東京・渋谷駅の喧騒を抜け、道玄坂を上ってゆくと、一転して閑静な街並みが現れる。かつては、有名政治家や映画監督が居を構えた渋谷区の南平台町は、日本屈指の高級住宅街だ。なかでも三木武夫元首相の邸宅はひときわ大きく、2階を「三木武夫記念館」として2012年まで元首相の書や絵画が展示されていた。

 元首相の義理の甥にあたる衆院議員の森英介元法相が振り返る。

「私の伯母である三木睦子さんは、元首相の妻です。それもあって昔からよく南平台町の屋敷を訪れたものでした。伯母は陶芸家としても知られており、家には何点も作品が飾られていたのを覚えています。私も伯母から作品を何点かプレゼントされましたよ」

元首相の孫に聞くと…

 そんな三木邸を、大手ハウスメーカーの積水ハウスが買い取ったと報じたのは、4月23日付の「日経不動産マーケット情報」である。広さにして約400坪だ。

 登記簿を見ると、屋敷はすでに元首相の子息や孫などへ相続・譲渡されており、それぞれの名義になっていた。積水ハウスは昨年9月にまとめて仮登記をつけており、今年1月に所有権を移している。

 元首相の孫にあたり、所有者の一人でもあった高橋永氏(立憲民主党から衆院選に立候補予定)に聞くと、

「三木武夫記念館の売却は、三木武夫を最もよく知る、私の母の世代の共有者が中心となって、長い時間をかけて検討し決定したものです」

1平米194万円

 積水ハウスは邸宅跡に共同住宅を建てる以外、具体的なことを明らかにしていないが、南平台町には厳しい制限が付けられている。渋谷区の都市計画図によると、三木邸がある周辺は容積率が200%、建ぺい率が60%である。つまり、建物の延床面積は敷地の2倍まで、さらに敷地の4割は建築物を建てずに残しておかなくてはならない。

 不動産コンサルタントの森島義博氏が言う。

「南平台町のあたりは『第二種低層住居専用地域』になっており、低層のマンションであれば建てることが可能です。また、土地を分割して私道を引き込み、分譲住宅を建てる方法もありますが、周りの雰囲気に合うかどうか」

 今年3月に発表された地価公示によると南平台町は1平方メートルあたり194万円。もちろん、実際にはさらに高くなるという。

「週刊新潮」2024年5月23日号 掲載