東京都知事選に関して注目度が高いのは現職の小池百合子都知事と蓮舫元立憲民主党代表代行である。蓮舫氏の街頭演説を実際に聞いたジャーナリストの三枝玄太郎氏は、どうしてもメディアの報じ方にひっかかる点があるという。

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つばさの党と蓮舫氏

 この1カ月ほどの間に2回、立憲民主党の蓮舫氏と選挙に関する記事を書くこととなった。1回目は5月、「つばさの党」の選挙妨害に関する件だ。4月の衆院東京15区補欠選挙における同党の振る舞いが異常だったことは繰り返すまでもないだろう。他陣営の演説へのいやがらせ、突撃は目に余るものだった。のちに妨害行為に関わった同党のメンバーは公職選挙法違反で逮捕されている。

 ただこの時の記事〈はたして蓮舫氏に「選挙妨害」を批判する資格はあるのだろうか 東京15区「場外乱闘問題」の背景〉で、つばさの党の悪質さとは別に私が指摘したのは、蓮舫氏のダブルスタンダードだ。以下のように書いた。

「(つばさの党の妨害行為について)蓮舫氏は『警察の対応が遅くて怖かったです』と書き込んだ。

 私は苦笑を禁じえなかった。なぜなら警察が対応しづらい状況を作ってしまったのは、ほかならぬ左派勢力の人たちだからである。私には蓮舫氏の書き込みは、いつものブーメランの類に思えてならなかった。

 2019年、札幌市で街頭演説をしていた安倍晋三首相(当時)は男女にヤジを飛ばされた。一人の男性は『アベヤメロ!』もう一人の女性は『増税反対!』と叫んだ。男性は北海道警の警察官に現場から排除された。(略)

 これに対して、男女は『表現の自由を侵害された』として、北海道に計660万円の損害賠償を求める訴訟を起こした。札幌地裁の広瀬孝裁判長は訴えを認め、道に計88万円の賠償命令を出したのである。しかもその約3カ月後の2022年7月8日、安倍晋三元首相は奈良市で演説中に凶弾に斃れた。

 安倍元首相の暗殺事件後に開かれた札幌高裁(大竹優子裁判長)の判決公判でも、大竹裁判長は、男性の訴えこそ退けたが、女性の訴えは認め、一審の女性に対する55万円の賠償命令は維持した。

 問題は、いずれの判決も『ヤジは表現の自由』とする原告側の主張の根幹部分を認め、道警の排除は『表現の自由の侵害に当たる』と判断したことである。これで萎縮しない警察があるだろうか。

 この一件で北海道のメディアは、こぞって道警の対応を批判し、地元HCB(北海道放送)のデスク職の男性は自らメガホンをとって、『ヤジと民主主義』というドキュメンタリー映画まで作った。この訴訟の原告の女子大生は、その後、労組の専従職員となり、書記次長となっている。この労組の上部団体は自治労であり、立憲民主党の支持母体である。

 そして、今回の補選で警察の迅速な対応を求めていた蓮舫参院議員は2019年7月、前述の裁判闘争となった安倍首相(当時)へのヤジについて『この(北海道警の)排除の在り方はおかしい』とXに投稿している」

 安倍首相へのヤジというのは、決して穏当なものではなかった。今もネット上で動画を見ることができるが、個人的には選挙妨害と言われても仕方がないレベルのものだったと感じた。かつてこれを是認していたのが蓮舫氏なのだ。

 他人に厳しく自分たちに甘い――私も含めて人間誰しもそういう傾向はあるのだろうが、蓮舫氏にはその傾向が強いのではないかと感じた。

公選法違反では?

 2回目の記事は今回の都知事選に関連してのものだった〈「都知事選、事前運動『選挙違反では』の批判を浴びた蓮舫氏の陣営はまったく懲りていなかった」〉。

 告示前にもかかわらず、都知事選に出ることを街頭で声高にアピールする蓮舫氏や立憲民主党幹部らの行動は、公職選挙法で禁じている「事前運動」そのものではないかという指摘をした。6月2日の街頭演説が問題視されたことを受け、9日の演説では内容をマイナーチェンジこそしていたものの、演説でのメッセージは相変わらず都知事選での投票を呼びかけていると受け止められても仕方がないものだった。

 このニュースのヤフー・コメントの欄には、「エキスパート」として白鳥浩法政大学大学院教授のコメントが最初に掲載されている。

「こうした行動を蓮舫氏を支援する陣営がとるということ自体が、都知事選に対する有権者の関心を喚起することで勝利し、政権交代へとつながる都知事選にしたいという思いの表れといってよいだろう。

 これまで立憲民主党を中心とした野党勢力は、4月の3つの補選を皮切りに連続して勝利を収めてきた。その訴えである『政権交代』も現実味を帯びてきているという見方もある。(以下略)」

 蓮舫氏らの「思い」がどうであろうと、あるいは政権交代が現実味を帯びようが帯びまいが、法律違反に対しては厳しい目を向けたほうがいいと思うのだが、この論者にそうした観点はないようだ。

 拙著『メディアはなぜ左傾化するのか 産経記者受難記』の冒頭で、私は次のように書いた。

「(いわゆる左派メディアは)自分たちのイデオロギーの邪魔になるものは、極力、国民の目に触れさせない、という『ドグマ(教義)』があるのだ。これが報道機関の果たすべき役割だろうか。右だろうが左だろうが、事実の前には謙虚になるべきではないのだろうか」

 いま明らかに一部のメディアは、蓮舫氏についてのマイナス情報は流そうとしていないのではないか、という気がしてならない。

 目下、蓮舫氏らの「事前運動」疑惑について積極的に報じているのは産経新聞と、あとはスポーツ紙や雑誌、ネットメディアばかりだ。大手新聞社やテレビ局はほぼ無視をしている。

 もしも小池百合子氏の陣営が同じことをやっていたらどういう扱いだったのだろうか。あるいは今後、国政選挙で与党の立候補予定者が同じことをやった時も、優しく見逃してあげるのだろうか。

三枝玄太郎(さいぐさげんたろう)
1967(昭和42)年東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。1991年、産経新聞社入社。警視庁、国税庁、国土交通省などを担当。2019年に退職し、フリーライターに。著書に『三度のメシより事件が好きな元新聞記者が教える 事件報道の裏側』『十九歳の無念 須藤正和さんリンチ殺人事件』など。

デイリー新潮編集部