ツイッター社を買収したイーロン・マスクは昨年末、「後任が見つかったらCEOを退く」と表明しつつ、社員数を5分の1以下に削減するなど“独自改革”を進めている。今回の「新機能」もその一つで、インフルエンサーと称する面々の“実力”が露呈しかねないのだ。
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マスクCEOは昨年12月22日、ユーザーがつぶやいたツイートごとの閲覧数を表示できる機能を新たに設けたと発表。同日のツイートでは、
〈これでツイートが何回見られたかが分かる。ユーザーの90%以上が、読んでもリツイートもリプライも〈いいね〉もしないので、(新しい機能で)ツイッターが実際にどれだけ利用されているか、よりはっきりわかる〉
そう書き込んでいた。従来、ユーザーの発信力は「フォロワー数」がバロメーターとなっており、
「ある投稿がどれだけ見られているのかは、これまで投稿者自身にしか分かりませんでした。それが今後は新機能『ビューカウント』によって、その数が不特定多数の人たちにも可視化されることになったのです」
とは、ITジャーナリストの井上トシユキ氏。
「もっともこの機能は、1人が10回リロード(再読み込み)したら10とカウントされるため、『何人が見たか』という数字にはなりません。ただし、どの投稿が注目されているかの目安にはなり得る。ツイッターはかねて“幽霊アカウント”が多いSNSだとされ、“アクティブなプラットフォームなのか”と疑問符もつけられてきました。マスク氏は、まず投稿を見ている人は決して少なくないということを証明したかったのでしょう」
思わぬ“副産物”が
そして、マスクの意図をこうみるのだ。
「彼は以前から、収益化を加速させるべくツイッターを儲かるプラットフォームに変えたいと発言しています。広告収入以外の収益化を図るために、知悉する決済機能を実装する必要があると考えているのではないか。企業がツイッターで商品をPRし、ユーザーがツイッターの決済機能を用いて買い物をすれば割引を受けられる、そんなサービスも狙っていると思われます」
もっとも、そうした狙いが思わぬ“副産物”を生んでしまったようで、
「現在、ユーザー間で話題になっているのは、フォロワー数が多いにもかかわらず、そのアカウントからの投稿がそれほど見られていないという実態です。インフルエンサーと称する人たちであっても、本当はあまり影響力がないのではないかという疑問が、『ビューカウント』で浮き彫りになってしまったのです」(同)
「けがの功名」の篠田麻里子
実際に、影響力を持つとされる「インフルエンサー」のツイッターをのぞいてみると、例えば浜辺美波や永野芽郁といったフォロワー数が200万人を超す女優は、ツイートごとの閲覧数も軒並み100万ビュー以上を誇るなど順当だ。ところが、
「同じく200万人のフォロワーを持つ前田敦子は、多くても閲覧数が30万ほどと、あまり見られていないのがわかります。また元AKBでは、小嶋陽菜も代表的なインフルエンサーといえますが、彼女も311万人のフォロワーを擁しながら、自身が経営するアパレルやコスメを扱うブランドの宣伝をつぶやいても、20万〜30万ビューにとどまっているのです」(スポーツ紙ネット担当記者)
もっとも、そのアパレルの下着を着用した動画とAKB時代のコスチューム姿をアップすると、一気に220万ビューに跳ね上がるなど、ユーザーの好みが如実に反映されていると言えよう。一方で、
「不倫騒動で年末に世間を騒がせた篠田麻里子は現在、240万人ほどのフォロワーがいますが、最終投稿の12月22日のツイートはその3倍近く、650万ビューを超す勢いで見られています。古いツイートの閲覧数は表示されないのでこれまでとの比較はできませんが、騒動のおかげで再注目されたことを裏付ける格好となりました」(同)
この記者が続けて、
「お笑いに目を向けると、やはり松本人志が935万フォロワーと圧倒的な人気で、ビューも1千万超えが珍しくない。次いで有吉弘行が780万フォロワーで、ビューも100万台。反対に、333万フォロワーの田村淳や259万フォロワーの宮迫博之などは、ビューカウントとの“ズレ”が目につきます。田村の投稿は大体8万〜35万ビューといったところで、100万を超すのはわずかに過ぎません」
広告案件にも影響が
もっとも、投稿頻度が高いためミュート(相手に知られずに自身のタイムラインに表示しないようにする機能)にしているフォロワーが多い可能性はあるのだが、
「同じく厳しい状況なのが宮迫です。自身が出演したユーチューブを紹介するツイートは5万〜30万ビュー前後にとどまり、最近でも1月20日に投稿した舞台稽古中の写真は、わずか10万余り。ツイッター歴は10年以上になるのでフォロワー数は多いものの、人気とともに発信力にも陰りが見えるのは明らかです」(同)
先の井上氏が言う。
「インフルエンサーに依頼する広告代理店などの企業においては、もっぱらフォロワー数がアカウントの力を測る指標であるとされてきましたが、閲覧数が表示されることで、この物差しは過去のものとなります。これまでインフルエンサーともてはやされてきた人たちが激しく入れ替わり、広告案件などにも影響が出ることでしょう」
河野太郎もフォロワーは多いが…
さて発信力といえば、政治家にも不可欠な要素である。政界でフォロワー数が最も多いのは河野太郎デジタル大臣で、その数およそ267万。投稿したツイートもコンスタントに30万〜100万ビュー以上を得ているのだが、先の記者は、
「こうした100万ビューを超す投稿の内容をみると、一般ユーザーのツイートへのリプライが目立ちます。あるいは“エゴサーチ”で見つけたものも含まれているかもしれません。対して、たとえば高市早苗・経済安保大臣などは、フォロワー数は河野大臣の5分の1ほどに過ぎませんが、閲覧数は大差なく、内容も政治に関するものばかりです」
デジタル化の旗振り役を務める河野大臣にこうした点を尋ねると、
「ご質問いただきました件につきまして特に見解はございません」
とはいえ、この“新機能”で芸能人も政治家も発信力の真価が問われることになるのだ。
「週刊新潮」2023年2月2日号 掲載