

 中学高校は音楽に熱中したいろいろな映画を見ているうちに、自分にとって身近な仕事だった“役者”への気持ちがどんどん強くなっていった。そして高校卒業後にはアメリカのロサンゼルスに短期留学し、演技を学んだ。父の浩市に役者の道へ進むことを報告した際、その反応は「あぁ、そう」のひとことだけだったそう。浩市によると「それしかいいようがなかった」らしく、自身も父親の三國連太郎に「役者になる」と伝えたときに同じリアクションで返されたという。

親の七光り?

 俳優デビューは17年7月、20歳のとき。高校行事のミュージカルの上演に奮闘する少年少女の友情と成長を描いた映画『心が叫びたがってるんだ。』で、主要キャストの1人を演じたのだ。その2ヶ月後には映画『ナミヤ雑貨店の奇蹟』にも出演し、主人公・矢口敦也(山田涼介)の幼馴染3人組の1人である麻生幸平を演じた。18年7月には出演映画『菊とギロチン』も公開。

 デビューから立て続けの映画出演には親の七光りを疑ってしまうが、そんなことはない。『菊と〜』の瀬々敬久監督は『感染列島』(09年)や『64-ロクヨン-前編/後編』(16年)などで父・浩市と仕事をしているが、のキャスティングに際しては息子と知らずに選んだというし、『ナミヤ雑貨店〜』で彼を起用したプロデューサーも同様だった。後日、その出自を聞いて驚いたそうだ。父親も関係者には「オファーするのなら、自分の息子だからというのとは関係なくお願いします」と話していたという。息子にも「自分の力でのし上がってこい」と伝えていたようで、地道にオーディションを受け仕事のオファーが舞い込むこととなったわけだ。

 映画出演は高い演技力が評価されたからであって、事実、『ナミヤ雑貨店〜』では日本映画批評家大賞の新人男優賞を受賞している。翌年には『菊とギロチン』で第92回キネマ旬報ベスト・テン新人男優賞と第33回高崎映画祭の最優秀新進俳優賞、さらに第28回日本映画批評家大賞助演男優賞を受賞している。その後、最新作となる『月の満ち欠け』含め、11本の映画に出演。その中には会社の上司と部下役で父子初共演を果たした『一度も撃ってません』(20年7月公開)や、主演を演じた『君がまた走り出すとき』(19年3月公開)と『下忍 赤い影』(同・10月公開)がある。後者は幕末を舞台に、鳥羽伏見の戦いの裏側で繰り広げられた緻密な諜報戦を描いた本格忍者アクションだ。クライマックス5分で壮絶な死闘に挑んだ話題作だった。

『グランメゾン東京』での好演

 ドラマ出演は18年3月のテレビ東京系単発ドラマ『ミッドナイト・ジャーナル 消えた誘拐犯を追え! 七年目の真実』など11本があるが、代表作と問われればゴールデンでの連ドラ初レギュラー作『グランメゾン東京』(TBS系、19年10月クール)を挙げたい。木村拓哉演じる天才フレンチシェフ・尾花夏樹の転落と復活を描いた物語で、寛一郎が演じたのは尾花がスーシェフを務めるフレンチレストラン“グランメゾン東京”のアルバイト従業員・芹田公一。シェフとしての腕前は低く、なかなか料理を任されないことに葛藤していた芹田は、第6話でライバル店のオーナーから内部情報を流すように依頼され、お金を受け取ってしまう。賄い料理を酷評されたり、自身が勝手に行なった鰆のさばきを尾花に怒られたことで、店を辞める。

 紆余曲折のすえ、今度は客として来店した芹田は、魚料理の味に疑問を感じる。実は彼自身がさばいた鰆が使われていたのだ。扱い方を間違えていたと尾花に聞かされ、一連のスパイ行為を謝罪。再度雇ってもらうように土下座し復帰した。この一連の演技がとにかく脱帽ものだった。特に最後にみせた、今までの努力を尾花に認められた喜びと、仕込みを任された瞬間の演技は秀逸だった。木村のほか鈴木京香、沢村一樹、及川光博ら豪華な共演陣に囲まれるなかで爪あとを残すことに成功した。これ以後、連ドラのレギュラー出演が増えていくことになったことからも、ターニングポイントとなった作品といえるだろう。

 『鎌倉殿〜』では、実直であり感情的、若さゆえの愚かな一面も持つ公暁を泥くさく演じていた。濃い顔をしているせいか、時代劇にマッチしている印象がある。目力の強さも祖父・父譲りで、まだ経験こそないものの舞台映えすると思われる。これからもその演技でかなりのインパクトを残していくだろう。

上杉純也

デイリー新潮編集部