東京・西新宿のタワーマンションで、51歳の男が25歳の女性を刺殺した事件の背景が徐々に明らかになっている。男の凶行に同情の余地はないが、取材する記者らの間では「被害者」と「加害者」の構図をめぐって様々な意見が飛び交っているという。

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 事件が起きたのは5月8日の午前3時過ぎ。西新宿のタワーマンション前で和久井学容疑者(51)が帰宅した平沢俊乃さん(25)を果物ナイフで襲い、刺殺したのだ。

「刺し傷は平沢さんの首や腹を中心に数十カ所に及び、所持していた2本の果物ナイフのうち1本は刃が折れていました。和久井容疑者は逮捕後の取り調べで『体を傷だらけにしてやろうと思った』と話し、犯行前夜から数時間、待ち伏せしていたことも判明。現場に向かったのは『(平沢さんが経営する)ガールズバーを応援するために出した1000万円以上のお金を返してもらうため』だったと供述しています」(全国紙社会部記者)

 2人の出会いは約4年前。当時、平沢さんは上野界隈でガールズバーを経営しており、同店に客として和久井容疑者が訪れたのがキッカケだった。

「2人は共通の“推し(アイドル)”の話などで盛り上がり、和久井容疑者は以降“常連客”となりますが、2021年12月、平沢さんが『店の客にしつこく言い寄られたり、待ち伏せされたりする』と110番通報。この時、警察は和久井容疑者を口頭で注意しますが、実はその直前、容疑者は愛車とバイクを売却して多額のお金を捻出していました」(同)

2度の通報と逮捕

 和久井容疑者は21年11月と12月、「16年間大事にしてきたバイク」と「20年9か月乗った車(ホンダNSX)」を手放したことを自身のSNSで報告。警察への供述でも「(平沢さんに渡した)1000万円以上のお金は車やバイクを売るなどして工面したものだった」と話しているという。

「借金なども含めれば、和久井容疑者は平沢さんに2000万円前後を提供したとされます。容疑者の父親によれば、“結婚する気があるなら、お金を持ってきて”と平沢さんから言われたことが理由で、車やバイクの売却は結婚に備えてのものだったとか。ところが、お金を工面した途端に平沢さんに110番通報され、22年4月に2回目の通報を受けた翌5月、和久井容疑者はストーカー規制法違反で逮捕されます」(同)

 一方で逮捕の直前、和久井容疑者も「(平沢さんに)多額のお金を渡しているが、返してもらえない」と自宅のある神奈川県内の警察署に相談していたことが分かっている。真相には不明な部分も残るが、「事件の背景に多額の金銭のやり取りがあった」(同)ことを捜査関係者も否定していないという。

裁判員裁判で初の「死刑求刑」

 実は取材する記者らの間でいま、「似ている点が少なくない」と囁かれているのが、09年に起きたストーカー殺人事件という。当時41歳の男が、都内の耳かき店に勤める21歳の女性に入れあげ、「入店拒否された」ことを機にストーカー化。最後は自宅に侵入し、Aさんと同居していた祖母をメッタ刺しにして殺害した。当時、事件を取材した民放キー局記者が語る。

「裁判員裁判で初めて『死刑』が求刑された事件でしたが、すでに10年11月、東京地裁で無期懲役刑が確定しています。男の名前は林貢二といい、専門学校を卒業後に配電設備設計会社に就職し、真面目な勤務態度で知られていました。実際、酒は飲まず、無趣味で独り身。結婚しなかったのは26歳で発症した膠原病(全身性エリテマトーデス)が理由だったと公判で話しました。ただ就職して以降、コツコツと貯金にだけは励み、20年間でその額は1000万円を超えていました」

 そんな堅物の林が、初めて店を訪れAさんと出会ったのは2008年。すぐに気に入り、通い詰めるようになったという。

「Aさんの“普通っぽい”ところが気に入ったといい、多い時で月に30〜40回も通い、初来店から1年間で200万円以上を使うほどのノメリ込みようを見せた。そのため給与のほとんどをAさんの店に落とすことになり、生活のために大切な貯金を切り崩すこともあったそうです。林はAさんに『恋愛感情はなかった』と法廷で述べましたが、一方のAさんは店の同僚などに『一方的に予約を入れてくる』など徐々に当惑の色を深め、最終的に店側から出入り禁止に。しかし、それでも林はAさんを待ち伏せしたりして接触を試みますが、Aさんに相手にされず、好意が憎悪に転じた結果、凶行に及んだといいます」(同)

 今回の事件と相違点もあるが、犯人と被害者の年齢差、犯行の手口や感情のもつれ、背景にある多額の金銭の流れなど「共通項」も見出せる。“真面目な中年男”が「怪物化」した理由は何か――。悲劇を繰り返さないためにも、厳正なる処罰とともに、今後の捜査の行方に注目が集まる。

デイリー新潮編集部