時代とはかくも移り変わっていくものである。この年末年始に芸能記者を走らせた、二人の国民的俳優の独立劇。いずれも「芸能界のドン」と呼ばれた大物からの“別離”であるだけに、業界は激震。さらに「次」と目されるのは、あのスター歌手だという。

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 小雪舞う1月の軽井沢。最寄り駅から車で5分ほど、瀟洒(しょうしゃ)な別荘が立ち並ぶ林の中に「ラストサムライ」の“自宅”はある。敷地は約3千平方メートルと広大で、入口の門から建物まで20メートルはあるだろうか。

 ここに渡辺謙(63)の乗るベンツが戻ってきたのは土曜日のお昼ごろ。横には20歳ほど年下の女性が座っている。車から降りた彼女に名刺を渡すと、「謙さん、これ……」と“夫”に渡す。渡辺に声をかけると、

「わざわざありがとうございます。ただ、今回の件についてまだお話しできることはありませんので……」

 横にたたずむ女性に「奥様」ですか? と尋ねると、

「いえ、もうそんな……」

 と言いながらも、その表情はどこか晴れやか。大きな袋を持つところを見ると近くのスーパーへ買い物にでも行った帰りだろうか。その様はまるで「熟年夫婦」のようであった。

大物芸能人独立の象徴

 渡辺が所属事務所「ケイダッシュ」からの独立を発表したのは、それから2週間ほど遡る昨年12月30日のこと。内外で知られる国民的俳優の動きだけに、大きな話題となった。

 年を跨いだ1月6日、今度は、堺雅人(49)が所属事務所「田辺エージェンシー」を年末に退社していたことが報じられた。「半沢直樹」などを大ヒットさせた超人気俳優だから、こちらもニュースとなったのだ。

「昨今、事務所から独立する大物芸能人が増えていますが、その象徴ともいえる出来事でしたね」

 とは、芸能レポーターの長谷川まさ子氏である。

「特にこの二人は事務所も万全の態勢で接していたでしょうから、よりシンボリックな例といえます」

 芸能マスコミが驚くのは、両者とも「ドン」と言われる大物が率いる事務所からの独立であるためだ。渡辺の事務所・ケイダッシュのトップは川村龍夫会長(82)。ブルー・コメッツのマネージャーだった川村氏は、業界大手・田辺エージェンシーに転職した後、のれん分けで独立した。渡辺を筆頭に、高橋克典、南野陽子、グループ会社でも堺正章を抱えるなど、一代で大グループを築いたのだ。

 さる芸能関係者によれば、

「毎年1月には誕生会が開かれますが、そこには関係者がずらりと列をなしてあいさつに来ます」

スキャンダルだらけながらも、事務所と二人三脚で…

 渡辺がケイダッシュに入ったのは2002年。その前年、渡辺は当時の夫人の巨額借金が明るみに出て、釈明に追われていた。

 しかし、ここから逆転人生が。03年に「ラストサムライ」に出演、06年はクリント・イーストウッド監督の「硫黄島からの手紙」にも主演するなどハリウッドに進出した。

 私生活では前述の夫人と離婚し、女優の南果歩と再婚したが、21歳年下の元ホステスとの不倫で2度目の離婚。こうもスキャンダルだらけながらも、事務所と二人三脚で現在までの地位を築いてきたのだ。

「杏さんとそのお子さんをお見かけしたことも」

「当の会長自身は平静そのものですが……」

 とは、先の芸能関係者。

「会長の周辺は、決断の背景に不倫発覚後、一緒に暮らす元ホステスの入れ知恵があると見ている。報道後も渡辺を支えた彼女について、“謙は再々婚し、女性に金を残したいと思っている”“そのための独立で、(ビート)たけしと一緒だ”と散々ですよ」

 その女性が冒頭の彼女である。この家はもともと南との夫婦時代、別荘として使用していたものだが、

「ここ数年は本宅になったんでしょう。ずっと住んでいらっしゃいますよ」

 とは近隣住民。

「毎朝、犬の散歩に出ていますよ。“奥様”と二人の時もありますね。(娘の)杏さんとそのお子さんをお見かけしたこともありました。娘さんやお孫さんたちと仲良く遊んでいましたね」

 別の住民も言う。

「すっかりこの土地の人ですよ。近所のラーメン屋さんにも彼女と一緒にいらっしゃるし、地元のスナックで仲間ができて、一緒にゴルフにも行っているとか」

 会長への恩と“妻”への愛。両者をてんびんにかけた末の、苦渋の決断だったのか。

SMAP独立直前も…

 続いて、

「年末に二人に会いましたが、その(=独立の)話は言っていませんでしたね」

 と言うのは、堺雅人の義母、すなわち女優・菅野美穂の母である。

「お正月は、子どもたちも連れ、家族で北海道にスキーに行っていたみたいですよ。私は独立の話はニュースで知ったんです」

 堺の所属事務所は前出の田辺エージェンシー。創業者・田邊昭知社長(84)は、スパイダースのリーダーを経て同社を興し、現在はタモリ、永作博美らをマネジメントしている。

 SMAP独立の直前、マネージャーだった飯島三智氏がその元に相談に訪れていたことが明るみに出たり、また、かつて所属していた元日本テレビアナウンサー・夏目三久と、タレント・有吉弘行との交際報道が出た際には、続報をひねり潰したと取り沙汰されたりもした。

 かたや堺は大学時代に劇団を旗揚げし、スカウトされて「田辺」に入り、以来同事務所一筋の身。NHKの朝ドラや大河への出演でブレークするまで約10年、「半沢」など連ドラで主役を演じるまでは約20年と、育つまでに長き時間を要したのだ。

 独立の背景には、仕事を巡る見解の相違があったとされる。

堺とともに独立した執行役員

本誌(「週刊新潮」)は1月19日号で田邊社長に取材した。その際には、

「“独立して会社をやりたい”と彼が言うので、どうぞ、と。それだけです」

「理由はわかんないよ。マネジメントを自分でやりたいと言うのだから、そういう人を引き留めてもうまくいくわけないじゃない」

 と吐露しているが、そこにはまた別の事情もあったという。

「独立に当たり、堺さんが所属する新会社が立ち上げられています」

 と、さるテレビ局関係者。

「その社長に就いたのは、実は堺さんの元マネージャーで、『田辺』の執行役員だった男性。『田辺』は秋元康さんと組み、TBSで女優のオーディション番組をしていますが、その担当でもあった。これは田邊社長の肝いり案件で、それだけ信用されていた人が一緒に独立したため、業界はざわついているのです」

 飼い犬に手をかまれたのか。はたまた、単なるのれん分けか。

 当の新社長に聞くと、

「話し合いの結果、(堺と)一緒に辞め、新会社を作ったのは事実です。今のところは(堺と)自分の二人だけの会社です」

 と言う。

 退社は円満だったのか。

「そうですね。まあ、こちらから一方的に何かを言うことはできないので……」

 ドンから別れただけに、今後、干されないかと心配する声もあるが?

「いやいやちょっと、そういうことは分からないんですけど。今はいただいたお仕事を一生懸命、頑張っていくだけです」

 先の芸能関係者によれば、

「田邊さんは内々に、“(堺は)理屈ばかり言っている。ほとほと嫌になった”とこぼしています」

 ドンの倍返しが怖い。

公取の目

「タレントが独立する際には、自分のやりたい仕事を自分のペースでやりたいと考えることがきっかけとなるケースが多いです」

 とは、前出の長谷川氏。

「一方の事務所としては、事務所全体の収入や、タレントの価値のことを考え、仕事を判断します」

 独立はそうした相違が原因となることが少なくない。もちろん金銭や恋愛を巡っての衝突もあろう。

 かつての芸能界では、事務所側が、独立を模索するタレントを硬軟織り交ぜ引き留めたり、出て行った場合も“力”で業界から干すなんてことがままあったが、

「最近は公正取引委員会も目を光らせていますし、そのようなことは難しい」(同)

 だからこそ、独立騒動が増えていくのは必至。いま業界が注視するのは、あの演歌界のスターの動向だ。

ささやかれる「復帰後の独立」

 この年始から休養に入った氷川きよし(45)。彼の所属事務所は「長良プロダクション」。創業者は故・長良じゅん氏で、演歌界の大重鎮だった。

 氷川はさまざまな事務所に所属を断られた末に長良氏に見出され、プリンスの道をひた走る。

 しかし、フェミニン路線に傾く氷川と、王道演歌を目指す事務所との間で溝が生じ、長良氏の息子・神林義弘氏が社長に就くと、さらに距離は広がった。昨秋には社長から暴行された事務所幹部の退社が報じられ、そうした雑音も相まって、「復帰後の独立」がささやかれているのだ。

「最近も話しましたよ」

 とは、氷川の相談役でもある、作詞家の湯川れい子氏だ。

「去年は休養前最後の1年だったでしょ。目一杯働いたらしく、痩せて顔色も悪かった。“大丈夫?”って聞いたら、スマートになって良かったと笑っていました。休養中は、ミラノ辺りにショッピングに行きたいと。でもコロナで難しそうだから、国内でゆっくりするんじゃないかしら」

「田邊さんとか周防さんにお願いしたのよ」

 事務所のゴタゴタについては、

「本人とはその話はしませんよ。でも、中であれだけもめているというのは心配。だから私、田邊さんとか周防さんにお願いしたのよ。“トラブルなく事務所を辞められるよう、面倒みてやってください”って」

「田邊さん」とは前述の田邊社長。同氏は「長良」の取締役にも就いている。また「周防さん」とは「バーニングプロダクション」の周防郁雄社長(82)だ。これまたドンと言われることの多い芸能界の大物である。

「でも、いろいろ難しいね……と。休養から戻る際に、本人がやりたいと思える舞台を事務所が作れるかどうか、ですよね」

 地殻変動起きる令和の芸能界。次の大物は果たして、誰。

「週刊新潮」2023年1月26日号 掲載