食とは人生そのものである――。27年にわたって著名人の食生活を紹介してきた本誌(「週刊新潮」)の名物コラム「私の週間食卓日記」。千差万別の食のあり方を分析してきたのは管理栄養士の荒牧麻子さんだ。理想的な食卓とはいかなるものなのか。荒牧さんが「食の哲学」を明かす。

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 1998年9月3日、赤塚不二夫は食道がんの定期検査のため、順天堂大学の病院に出向いた。

〈看護婦さんが診察までお茶を飲んで良いと言ったので病院内の食堂「ヒルトップ」で赤ワイン1杯。その後、佐藤先生の診察。(中略)お酒は夜だけと言われ、嫌われたくないので「ハイ」と言う。昼は「ヒルトップ」の冷し中華にワイン1杯。帰宅して共同通信の原稿制作をしているとキッチンからは刺激的なカレーの香りが漂ってきた。また今夜もおいしくお酒が飲めるのだ。コレでいいのだ〉

 主治医の言葉に背いたせいか、彼はその2カ月後に再入院している。

 三國連太郎は2004年5月16日、「釣りバカ日誌15」の地方ロケのため、秋田県に滞在中だった。

〈今日は撮休なので、近くの乳頭温泉郷・鶴の湯温泉に行く。乳白色の硫黄泉でゆっくりお湯につかって撮影の疲れを癒す。(中略)スタッフ、キャストと一緒に夕食バイキング。焼鳥2本。鰹のタタキ、こし油とウドの葉の天ぷら。じゅんさいの三杯酢、八宝菜、茶碗蒸、キムチ納豆、ご飯、コーヒー。(中略)午後11時に就寝〉

 当時の三國は81歳。旺盛な食欲に驚かされる。

 2015年3月20日、岩下志麻は午前7時に目覚め、自宅のベッドで屈伸運動を始めた。

〈毎朝白湯(さゆ)コップ1杯。身長165センチ、体重は30年変化なしです。朝食は天然酵母玄米食パン1切れ、キャベツ、ピーマン、人参炒め。ホットミルクとりんごは毎朝。ビタミンB、C、EとEPAのサプリメントも毎日。朝食のあと、いつも携帯のメールチェック。(中略)自宅で夕食。舌平目ムニエル、インゲンのごま和え、ワカサギの佃煮、湯豆腐など。豆腐は夫のリクエストで毎日食べる〉

 彼女は現在も美貌を保っており、夫の篠田正浩監督は今年93歳の長寿である。

コラムに登場した大物たち

 1997年8月14・21日夏季特大号から始まった「週刊新潮」の名物コラム「私の週間食卓日記」は、四半世紀に及ぶ連載で1300回を超えた。

 その間に登場した著名人には物故された方も多く、懐かしい名前が並ぶ。

 団鬼六、立川談志、はらたいら、小沢昭一、菅原文太、新藤兼人、なかにし礼、金田一春彦、中島らも、島倉千代子、田辺聖子、山口淑子、朝丘雪路、中村メイコ、京唄子、川島なお美。

 そもそも、このコラムは誌面に各界の著名人を登場させたいという編集部の発案からスタートした。ご本人に1週間分の日記をつづっていただき、そこに「食生活」という軸を加える。タイトルは「私の週間食卓日記」とした。

 さらには、食の専門家が彼らの食生活を評価、アドバイスをすることで読者の疑問、関心に応える。

 また、日記に年齢、身長、体重を書くことが条件だった時期には、断られることも何度かあった。特に女性は体重を明かすことを嫌がったという。

食の外部化

 のべ1300人を超える著名人に食のアドバイスをしてきたのは管理栄養士の荒牧麻子氏である。連載開始当時、彼女の肩書はダイエットコミュニケーションズ代表だった。

「何のために痩せるのか、高齢者に聞くと、100歳まで生きるとか、長寿に結び付けた答えが返ってくるんですね。だけど、必ずしも長生きじゃなくても、自分がやりたいことをやりながら快適に過ごすためにはどうしたらいいかを考えなければいけないので、まずはおいしく楽しく食べられて、元気ならいいという視点でアドバイスしようと考えました」

 荒牧氏は、90年代に成人病が生活習慣病と呼ばれるようになり、メタボリックシンドロームという言葉が浸透した背景について、日本人の食生活の変化があると指摘する。

「例えば肉類、油脂類の消費、摂取量は緩やかに拡大し、雑穀、米の消費は減少しています。小麦粉を原料とするパスタ、麺類、パンなどの粉食はあまり変化がありませんが、特徴的なのは、食の外部化が進んだことですね。ケイタリング、テイクアウト、デリバリーなど、冷たい弁当から温かい弁当へと食の調達方法がいくつも生まれました」

 他に目立った動きとして、2000年のシドニーオリンピックで、マラソンの高橋尚子選手が優勝したとき、選手の食事管理がクローズアップされたことを挙げる。

「あれでスポーツ栄養の分野が一気に盛り上がり、プロ野球、プロサッカー、マラソン選手などが次々にアドバイザーや料理人を雇用し、アマチュアの間でも食事管理に対する関心が高まりました。自己のパフォーマンスをピークにもっていくための食事を考えるようになったのです」

90点以上の高評価となった有名人は?

 荒牧氏がコラムで著名人の食生活を論評するだけでなく、数字を入れて採点するようになったのは、連載が始まって5年後の第217回からだった。

 採点基準については、「実用的な食生活となっているかどうか、つまり、健康を確かなものとするための暮らし方というか、保健的な暮らし方という流れにどれ程近づいているのか、または離れているのかを見定める」とのこと。

 この基準に従っての採点は、100点満点の評価から辛口の30点台、はては採点不能までと幅広い。

 満点、あるいは90点以上の高評価には、雪村いづみ、内海桂子、有馬稲子、岡田茉莉子、岩下志麻、小山明子、加藤治子、ジュディ・オング、大宅映子、三浦朱門、外山滋比古、金田一春彦、田原総一朗、張本勲、草野仁、小沢昭一、篠沢秀夫らの名前が挙がる。

「登場人物としては男女が半々くらいだと思うのですが、点数がいいのは圧倒的にベテラン女優さんたちですね。それと100歳で現役の方には文句なく満点をつけました」

 ベテラン女優の評価がおしなべて高くなるのは、仕事でさまざまな所へ出かけてさまざまな物を食べた経験から、料理全般に広い知識があり、それを自分のものにした食事を取っているからだと、荒牧氏はみる。

「若い女性タレントさんたちは、まだ発展途上です。体調が心配になるほど少食な方もおられましたし」

低評価の理由

 食べる量は人によって異なるが、元気な高齢者には食欲旺盛な人が多い。

「90歳で今も活躍してらっしゃる黒柳徹子さんは、食事量がすごいと仰っていますね。1日に1回は若い人たちと食卓を囲んで、同じものを食べる。それにはお肉をしっかりかめる歯が必要で、きちんとお手入れされていると思います」

 荒牧氏が長寿の人たちの共通点に挙げるのが、若い世代との交流だ。

「年寄りは、一人でボソボソ食べることが多くなるんですが、若い人たちと一緒なら、つられて同じものを食べたりしますでしょ。ともに百寿者となった双子のきんさんぎんさんはカレーが大好物だったそうで、家族みんなで食べると食欲が増すんですね。共食の効果は大きい」

 一方で、大幅な改善が必要とされる低評価を受けた人も相当数いる。

 安藤なつ、井上和香、道端ジェシカ、鳥居みゆき、中島らも、デューク更家、秋山仁ら。フードファイターのもえのあずきにいたっては採点不能である。

 低評価の理由はさまざまで、毎日同じものしか食べないという極端な偏食、カロリーオーバー、栄養不足に近い少食、ヘビーな喫煙、飲酒などなど。

「日記を読むと、食文化とか食生活に関心がない。どこでも学んでこなかったという印象を受けます」

“野菜依存症”

 高評価と低評価の中間層に多々見られるのが、野菜を中心とした献立だ。中でも青菜が多く、健康的に映るが、荒牧氏はこれを“野菜依存症”と呼ぶ。

「野菜好きを自慢していた方もおられましたが、実は1日にどれだけ野菜を摂取するべきかというエビデンスはないんですよ。厚労省は1日350グラムの摂取を呼びかけ、農水省も緑黄色野菜を推奨していますが、農業政策上そうなっているのだろうと思っています」

 世界的に見ると日本の1日の平均野菜摂取量は約291グラムでランキング10位。第1位は中国の767グラム、ギリシャ659グラム、韓国585グラムと続く。

 しかし、これには数字のマジックがある。

「アメリカもそうですが、ギリシャとかイタリア、スペインなどは重さのある野菜の芋やトマトを多く食べているんです。トマトひとつが約200グラム、ジャガイモが約150グラム近くありますから、これだけで日本の野菜摂取量を超えてしまう。日本は葉っぱみたいなものを沢山食べなくてはいけないと思っている人が多くて、本当に取らなくてはいけないものを分かっていない」

「葉っぱにこだわらなくていい」

 確かに、ホウレンソウや春菊、小松菜などの葉物野菜で、国が推奨する350グラムを取るのは難しい。

「自分の畑で採れるものを食べている人は別にして、都会で生活する人たちにとって、野菜は季節や気候の変動で家計を揺るがすほどの値段になることがあります。調理もゆでてから水にさらしたり、あえたりと、面倒くさい」

 そこで荒牧氏が勧めるのは、野菜に匹敵する栄養がある海藻、キノコ、豆類、雑穀などの植物性食品だ。

「それらをきちんと取れば、葉っぱにこだわらなくてもいいと思うんです。サラダバーに並んでいる野菜は栄養的に見ればほとんどが水分で、シャキシャキした食感、彩りのテクスチャー(質感)で食べたという満足感がある。それよりは、もずくの酢の物とか、キノコ類をみそ汁や煮物に加えて食べてください」

果物の重要性

 その他に荒牧氏が積極的な摂取を推奨するのが果物全般で、毎日食卓にのせてほしいという。

「ブドウ、イチゴ、オレンジ、プルーンなど、色の濃い果物にはとても大事な成分が含まれています。食物繊維やビタミンC、カリウムが豊富な果物には、さまざまな機能性があって、特に人体の免疫に関係していることが分かっています」

 2004年、アメリカのリチャード・アクセル博士とリンダ・バック博士は「匂いの受容体遺伝子の発見」で、ノーベル生理学・医学賞を受賞。嗅覚の生理の謎を解明するための突破口となった研究である。

「匂いの通り道がとても大事で、鼻の中にある受容体が感知して、まず脳に行き、それから内臓など体全体に情報が伝わっていく。免疫を強化させるための香りを感じるには、果物やハーブ類が一番手軽なんですね」

 低評価者の中には果物をほとんど食べていない人がいて、特に若い男性に多い。野菜を取っているから大丈夫と安心しているのだ。

「果物と野菜は機能性から考えたら全く違う。免疫という働きは目に見えない体内で起こっています。私が毎回コラムで、季節の新鮮な果物を勧める理由は、この働きを活用してほしいからなんです」

登場がかなわなかったイチロー

 免疫を高めるために、手っ取り早くサプリメントを利用する人もいる。

「毎日16種類のサプリメントを取っているという作曲家の方がおられて驚きました。実はビタミンC50ミリグラムを食品から取るのと、サプリメントで取る効果の違いはよく分かっていないんですね。ただ、ご自分一人でサプリメントを管理するリスクは負わない方がいい。長期間飲み続けるのなら、病院や薬局で相談するとかなさってください」

 コラムには各界の著名人が登場しているが、リクエストしてかなわなかったのが、イチローである。

「他にも食卓日記を拝見したかったアスリートが何人かいたんですが、声が届かなかった。ああいうスーパースターがどんな食生活をしているのか知りたいですよね。イチローさんは、試合があるときは毎朝カレーだったそうですが」

 企業秘密でもあるのだろう。スポーツ選手は自分のコンディション作りの鍵となる食事をなかなか公開してくれないという。

「アスリートだけでなく、外科医の先生のオペ前と後、ピアニストの演奏前と後とかも、食事の内容が変わっていました。ご自分の仕事に合わせたメリハリをつけておられるんですね」

 その時のコンディションに合わせて和洋中と食を選択する人がいる一方で、中高年には和食を中心とした献立が目につく。

 そこで問題になるのが塩分の摂取量である。

「どこまで減らしたらいいかは、相変わらずの課題です。土台がみそと醤油の国ですから、それを使わないのは、日本の食文化を否定することにもなるので、私も悲しいんですけど」

 日本人の1日の塩分摂取量の目標は、男性が7.5グラム未満、女性が6.5グラム未満とされる。

 しかし、朝食で塩ザケ、みそ汁、醤油をかけた納豆、漬物を食べると、5グラムに達してしまう。

「それもあって、1日1食は塩分の少ない洋風なメニュー、パン食やシリアルをお勧めしています」

 また、市販のカップ麺の多くには5〜6グラムの塩分が含まれている。

「そばつゆ、ラーメン、うどんのだし汁を飲み干すのも避けていただきたい」

 塩分が問題になるのは血圧に関わってくるからで、高齢になれば数値が高くなるのは自然の流れだが、高低差は少ない方がいい。

「でも、日本は間違いなく長生きの国なので、塩分だけをピンポイントで問題視する必要はない気がします。高齢者が若い人たちと同じ食事を柔軟に取り入れたことも、長寿に影響していると思われますので」

 一般的に、人間の味覚は10歳ごろまでに覚えたものが、その後も持続するという。関東と関西では味付けが異なるし、だし汁の色だけでも好みが分かれる。

「ただ、若い人はおおむねラーメン、餃子、粉物好きですから、全般的に塩分の摂取が増えがちです。だから、塩分摂取に関しては、高齢者より、若い人の方がもっと細かく気を付けた方がいいと思います」

「食欲を増すためには…」

 食事の回数については、1日3回が標準とされるが、食が細くなった高齢者には、3回では必要な栄養素が摂取できないことがある。

「量が食べられなくなったら、1日に4回とか5回とか回数を多くしてください。それと、おやつがすごく大事です。脂質が多く、総じてカロリーが高いケーキ類より、おはぎのような和の甘味がいいでしょう。あと高齢者が気を付けたいのは水分補給ですね。お茶を飲むか牛乳、あるいは果物で、きちんと補給する」

 1日に必要な水分量は約2リットル。半分は食品に含まれているので、残りの1リットルを飲み物で取る。

「とにかく高齢者は低体重になることがリスクです。食欲を増すためには、一人で食べるのではなく、友人と共食したり、なじみの飲食店を何軒か見付ける。食事作りが大変なら、調理済み食品や冷凍品を買い込むとか、デリバリーを利用するのもいいでしょう」

 高齢者の栄養不足とは逆に、現役世代のカロリーオーバーも問題だ。

 中年太りを気にする人がダイエットをするとき、ローカロリーの食卓に付き合ってくれる人がいれば、長続きするという。

「監視役というか、同居人や友人がいるといいですね。大皿を注文して分け合ったり、半分を人に譲ったりして、量を減らす方法はいくらでもあります。2〜3キロの減量なら自力で管理できるし、数カ月で効果が出ますが、それ以上は医学的な管理を含めて、スポーツセンターや地域の保健センターを利活用することをお勧めします」

 1日に必要なカロリー摂取量は、男女とも体の活動量が多い人を除き、身長から算出した標準体重に30を掛けて算出する。例えば60キログラムの体重なら、60×30=1800キロカロリー。ダイエットの目標は、カロリー計算をしながら、標準体重まで落とすことである。

「糖尿病の方は食事制限があるので、食品のエネルギー量をよく知っておられます。例えば同じメロンパンでも、お店によってカロリーが違う。ダイエットにはそういう知識が必要で、自分一人でやるのは結構大変なんです」

 ダイエット中でも削ってはならないものがある。

「糖質や脂質は余分に取れば体内に蓄積されて残りますが、タンパク質は少し余分に取ったとしてもほぼ排出されます。だから、タンパク質は毎日一定量を取る必要があります」

 また、脂肪のため込みを防ぐには、血糖値を急激に上げないよう、何を最初に食べるかも注意が必要だ。

「いきなり糖質・炭水化物を含む料理や食品を体内に送り込むのは避けたい行動です。料理の中で糖質量の少ないものを先に食べ、満腹感を得て、ゆっくりよくかんで、食べすぎにブレーキをかけます」

 付け加えると、荒牧氏は料理を残すことを躊躇(ためら)わない。量が多いと思えばパンやライスを半分にして、食欲旺盛な人に食べてもらったり、市販の弁当なら、残したものを次の食事に回すなど、習慣化している。

 腹八分目は荒牧氏の食の哲学でもあるのだ。

「食事の量もそうですが、基本の考え方は、食べ物からもたらされる情報が体の中を駆け巡っているので、いい情報を取り入れたいということですね」

 他に荒牧氏は、食事を充実させるため、食卓に四季や旬が反映されていること、子供の頃(10歳前後まで)に味わった家庭や地域の味を取り入れることを推奨する。おいしく食べるためには、見た目も大事で、工夫が必要なのだ。

「ブリア=サヴァランの『美味礼讃』(玉村豊男訳)に『どんなものを食べているか言ってみたまえ。君がどんな人か言い当ててみせよう』という言葉がありますね。あれを読んで、なるほどと思ったんです。食に関する古典的な教科書のひとつですが、おいしいものとは何かを語るにはあの本が必要かなと」

荒牧さん自身の食卓日記

 ブリア=サヴァランはフランスの美食家として知られ、「禽(きん)獣は食らい、人間は食べる。知性ある人間だけがその食べ方を知る」などの名言を残している。

 世界には各地でそれぞれの美食が存在するが、共通しているのは、どこで誰と食べるかで、味わいが異なるということだ。

「私は今、ある施設をお借りして、若い人との共同炊事、共同生活の試みをやっているんです。そこに地域の高齢者の方もやって来て、一緒に食事をしたり、情報交換したりしています。実は誰かと食べることの大事さに気付かせてくれたのは、泉谷しげるさんの食卓日記だったんです」

 荒牧氏が影響を受けたのは、2023年10月19日号に掲載された回である。

〈週末にイイものを食べたいとか記念日に御馳走つくろうとかの気分がナゼかどんどん無くなってるな〜。食欲は前より増してるハズなのにだ。コロナのせいでもある。独りで食べても寂しくないことを知ってしまったのだ〉

「家族はいるけど泉谷さんは、自分一人で食事を作って一人で食べてる。これは私自身の経験から想像したことですが、泉谷さんがおいしいものを作る気持ちをなくしてしまったのは、なにか違う、物足りないと感じていたからだと思うんです。一人で食事をするときは、『ご飯できたよ』と声をかけたり、家族の『おいしかったよ』のひと言が聞けませんよね。だから、泉谷さんの食への興味が薄れてきたという心情に共感したんです。年を取ったら家族が1人抜け、2人抜けしていくでしょう。料理を作るのは重労働だけど『早く食べてよ』と怒って言える相手がいる方が幸せだったと、改めて思いました」

 最後に荒牧氏はどんな食生活をしているのか、ある一日のメニューを披露していただいた。

朝=丸食パン、半熟卵、トマト・サニーレタス・生ハムのサラダ、ヨーグルト+イチゴ、カフェオレ。

昼=レストランであさりのショートパスタ。

おやつ=クリームパン、コーヒー、のど飴。

夜=カキフライ2粒、豚肉とキャベツの甘酢みそ炒め、雑穀とカイワレの雑炊、もずく酢、どら焼き2分の1、甘夏4分の1。

 ヘルシーな食事に加え、早朝の散歩とラジオ体操を日課にしている荒牧氏は、ぜい肉のない体形を保ち、マニキュアが似合うおしゃれな女性だ。彼女は地域の人たちとも交流し、その輪を広げている。

 単なる食事ではなく、食を通じて人とつながり、心身両面で満たされることこそが、理想の食生活といえるのではないだろうか。

取材・文 松田美智子

荒牧麻子(あらまきあさこ)
味覚のギャラリー主宰、献立評論家、管理栄養士。女子栄養大学卒業。1973年からホテルオークラヘルスクラブの栄養相談を担当。97年より続く本誌コラム「私の週間食卓日記」で、のべ1300人の著名人に食のアドバイスを行っている。

松田美智子(まつだみちこ)
作家。フィクション、ノンフィクションともに多くの先品を手掛けてきた。小説に『天国のスープ』、ノンフィクション作品に『仁義なき戦い 菅原文太伝』、『水谷豊 自伝』(共著)等がある。

「週刊新潮」2024年5月2・9日号 掲載