北の大地で耳を疑うような事件が起きた。79歳の老人が高齢者施設で、100歳代の女性に性的暴行を加えて逮捕されたというのだ。特殊な事件の背景を探ると、荒(すさ)み切った男の人生と、老いにまつわる深刻な問題が浮き彫りになった。
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北海道・弟子屈(てしかが)町は道東に位置し、摩周湖と屈斜路湖を擁する。川湯温泉もあり、観光にはまさにうってつけの場所といえよう。だが、そんな観光名所にはおよそ似つかわしくない事件が、今月7日、町内の高齢者施設で起きた。
「7日午後9時半ごろ、JAが運営する高齢者福祉施設で、79歳の佐藤基次容疑者が寝たきりの100歳代の女性に対して性的暴行に及んだ。佐藤容疑者は不同意性交等の疑いで北海道警に逮捕されましたが、女性は8日午前0時55分ごろに死亡。司法解剖の結果、目立った外傷はなく、死因は“内因性”のものでした。道警は現在、性的暴行と死亡との因果関係を慎重に調べています」(社会部デスク)
「プラプラしていて働かない」
凶行に及んだ佐藤容疑者とはいかなる人物だったのか。彼を古くから知る近隣の住民に話を聞いた。
「40年以上前の話になるけど、基次は川湯温泉でバーテンをしていた。バーテンといっても、ただで酒を飲めるから手伝っていた、という程度。給料らしい給料はもらってなかったはず。日銭に困ったら、たまにホテルの番頭をやったりしてね。とにかく、プラプラしていて働かないんだ」
しかし、そんな男にも家族はいたようで、
「基次が30代半ばの頃だけど、奥さんもいて、子供だって2、3人はいた。だけど、基次が働かないもんだから、奥さんは子供を連れて出ていった」(同)
「部屋でまきストーブをたいて…」
独り身となった佐藤容疑者は3年前までは、町内にある古いアパートの一室で一人暮らしをしていた。大家の親族が言う。
「佐藤さんが住んでいたのは6畳程度の部屋です。家賃は2万〜3万円でした。ここには十数年前に転居してきて、当時から生活保護を受給していました。部屋でまきストーブをたいたり、迷惑な人でね。家賃も支払わなくなったので、退去してもらいました」
部屋を追い出された佐藤容疑者が向かった先は、町営のアパートだった。住民が明かす。
「もう完全な認知症でさ。俺が鍵開けたまま、家空けて出かけるでしょ。帰って来たら、家の中に佐藤さんが突っ立ってんの。ギョッとしたよ。家事もできないから、ヘルパーさんが度々お手伝いに来てた。“俺の悪口を言ったろ”と住民に難癖をつけたりもするので、みんなで町役場に要望を出して、施設に入れられたってワケだ」
前頭葉の萎縮で
その施設を運営するJAの担当者に管理態勢を尋ねると、
「全室個室ですが、監禁になってしまうので、外から鍵はかけられません。また、監視カメラも『ドライブレコーダー』のようなもので、入居者の安全を常に見守るものではなかった」
管理態勢の甘さが事件の遠因だったと認めるのだ。
高齢者専門の精神科医の和田秀樹氏は、
「高齢や認知症になり、脳の前頭葉が萎縮すると、衝動のコントロールができなくなる。そのために思いがけず、ひどいことをしてしまう可能性があります」
としたうえで、
「国は高齢者施設の安全を確保するためにも、そこで働く介護職員を増やすべく、待遇改善を行った方がいいのでは」
と警鐘を鳴らす。今回の事件は、超高齢社会の“不都合な真実”を白日の下にさらした。
「週刊新潮」2023年9月21日号 掲載