「発泡酒ふさがりになって…」

 お笑いコンビ「コットン」のツッコミ担当で、昨年は「キングオブコント2022」で準優勝を果たした西村真二さん。元アナウンサーという異色の経歴を持ち、Twitterでの「衣装予報」などでも人気を博す彼が“若手芸人の中でもずば抜けている”と評する相方・きょんの才能とは。

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「うわ! このブリのマグロおいしそう…」

「それで俺どうすることもできなくて発泡酒ふさがりになって…」

「その言葉はストレート過ぎるからもっと言葉をアメーバに包んで…」

 こんな耳を疑うような奇天烈な発言が、10年間ほぼ毎日私の鼓膜に届けられる。送り主はコットンのきょん、私の相棒だ。特筆すべきは本人がその誤りに気付かず発送してくること。無論受け取った以上は私もツッコミという名の印を押す。

「どっちだよ! ブリの出世にマグロ入ってねぇよ!」

「発泡酒でふさぐな! そこは禁酒しろ!」

「オブラートな! アメーバだと言葉がベトベトになるだけだろ!」

 ここでの私のフレーズの良し悪しはさておき、この一連のやりとりが我々コットンのお決まりの“定食”であり、劇場や観覧のお客さんに好んで召し上がっていただくことが多い。

元サラリーマンとは信じられない相方・きょん

 息をするように言い間違えたりかんだりされることで、常時ツッコミの訓練ができるという利点はあるが、もちろん弊害も生まれる。

 例えば、相方がトークをするときに本編に入る前談部分で言い間違えると笑いが起き、そのエピソードが話せなくなる。あるいは自分以外の芸人にスポットが当たっているときに、相方の奇怪な言動で笑いのターンを奪ってしまうことなどがしばしばある。

 芸人は基本的にその場が面白ければ何でも許される世界だが、新喜劇を代表とする団体芸を重んじる吉本は無論チームワークも大切にしている。

 相方が芸人になる前にサラリーマンだったことが未だに信じられない。

 しかしこんな相方が、お笑いで一際光り輝く瞬間がある。

 それは、コントをするとき。

 とりわけ何かのキャラクターを体に憑依させるときだ。

 前述のようなミスをする相方だが、この能力だけは若手芸人の中でもずば抜けている。

 まるで片方のハサミだけが巨大化した蟹のようだ。

「ケイト・ブランシェット」と「コットンきょん」

 そして不思議なことに誰かを憑依させた相方は、なぜか言い間違えたりかんだりしない。であればコットンきょんとして舞台に立つときも滑舌の良い人をほんのり憑依させてほしいものだ。

 昨年のコントの日本一を決めるキングオブコントという大会では、2人の女性を演じ分け、その演技力や憑依力にあの三谷幸喜さんがべた褒めをした程だ。余程気に入られたのか、数日後にある情報番組に三谷さんが出演された際、今一緒に仕事をしたい有名人は誰かと聞かれ「ケイト・ブランシェット」と「コットンきょん」を挙げた。番組の巨大モニターに妖艶なハリウッド女優とおとぼけ丸坊主が並べられたときはさすがに笑った。二足歩行と肺呼吸以外の共通点が何も見つからなかったからだ。

 相方の天賦の才は我々コットンのネタの裾野を無限に広げてくれる。昨年あと一歩のところでトロフィーをつかみ損ねたキングオブコント。今年その頂に立つためには、この私の相棒の能力が鍵になることは間違いない。

 うちの看板俳優のために、最高の台本を作ることが今の私の急務である。

西村真二(にしむら・しんじ)
1984年生まれ。お笑いコンビ「コットン」のツッコミ担当。「キングオブコント2022」準優勝。

デイリー新潮編集部