若者のテレビ離れが叫ばれるようになって久しい。確かに10代は平日に1日約57分しかリアルタイムでテレビを観ていない。50代の同約187分、60代の同約254分を大きく下回る(2022年版総務省情報通信白書)。それでもテレビは10代にも観てもらわないと、生き残れない。10代にはどんな番組が人気なのか? ベストテンを挙げ、傾向を分析してみたい。
10代がテレビを観る時間が減り続けている。2016年には平日に1日約89分、リアルタイムでテレビを観ていたが、最新調査では同約57分である。
こんな事態を招いた理由はいくつもあるだろうが、その1つとして、テレビ界が長らく世帯視聴率に縛られていたことが挙げられる。個人視聴率が標準になる前の2020年3月までは、世帯視聴率の高い番組が正しい とされていた。
このため、年齢の高い視聴者に好まれる番組が多くなってしまった。世帯視聴率は50代以上の人が観る番組のほうが高くなりやすいからである。
なぜか? 理由は単純明快。少子高齢化によって「日本の人口の半分近くは50代以上」。しかも「50代以上はテレビを観る時間が長い。平日1日の視聴時間は10代の4倍強以上」ある。
世帯視聴率は「家族のうち誰か1人でもその番組を観ていたら、カウントされる」から、人数が多く、テレビが好きな50代以上に向く番組が圧倒的に有利なのである。
世帯視聴率至上主義である限り、テレビ界は50代以上が喜ぶ番組だけ制作していれば良かった。しかし、地上波がなんとか権威を保ち続けている米国は違う。1990年には個人視聴率が導入されていた。
個人視聴率の導入により、そのデータを制作者たちが番組づくりに役立てられるようになった。誰が観ているのか分からない世帯視聴率では視聴者ニーズが分からない。
個人視聴率は4歳以上の視聴者が調査対象で、観ていた人の性別、年齢、割合などが細かく分かる。新聞や雑誌に「個人視聴率」として表示されている数字は4歳以上の全体値だが、性別や年代ごとに表すことも可能だ。
もっとも人気があったのは「ぐるナイ」
以下、「T層」と呼ばれる13歳から19歳の個人視聴率において、数字が高かった番組のベストテンを挙げたい(1月16〜22日、19〜23時のプライム帯、ビデオリサーチ調べ、関東地区)
(1)日本テレビ「ぐるぐるナインティナイン2時間SP」(19日)
【T層6.7%】個人全体8.0%、世帯12.4%
(2)日本テレビ「世界の果てまでイッテQ」(22日)
【T層6.4%】個人全体7.3%、世帯9.8%
(3)日本テレビ「クイズ!あなたは小学5年生より賢いの?家族SP」(20日)
【T層5.7%】個人全体6.0%、世帯9.5%
(4)日本テレビ「金曜ロードショー パイレーツ・オブ・カリビアン/呪われた海賊たち」(20日)
【T層5.2%】個人全体5.0%、世帯8.1%
(5)日本テレビ「ザ!鉄腕!DASH!!」(22日)
【T層4.7%】個人全体7.8%、世帯11.5%
(5)日本テレビ「月曜から夜ふかし」(16日)
【T層4.7%】個人全体4.9%、世帯8.1%
(7)TBS「バナナサンド」(17日)
【T層4.5%】、個人全体4.7%、世帯7.3%
(7)TBS「水曜日のダウンタウン」(18日)
【層4.5%】個人全体4.1%、世帯6.5%
(9)日本テレビ系「秘密のケンミンSHOW極」(19日)
【T層4.2%】個人全体6.9%、世帯11.0%
(9)フジテレビ「芸能人が本気で考えた!ドッキリGP」(21日)
【T層4.2%】個人全体5.0%、世帯6.7%
日テレは12年連続で個人全体視聴率の3冠王(6〜24時の全日帯、19〜22時のゴールデン帯、プライム帯の全てにおいてトップ)。特に10代から40代に強い。いわゆるコア層である。
1位の日テレ「ぐるナイ」の売り物コーナーは「ゴチになります!」。タレントによる高級料理の料金当てで、大ハズレした人間は自腹を切らなくてはならない。
単純極まりない。その分、分かりやすい。それが10代には合うのだろう。この日の放送は新メンバーの小芝風花(25)と見取り図・盛山晋太郎(37)の発表があったので、T層の視聴率は普段より約2%高かった。
ちなみに、女性に人気が高いのもこの番組の特徴である。この日の放送の場合、女性の35歳から49歳(F2層)の個人視聴率は11.9%もあった。
3位は日テレ「クイズ!あなたは小学5年生より賢いの?家族SP」。意外に思う人は多いのではないか。地味とも言える番組だからである。
半面、やはり分かりやすい。また、10代にとっては自分たちの知識でも解ける範囲内で問題が出題されるところも良いのではないか。
クイズ番組は全般的に難問・奇問が増えすぎた。これでは視聴者に参加意欲が生まれない。難問を売り物とするTBS「東大王」(1月18日放送)のT層の個人視聴率は1.9%である。
5位の日テレ「月曜から夜ふかし」はマツコ・デラックス(50)と関ジャニ∞の村上信五(41)によるトークバラエティ。この番組に限らず、マツコは10代にウケがいい。TBS「マツコの知らない世界」の17日放送のT層個人視聴率も3.4%と高い。
マツコは格好を付けたり、物事を小難しく語ったりすることを嫌う。それが良いのではないか。分かりやすい言葉で物事の本質を伝えようとしているマツコの哲学が、T層に刺さるのだろう。
7位のTBS「水曜日のダウンタウン」の若者からの支持は鉄板だ。この番組は、世帯視聴率は低いが、痛くも痒くもない。もう各局とも使ってないし、スポンサーも見ていないのだから。次々と斬新な企画が飛び出すので、各局のバラエティ番組制作者が最も意識する番組とされている。
9位のフジ「芸能人が本気で考えた!ドッキリGP」もT層にウケている。やはり分かりやすい内容である。ドッキリ番組は他局にもあるが、観る側を笑わせるという点では、この番組が一番だろう。
タレントが芸能人仲間を騙す番組はフジ「スターどっきり(秘) 報告」(1976〜98年)が草分け。同局のお家芸だ。
ベストテン内にはドラマが1本もない。これは現在だけの傾向ではない。いつの時代も学校で話題になる番組はTBS「8時だョ!全員集合」(1969〜85年)やフジ「オレたちひょうきん族」(1981〜89年)などバラエティが中心だ。
ドラマで断トツなのは…
もっとも、ベスト20となると、ドラマも入ってくる。ドラマに限ると断トツの数字なのが、TBS「夕暮れに、手をつなぐ」である。17日放送の場合、世帯視聴率は8.0%に過ぎないが、T層個人視聴率は4.0%だった。
広瀬すず(24)とKing & Princeの永瀬廉(23)によるド直球のラブストーリーで、やっぱり分かりやすい。TBSとしては狙い通りだろう。20代前半の2人によるラブストーリーを、50代以上が積極的に観るとは最初から思っていないはず。プロのテレビマンなのだから。
すると世帯視聴率は上がらないものの、もう使っていないのだから、どんなに低くても気にしない。いまだ誤解している人も見受けられるが、「世帯視聴率2ケタがドラマの合格ライン」なんて時代はとっくに終わっているのである。
ほかにドラマでT層個人視聴率が良かったのは、フジ系「罠の戦争」(1月16日)、日テレ「ブラッシュアップライフ」(同22日)だが、それでもT層個人視聴率はともに2.8%。「夕暮れに、手をつなぐ」は頭1つ抜けている。
50代以上はラブストーリーを好まない傾向があるが、一方で10代は人情喜劇や人生賛歌をあまり観ないだろう。世代によってドラマの趣味は異なる。
全世代が楽しめるドラマが理想であるものの、それをつくるのは至難の業。50代以上が読む雑誌と10代が好む雑誌の中身は大きく異なるのと一緒。ドラマはターゲットに合わせてつくる時代になっている。
それが可能になったのも個人視聴率時代になったから。時代が変わったのに世帯視聴率の良し悪しでドラマを論じることは乱暴なのだ。
高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。大学時代は放送局の学生AD。1990年のスポーツニッポン新聞社入社後は放送記者クラブに所属し、文化社会部記者と同専門委員として放送界のニュース全般やドラマレビュー、各局関係者や出演者のインタビューを書く。2010年の退社後は毎日新聞出版社「サンデー毎日」の編集次長などを務め、2019年に独立。
デイリー新潮編集部