3代目中国高木会の会長

 今年8月、現役の親分が子分から破門されるという、過去に例がない事態が起こっていた。実際に破門状が出回っているのだが、なかなか背景や理由が判然とせず、関係者も一様に首をかしげているという。

 破門されたのは、テキ屋系の独立組織である3代目中国高木会(本部・広島市)の大源秀吉会長(82)。

 破門状の日付は今年8月、差出人は4代目中国高木会執行部一同で、「神農道上あるまじき行為多々有り執行部一同協議の結果、破門と致しました」とある。会社で言うならトップが役員にクーデターを起こされたようなもので、たまに見られることかもしれないが、厳しい親子関係で知られるヤクザの世界ではなかなか耳にしない事態だ。

「私も初めて聞きましたね。当代に破門状が出たのは前代未聞ではないでしょうか。過去を振り返ってみて、似たようなことで言うと、小田秀組のケースがあります」

 と、竹垣悟氏(元山口組系義竜会会長で、現在はNPO法人「五仁會」を主宰)。

千葉真一の当たり役

「山口組が4代目の跡目問題で割れる際に、3代目山口組若頭補佐だった小田秀組の小田秀臣組長が一和会に参画しようとしたところ、若頭以下が一斉に離反したことがありました。そのため小田組長は組織を解散してカタギになったのです」(同)

 ところで、中国高木会は広島を地盤とするだけあって、東映映画「仁義なき戦い」と浅からぬ縁がある。

 中国高木会を立ち上げた高木達夫会長は、元々は同じ広島で村上組の2代目を継いでいた。その村上組初代の子息、村上正明組員をモデルにした「大友勝利」が「仁義なき戦い 広島死闘編」には登場するのだ。切れ味の鋭いセリフを飛ばしていた千葉真一の当たり役として知られている……と聞けば、思い出されるムキもあるだろうか。

「1964年、村上正明組員は広島の指定暴力団・共政会の旗揚げに参画し、高木会長も共政会の相談役に就任しました。ただ、その後も独立組織として活動を展開してきたようです」(同)

上納金で生活するトップ

 話を今回の破門に戻そう。

「具体的な事情がハッキリとしないのですが、若頭以下、この82歳のトップの振舞いを看過しがたいものととらえてきたとみられています」(同)

 トップである以上、組織からの上納金で生活していたはずで、その点も問題視されたのだろうか。

「3代目高木会が豊富な資金を保有していたと聞いたことはありませんから、厳しいシノギの中で、親分を支えきれないという意向が働いた可能性もあるでしょう。ただ、仮にそうであっても穏便に引退を迫るというやり方もあるはず。5代目山口組の渡辺芳則組長はそういう流れで引退しましたね」(同)

 渡辺組長の場合、傘下組織組員の警官射殺事件をめぐって、民事訴訟で使用者責任が認定されてしまったものの、5代目に在位しながら無期限静養するという道をいったんは選んだ。が、その後、6代目となる司忍若頭からの「微妙な圧力」があり、後進に道を譲ったというのが定説だ。

“子が親を育てる”DNA

 なぜ今回はこういう穏当な進み方にならなかったのか。

「大源会長が引退を迫られたのにゴネたのか、あるいは会長は組織ごと解散しようとしたところ若頭以下が反対して逆に追い出されたのか。昔からテキ屋組織のDNAには“子が親を育てる”という考え方が根付いています。大源会長にもテキ屋の血が流れているなら、“老いては子に従う”のがあるべき姿だったのかもしれません。いずれにせよ揉め事には変わりはないので、地域住民がトラブルなどに巻き込まれないことを願うばかりです」(同)

 近年、ヤクザ界では昔なら考えられなかったようなことが起きるのが珍しくない。

 毛色は異なるが、最近でいえば、住吉会の会長を名指しした怪文書が出回った一件もその類だろうか。現体制を批判する内容で、おそらくは内輪の権力抗争の一端ではないかと見られている。
 
 7月には愛知県常滑市で若頭が一家の総長を罵倒しながら殴る蹴るという騒動も起きていた(逮捕後、不起訴に)。

 しかし、実のところ、「仁義なき戦い」の金子信雄演じる山守組組長もまったく人望の無い親分だった。今日のヤクザ界を見て、千葉真一が演じた大友勝利ならどんなセリフを吐くだろうか。

デイリー新潮編集部