『あなたとコンビニとニッポン』紗倉まな×渡辺広明(後編)
全国5万8,000店舗、年間159億人が買い物する“コンビニ超大国ニッポン”。老若男女、昼夜を問わずさまざまな人が訪れるコンビニは、その目的や利用方法も人によってさまざまだ。「コンビニとの付き合い方」を覗いた先に見えてくるものとは? コンビニジャーナリスト・渡辺広明氏が、ゲストを招きコンビニについて大いに語り合う──。
ゲストは人気セクシー女優の紗倉まな氏(30)。前編では、売り場が縮小する「ガム問題」について熱弁していた彼女。コンビニのヘビーユーザーだけに、後編となる今回もコンビニに対する言及は止まらない。とくに愛犬家である彼女にとって、ペット用品の品揃えに不満があるようだ……。
雑誌の売り上げ激減で誕生した新たな売り場
紗倉まな(以下、紗倉):常連客が特定の商品を買い支えることで、その店舗だけ売り場が維持されることがある(前編参照)と仰っていましたが、コンビニオーナーの裁量権はどの程度あるんでしょうか。コンビニは同じチェーンでも店舗ごとに微妙に品揃えが異なりますよね?
渡辺広明(以下、渡辺):素晴らしい着眼点ですね。かつてのコンビニは「全国どこへ行っても同じ品揃えのものが買えること」が強みでした。しかし、多様化が進むなかでコンビニも地域に合わせた売り場づくりが進んでいます。基本的には本部推奨の商品があり、そのなかからオーナーが自身の店舗に置く商品を選んでいくため、大きな個性は出せません。しかし、野菜や地元企業の人気商品など、全国一律で品数を確保できない商品に関しては、オーナーが独自に交渉して仕入れています。
紗倉:最近は、ロフトやダイソーの商品を扱っているコンビニもありますよね。
渡辺:セブン-イレブン(以下、セブン)ですね。あれはオーナーではなく、企業同士が協力して生まれたコーナーです。ほかのチェーンではローソンの無印良品が該当します。
紗倉:そうだったんですね。私、あのコーナーが大好きで「もう少し棚が広がるといいな」っていつも思ってるんです。
渡辺:コンビニは毎週約100点の新商品が登場する弱肉強食の世界です。限られたスペースを確保するだけでも大変なのですが、ロフトやダイソーのように新たな売り場が登場した背景には、ある商品が売れなくなったことが関係しています。
紗倉:ある商品?……なんだろう。
渡辺:雑誌です。WEBメディアの台頭で雑誌の売り上げが激減し、コンビニも雑誌売り場が縮小されました。その結果、日用品や生活雑貨などを置くスペースへと変わったんです。
紗倉:たしかに、雑誌コーナーは減りましたね。売り上げが落ちたこともそうですし、東京オリンピックを前にコンビニから成人誌が消えたことも強く印象に残っています。
渡辺:紗倉さんのお仕事的にも、決して他人事ではない出来事だったでしょう。
紗倉:成人誌のグラビア仕事が減ったのもこのタイミングでしたからね。今となっては、地元のコンビニでしか成人誌を見かけませんね。
渡辺:まだ成人誌を置いてるコンビニがあるんですか!? ローカルコンビニですよね?
紗倉:皆さんご存じの大手チェーンですよ。
渡辺:大手ですか!?……だとしたら、本部経由じゃなくてオーナーが独自に仕入れているんでしょう。
紗倉:そうかもしれません。そして、その成人誌を買い支えている常連客の一人は私の母です(笑)。
渡辺:紗倉さんのお母さんが!?
紗倉:成人誌の表紙に「ロリ」と書かれていると、母は「娘が載っているかも」と購入してしまうそうです。そのせいで、母は近所で「エロババア」と呼ばれています(笑)。
渡辺:すごい話ですね(笑)。いや、でもイイ話ですよ。

コンビニが「猫派」に寄り添う理由
紗倉:そう言えば、雑誌売り場が減ったことでスペースが空いたのなら、もう少し充実してほしい商品があるんですよ。
渡辺:ガム(前編参照)ですか?
紗倉:いえ、ガムの件はひとまず納得しましたので、それ以外です。コンビニに「ペット用品」が増えるとありがたいなと思っていまして……。
渡辺:なるほど。たしか紗倉さんは犬を飼われてますよね。何という名前でしたっけ。
紗倉:公表してないんですよ。「個犬情報」の都合上、名前は伏せさせていただいておりまして、SNSなどでは「イッヌ様」とお呼びしています。
渡辺:「イッヌ」って、犬のネットスラングでしたっけ?
紗倉:そうです。よく利用するコンビニに犬のおやつコーナーがありますが、品揃えに物足りなさを感じています。なぜか犬よりも猫向けの商品の方が多いんですよね。
渡辺:その品揃えは、実はコンビニの特徴なんです。ペット市場全体で見ると、犬の方が市場が大きいのですが、コンビニが重視しているのは猫の方です。
紗倉:どうしてですか?
渡辺:コンビニ利用が多い一人暮らしの場合、犬よりも猫を買っている人の方が多いからです。ただし、近年は小型犬を飼う人も増えているので、小型犬用のドッグフードを扱う店舗も増えています。
紗倉:それ、ずっと気になってたんです。置かれているのは小型犬用ばかりで、うちのイッヌ様は中型犬なんですよ? コンビニは中型犬・大型犬に対して冷たい……。
渡辺:需要の問題ですから、しょうがないじゃないですか。中型犬や大型犬を飼っているのはファミリー層が多く、彼らはペット用品の購入でコンビニを利用しませんからね。
紗倉:「中型犬を飼っている単身者もいるよ!」という声をコンビニの本部に届けたいです。
渡辺:届いたとしても、都市部では難しいですよ。近隣にお店が少ない地方ならば、コンビニで取り扱っている可能性は高いと思いますが。
紗倉:ずるい。
渡辺:有り体に言ってしまうと、コンビニの判断は「売れるか売れないか」です。ただし、紗倉さんはコンビニのヘビーユーザーですから、行きつけの店舗に訊ねてみる価値はあります。もしも本部推奨の商品のなかに中型犬向けのドッグフードがあれば、オーナーが常連客である紗倉さんの要望に応えてくれるかもしれない。
紗倉:それはいいことを聞きました。近いうちに必ず確認してみます!
「購入を決めるのは飼い主」というジレンマ
渡辺:ドッグフードで思い出したんですけど、以前、ムツゴロウ(畑正憲)さんとドッグフードの商品開発をした際に怒られたことがあります。
紗倉:何があったんですか!?
渡辺:商品開発する上で、僕が心掛けているのは「お客様のため」です。ムツゴロウさんも喜んで共感してくれて、「犬は臓物が大好きだから、臓物系のドッグフードをつくろう」と提案されました。ところが、いざ試作品をつくってみたら、めちゃめちゃ臭いんですよ。激臭が部屋全体に充満するんです。メーカーからも「いくら犬が喜ぶとしても、この臭いでは飼い主が買わない」と言われ、たしかにその通りだなと。でも、それをムツゴロウさんに説明したら「お前、『お客様のため』だと言ってたじゃないか!」と怒られてしまいました。
紗倉:渡辺さんにとってのお客様は飼い主で、ムツゴロウさんにとってのお客様は犬だったわけですね。さすがムツゴロウさんです(笑)。
渡辺:「エンドユーザーは飼い主じゃなくて犬だろ!」と、たしかに仰る通りなんです。でも、やはり購入するか否かの判断は飼い主なので、結局、臭いがネックとなり商品化には至りませんでした。
紗倉:さすがに臭い商品は購入を躊躇いますね……。
渡辺:それに、ペット用の主食は価格が高くなりがちなので、どうしてもコンビニでは売れにくい傾向があります。おやつ系は売れるんですけどね。
紗倉:おやつ系ならば、水分補給用のゼリーはどうですか? コンビニであまり見かけないのですが、夏場にイッヌ様を散歩させているとき、コンビニにささっと立ち寄って買えたら便利だなと思います。
渡辺:ペットを繋ぐ専用ポールを設置しているコンビニも増えてますからね。でも、どうかな……その地域次第ですかね。都市部ならばニーズはあるかもしれない。
紗倉:これは実現してほしいです。
渡辺:ゼリーを置くかは別として「ペットの散歩途中」という視点はいいですね。新たな発想のヒントになりそうです。ほかにもペット用品に限らず、何かあったら聞かせてくださいよ。紗倉さんは作家として創作活動もやられていますから、興味深いアイデアが出てきそうです。いつか一緒に商品開発できたら楽しそうですね。
紗倉:楽しそう! こちらこそ、ぜひお願いします!
紗倉まな(さくら・まな)
1993年千葉県生まれ。2012年、工業高等専門学校在学中にSODクリエイトの専属女優としてデビュー。2015年には「スカパー!アダルト放送大賞」で史上初の三冠を達成。近年はタレント業のほか、エッセイ『高専生だった私が出会った世界でたった一つの天職』(宝島社)、小説『最低。』(KADOKAWA)、『ごっこ』(講談社)など執筆業においても非凡な才能を見せている。
渡辺広明(わたなべ・ひろあき)
消費経済アナリスト、流通アナリスト、コンビニジャーナリスト。1967年静岡県浜松市生まれ。株式会社ローソンに22年間勤務し、店長、スーパーバイザー、バイヤーなどを経験。現在は商品開発・営業・マーケティング・顧問・コンサル業務など幅広く活動中。フジテレビ『FNN Live News α』レギュラーコメンテーター、TOKYO FM『馬渕・渡辺の#ビジトピ』パーソナリティ。近著『ニッポン経済の問題を消費者目線で考えてみた』(フォレスト出版)。
デイリー新潮編集部