伊藤忠商事が中古車販売大手「ビッグモーター」を“救済”する方針を固めたことで、ビッグモーター社内には安堵の声が広がっているという。一方でこの間、同社幹部からは「ウチは絶対に潰れない」との強気の発言も飛び出していたとされ、その背景に同社の“超優良資産”の存在が指摘されている。

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 伊藤忠は2月21日の取締役会でビッグモーターの再建を支援する方針を決め、3月中にも正式契約する見込みだ。現在、ビッグモーター側と大詰めの協議を行っている最中だが、その交渉内容について全国紙経済部記者がこう話す。

「伊藤忠はビッグモーターを中古車販売事業を引き継ぐ新会社と、不動産などを引き継ぐ会社の2つに分割する方針です。中古車販売を担う会社には200億円程度を出資し、従業員も引き継ぐ。もう一方の会社には不動産を継承させる代わりに、一連の不正請求問題や訴訟案件など“負の遺産”の対応に当たらせる意向です」

 新会社の設立に際し、伊藤忠側はビッグモーターの株式を実質所有する兼重宏行・前社長ら創業家の関与を排除することを表明しており、社名変更も視野に入れながら、4月にも新体制を発足させる予定だ。

「伊藤忠は順法意識が希薄で“利益優先”の兼重イズムを払拭すれば、十分に再建は可能と判断した模様です。高級輸入車販売『ヤナセ』を子会社に持ち、レンタカー事業や自動車保険を扱う『ほけんの窓口グループ』を傘下に抱える伊藤忠にとって、全国に約250店舗を展開するビッグモーターのネットワークは大きな魅力と映っている」(同)

1日で5000万円

 現在、ビッグモーター社内では「路頭に迷わなくて済んだ」といった冗談とも本気ともつかない声が上がっているというが、「幹部たちの反応は違っていた」と話すのは同社関係者だ。

「一部の幹部はこの間、伊藤忠の支援決定に自信を覗かせていました。彼らが“伊藤忠はわが社を見捨てない”理由の一つに挙げていたのが、ビッグモーターが持つオークション会場の存在です。ビッグモーターはオークション運営会社ミライブを子会社に持ち、大阪・愛知・埼玉の3カ所にオークション会場を所有。業者向けの中古車オークションを運営する会社は他にもありますが、中古車販売業者が自前で会場を持つメリットは大きい」

 実際、ビッグモーターは不正が発覚した昨夏以降、「5万台」と豪語していた自社の在庫をミライブの会場に出品し、利益確保に利用していた疑惑が報じられている。

「それだけではありません。中古車業者やディーラーはオークションで中古車を仕入れますが、たとえばミライブの会場では多い時で1日5000台程度の中古車が取り引きされます。実はオークションに車を出す際、出品者はビッグモーター側に1台につき1万円の手数料を支払う必要がある。仮に5000台とすると(手数料だけで)1日5000万円の稼ぎになるため、社内では以前から“ドル箱だ”と囁かれてきた」(同)

 ビッグモーターの本当の価値とは、全国に広がる店舗網と中古車売買の舞台となるオークション会場を握っている点にあるという。

「回答は控える」

 ビッグモーターに「出品手数料1万円」などについて事実確認を求めたが、

「回答を控えさせていただきます」

 との答えにとどまった。

 一方でいま、“最大の関心事”として社内で急浮上しているのが、4000名近くいるとされる「社員の雇用保証」の問題という。

「先に辞めた社員から“同業他社への転職は容易でない”との話を聞いているので、救済されても“リストラ対象になれば意味がない”と怯える社員は少なくない。とくに子供や住宅ローンを抱える30代以上の社員にとって、伊藤忠の雇用方針がまだ見えていない点に不安を募らせています」(同社関係者)

 再建に向けて走り始めたビッグモーターだが、世間に溢れる「その前に、禊(みそぎ)はいつ済ませたんだ?」との声は届いていないようだ。

デイリー新潮編集部