宝塚のドン夫妻の“独裁”体制(前編)

 現役タカラジェンヌの死から2カ月余り。新理事長は観客に謝罪したものの、遺族と歌劇団の主張は平行線をたどったまま。後編では、親会社トップである阪急阪神ホールディングスの角(すみ)和夫会長の夫人がトップスターの人事にまで介入している問題について取り上げるが、前編では、騒動発覚後に角会長が語っていた衝撃の発言について報じる。(前後編の前編)

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 宙(そら)組の娘役だったAさん=享年25=の自死を受け、11月10日に開幕する予定だった雪組公演も中止となっていた。

 公演再開が発表された先月中旬には、雪組トップスターの彩風咲奈(あやかぜさきな・93期)を筆頭に生徒らが幹部と直談判。従来のパワハラ的指導の改善を訴え、あわせてAさんの遺族に誠意を示すよう求めたことは本誌(「週刊新潮」)でも報じた通り。が、今月から理事長に就任した村上浩爾専務理事(当時)は、

〈(11月14日の)会見では言いませんでしたが、いじめはあったのでしょう〉

 と漏らしながら、それを認めない理由として、

〈宙組上級生だけではなく生徒全員を守るための判断だった〉

 などと口にしていたのだった。

生徒、スタッフの過重労働が常態化

 芸能記者が言う。

「その村上新理事長は12月1日、再開公演の冒頭で登壇し、『大変ご心配をおかけしています』と謝罪しました。初日は場内の約2500席が完売し、立ち見も出る盛況でしたが、不測の事態に備えて劇場内外には私服警官の姿も目につきました。それでも終演後、男役トップの彩風は『今日までお客様が待ってくださった』と、涙声で謝意を述べたのです」

 その少し前、11月22日には西宮労働基準監督署が歌劇団に立ち入り調査を行っていた。

「劇団は2年前にも、演出助手の働き方について労基署から是正勧告を受けていたことが明らかになっており、生徒だけでなくスタッフの過重労働も常態化していたとみられます。今回の立ち入りで労基署は、大劇場入口付近に設置されている防犯カメラの映像を過去に遡って調べたといい、今後は生徒たちの勤務実態の解明が進むものと思われます」(社会部デスク)

〈向こうの弁護士が言ったのが、すべて正しいとは思っていません〉

 目下、Aさんへのいじめやパワハラを「確認できなかった」とする劇団側と遺族側との主張には大きな隔たりがあり、先月末には遺族の代理人である川人(かわひと)博弁護士が、劇団との直接のやり取りを公表した。

「双方は11月24日に大阪で面談したといい、遺族側は『パワハラが否定されたままで合意解決はあり得ない』『(劇団側による)調査報告書のパワハラ否定の根拠は事実認定も評価も間違っている』と訴えている。2回目の交渉は、今月後半にも行われる予定になっています」(同)

 対して劇団側は、

〈現時点で特定のパワハラの存在を認めてはいない〉

 との主張を貫いており、

「実際に11月14日の会見では村上専務理事が、Aさんが上級生から額にヘアアイロンをあてられてやけどした件について『故意ではない』とし、遺族側の反論にも『証拠となるものをお見せいただきたい』などと再反論して物議を醸しました」(同)

 加えて、親会社トップである阪急阪神ホールディングス(HD)の角和夫会長も本誌の取材に、

〈向こうの弁護士が言ったのが、すべて正しいとは思っていません〉

 などと言い放っていたのだ。

「親御さんの職業、年収は?」

「今回の悲劇は、角さんが進めてきた利益優先の経営が引き起こしたと言っても過言ではありません」

 そう指摘するのは、さる劇団関係者である。

「2005年に阪急HD(当時)の社長に就任した角さんはこれまで、110年の歴史を誇る歌劇団を“金稼ぎの手段”とみなすような言動が目立ちました。角さんは、先日まで理事長に就いていた宝塚音楽学校の入学試験で面接官も務めており、受験する生徒たちに『親御さんの職業は?』『年収は?』などと、容赦なく質問を投げかけていたのです」

 劇団員に“チケットノルマ”が課せられていることは本誌でもお伝えした通り。さる現役団員の父親が、

〈チケットをさばける生徒は良い役につけてもらえます。(中略)大切なのは親の職業。地域の医師会の役員や上場企業の社長ならば関係者も多く、“ノルマ”もこなしやすい。トップに上り詰めるためには、実力だけではなく、カネとコネが重要だということです〉

 そう証言していたように、保護者の社会的地位や収入が大いに意味を持つ。従って面接における角会長の“コンプライアンス無視の問い”もうなずけよう。さらには、

「角さんは数年前、音楽学校の卒業式でも、『君たちの学費の3分の2は阪急が賄っています。歌劇団に入団した後は、それに見合う働きをしてください』などとスピーチし、式の雰囲気が台無しになってしまったことがありました」(同)

 というのだ。

楽しそうに旅行の話を

 続けて、さる阪急関係者によれば、

「Aさんが亡くなって3週間余りたった10月24日、大阪・梅田で関西財界人の会合がありました。そこで角さんは、18年ぶりにリーグ制覇して日本シリーズに臨む阪神に言及し、『優勝おめでとう! かなり稼げそうです』と上機嫌でした。10月7日には歌劇団が会見を開いて外部弁護士の調査チームを立ち上げると表明しており、出席者は劇団の動向に関心があったのですが、角さんは宝塚については触れなかった。代わりに、会見直後に夫婦で訪れたヨーロッパ旅行の話を楽しそうにしていましたね」

 角会長は音楽学校の理事長を12月1日付で退任、後任は歌劇団の村上理事長が兼任することになった。組織風土改革を進めるためだというのだが、親会社の「総帥」として君臨し続ける以上、一朝一夕に“風土”が変わるはずもない。

 後編では、角会長の夫人がトップスターの人事にまで介入している問題について取り上げる。

「週刊新潮」2023年12月14日号 掲載