今春、名古屋市内の女子大学を卒業したばかりの22歳の女が、67歳の男性に「母親ががんで入院している」などと嘘をつき、200万円を詐取した容疑で愛知県警に逮捕された。同じ女から73万円をだまし取られたと訴える40代前半の男性が、女と交わしたLINEをもとに3カ月間に及んだ”攻防”を振り返る。前編【【名古屋】「頂き女子」の門下生か? 67歳から“200万円色恋詐欺”で22歳女が逮捕 “余罪LINE”から浮かび上がる「りりちゃんメソッド」との共通点】からの続き。

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韓流アイドルのような今どきの美女が現れた

 5月2日、愛知県警に詐欺容疑で逮捕された加藤ありさ容疑者(22)から、「自分も73万円をだまし取られた」と訴えるのは東海地方在住のAさん(40代前半)だ。Aさんは3年前に恋人と別れて以降、マッチングアプリを中心に婚活に励んでいたが、昨年6月初旬にOというアプリで加藤容疑者と知り合った。

「見た目と年齢で選んでしまったことが今でも悔やまれます。よく考えれば僕みたいな四十路を過ぎた、年収500万円代の冴えないオッサンが20歳過ぎの若い女性に相手してもらえるわけがなかった」(Aさん。以下同)

 Aさんは、時期やだましの手法などから、加藤容疑者が「頂き女子りりちゃん」こと渡辺真衣被告から「詐欺マニュアル」を購入していたのではないかと強い疑念を持っている。

 加藤容疑者がアプリで「りり」と名乗っていた点も疑いを持つポイントの一つだ。

 LINEの始まりも「りりです」から。すぐに加藤容疑者は「ありさ」と本名を明かし、〈私もはやくAさんのこと色々なこと知りたい〉と前のめりなメッセージを送ってきた。Aさんもノリノリで、やり取りが始まってから2日後の6月11日、名古屋の繁華街・栄のコメダコーヒーで会うことに。

「プロフィール写真とそう変わらない、K-POPアイドルのような今どきの美人が来たので、テンションが上がりました。服装は白いスカートに上が黒のニットで清楚さもあった。はっきり物を言う人で、喋りやすいとも感じました」

LINEで始まった怒涛の「病み営業」

 Aさんが鼻の下を伸ばしている側で加藤容疑者は早速、「仕事」に取り掛かっていた。

「『亡くなった母親から引き継いだ借金があって…』『まだ高校生の妹の生活の面倒を見ないといけなくて』などと暗い表情で語るのです」

 初顔合わせ後、「悩み相談」はLINE上で本格化していく。加藤容疑者は翌日には〈Aさんのこと、すごく好きになった〉と切り出した後、こう綴った。

〈私はシングルマザーの母親に育てられたけど母親は他界してるのは伝えたよね。それで私は今、親から引き継いだ200万くらい借金があります。奨学金もしっかり背負ってます。正直バイトばかりなのも生活はもちろん妹もですが、このためでもあって、休みたくても休めない日々です。こんな私でも本当に受け入れてくれますか〉

 この告白に対しAさんは〈話しにくいこと言ってくれてありがとう〉〈気にしないよ〉と返している。マッチングアプリを介して初めて会った女性に借金苦の相談をされて、怪しいと感じなかったのか。

「まさか借金を僕に負わせようとしているとは思わなかったのです。自分で返していくんだと思っていたので、軽く流してしまった」

 これこそが「りりちゃんマニュアル」が勧めている「病み営業」である。身内の不幸などが理由で借金を抱え込んで病んでいる自分を語り、「一緒になりたい」「頼れる人はあなたしかいない」とアピールし続ける。そうして、相手の欲望をかき乱し、向こうから「助けてあげる」と申し出るよう差し向けるのだ。この一連の仕掛けを渡辺被告は「魔法をかける」と呼んでいた。

一回引いたのも“メソッド”を意識した?

 実際、この後、Aさんは加藤容疑者からLINE攻勢を受け、次第に金を用立てることを考えるようになるのだ。

〈すぐお付き合いしたい気持ちはあるけど、返済終わるまでお付き合いはやめておきたいです。200万あって、今残り50万少しなのでまだまだかかりますが〉(加藤容疑者のLINEメッセージ)

〈お付き合いするときにはせめて借金は返しておきたいんです〉(同)

〈気持ちはもちろん付き合いたいよ。でも借金は返しておかないとと思ってる〉(同)

 そして、初顔合わせから9日経過した20日の食事デートで、とうとうAさんは「僕が貸そうか」と提案した。だが、加藤容疑者はこの申し出を受け入れようとはしなかったという。

「なぜか『うーん』と渋っていた。そして別れ際、名古屋駅の改札で僕の両手を包み込むように握り、祈るような仕草をしたあと、上目遣いで『また会ってくれる?』と懇願してきました」

 実は、これも「りりちゃんメソッド」が勧める「一回引く」という重要な駆け引き。こうして相手の助けてあげたいという気持ちをくすぐり、相手から積極的に助力を申し出るのを待つのである。

あなたしかいないと縋り続ける加藤容疑者

 貸し付けの申し出を断った後も、加藤容疑者の「病み営業」は続いた。

〈でも昨日考えていてすごくAくんの事好き。私のことすごく考えてくれて助けようとしてくれた事もすごく嬉しいんだけど、私今こんな状態だし病院とかで沢山お金かかるから返せる自信がないや。あと長いお付き合いがしたいから貸し借りで関係崩したくない〉(加藤容疑者のLINEメッセージ)

〈でもきっとAくんにとって私って信用なさそうだし、きっと本当はそこまで好きじゃないよね。。好きな人ならそんな事言わないもんね。私だけ好きになって勘違いしててごめん。。〉(同)

 Aさんが解説する。

「今振り返ると、僕が貸すのではなく『援助するよ』と言うのを待っていたようですね。僕は、『結婚したら家計は一緒にしたい』とも言っていたのですが、そうした僕の年齢的な焦りを見抜いていたのだと思います」

 加藤容疑者の“大好きアピール”も結婚を意識した内容に変わっていった。

〈私にはAさんしかいないし、すぐにでも一緒になりたいよ。。でもね〉

〈Aくんが好きだしAくんしか誰もいないから〉

合間に〈点滴刺さないと死んでしまいそう、、〉などと“病弱ぶり”を見せることも忘れない。

 そして、3度目に会った22日で、加藤容疑者の方から「婚姻届を書いたら信用してくれる?」と持ちかけられ、Aさんは50万円を援助することに同意してしまったのだ。

 こんな怪し過ぎる女となぜ…。いくらなんでも結婚は早すぎやしないか。Aさんは恥ずかしそうにこう振り返る。

「50万円でこんなかわいい子と付き合えるなら、安いなって思っちゃったんです。いつでも婚姻届を出せる状態にしておけば相手も逃げられないだろうとも。結局、婚姻届は持ってこなかったのですが、学生証と借りているマンションの部屋の契約書を自宅まで持ってきてくれたので写真に撮りました。ここまでして踏み倒すことはないだろうと考えて50万円を渡しました」

楽しみにしていた「お泊まり会」もドタキャン

 だがこの後、加藤容疑者は体調を崩したことを理由に、約束した婚姻届や届出に必要な戸籍謄本を一向に持ってこようとしなかった。ただしその間も、LINEでは〈おはよ〉〈(体調が)めちゃくちゃよくなったー〉などと変わらずやり取りは続く。

 実はこれも「りりちゃんメソッド」で「最も重要」と指摘されている「アフターケア」にあたる。渡辺被告は詐欺マニュアルの中で、こまめなケアを怠らなければトラブル防止と「次の頂き」につなげられると呼びかけている。

 実際、50万円を渡してから1週間も経たない29日夜に、加藤容疑者は「やばいことになった」とAさんに電話をかけてきて、“おかわり”を要求してきたのである。

「タチの悪い友人からの借金があり、急に明日までに23万円を返すよう請求されたと慌てふためいていました。暴力を振るうような危険人物だといい、追い詰められた様子なのです。じゃあ消費者金融で借りようと一緒に2カ所回ってあげたんですが、審査が通らず、結局、僕が貸すことに…」

 この後、加藤容疑者はもう用済みと考えたのかAさんと途端に会うことを避け出した。数日後に約束していた「お泊まり会」も新たに始めたバイトを理由にドタキャン。

 実はAさんは一度の男女関係すらないまま、加藤容疑者にカネをわたしてしまっていた。

「この頃にはだまされているかもと気付き始めていましたが、コンコルド効果というのでしょうか、これまでの“投資”を無駄にしたくない、なんとか関係を維持しなければという気持ちでやり取りを続けていました。借用書を取っていなかったので、ちゃんと返済されるかという不安もあった。せめて借用書だけはちゃんと書いてもらわないと、という焦りもありました」

返す返さないってなに?

 だが、Aさんが〈会えない?〉とメッセージを送り続けても、〈テストが…〉〈バイトが…〉〈熱が出て…〉などとことごとく避け続ける加藤容疑者。

 やがてAさんが〈借用書の返信や返済をしない場合、まずは弁護士に相談させてもらって、場合によっては警察にも相談させてもらいます〉などと強く警告するようになっても、

〈いずれ返せるようになったら返していきたいけどすぐにはできないからそれを理解してほしいというふうに伝えたよね〉(加藤容疑者からのLINEメッセージ)

〈(お泊まり会をドタキャンしたことについて)誘ってくれたからさ きっとその日になれば大丈夫だー!って最初はいいよって勇気振り絞って言っちゃったの ただ結局嫌で、ごめんね〉(同)

 のらりくらりとふてぶてしい返事を続けるのだ。しまいには〈妹が自殺未遂みたいなことをしちゃって…〉とまで言って会うことを拒む始末。

 こうして1カ月以上逃げ続けたばかりでなく、8月に入ると逆ギレまでしてきた。

 例えば8月26日のやりとりでは、〈貸したお金は帰ってくる?(註・ママ)〉とのAさんの問いかけに、

〈貸した、、?〉
〈ちょっとすぎただけでネチネチ怒って〉
〈高圧的な態度〉
〈え貰う気でっていうか、そうするしかなくない? 結局Aくんから関係もリセットしようとか言われたし〉

 9月19日には、

Aさん 〈そうなると、お金は返す気がないってことかな?〉
加藤容疑者 〈返す返さないってなに? 振ったんだからAくん自身が破棄してるよ笑〉

じゃあもうやりとりええかな?

「いつしか、彼女の中ではもらった金ということになっているのです。そして、“私は付き合っているつもりだった”と強弁し、僕から別れを切り出したんだから、お金の件も自ら放棄したんでしょと」

 この頃、ニュースで流れていたのが8月末に逮捕された渡辺被告の「頂き女子りりちゃん詐欺マニュアル」だった。9月20日、Aさんは単刀直入にこう尋ねた。

〈確認だけどありさちゃんは、頂き女子のマニュアルを買った?〉

 加藤容疑者の返事は、

〈なんじゃそれは〉
〈調べてきたけどさ、一緒にしないでもらっていいかな〉

 そして、

〈じゃあもうやりとりええかな?〉

 と言い残し連絡を絶ったのだった。

 結局、その後Aさんは警察にも相談したが、借用書もなく金をだまし取られた証拠がないと言われ、泣き寝入り状態になってしまったことは前編で書いた通り。最後にAさんはこう悔恨の弁を述べるのであった。

「若い子と付き合いたいと欲に目が眩んだ私がバカでした。ただ、まさか本名まで明かしてこんなに堂々と詐欺をする女がいるとは思いも寄らなかった。婚活で苦労している男性諸氏にお伝えしたいのは、すぐにお金の相談をしてくる女性は怪しいから気をつけろということ。滅多なことでは加藤茶にはなれないのです。73万円は勉強代と考え、今後も素敵な出会いを探し続けるつもりです」

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デイリー新潮編集部