今や“セレブだけの世界”ではなくなった小学校受験。とはいえ、情報があまり出回らず、ブラックボックス化しているのもまた現状といえよう。その過熱ぶりが報じられることが多いが、人気校の実際の倍率はどの程度なのか。一般家庭はまず何から始めたらいいのか。小学校受験に精通するインフルエンサーに、フラットな見解を尋ねた。

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 首都圏の小学校受験人気は、ここ数年で上昇傾向にあった。公立小学校の教育環境に不安を感じたり、中学受験の競争を避けるためという理由で受験者が増えていたのである。慶應義塾幼稚舎は10.6倍、慶應義塾横浜初等部は13.2倍、早稲田実業学校初等部は8.9倍と、誰もが知る人気校は依然としてかなりの高倍率となっている。しかし、

「直近、24年度入学の入試では受験者数が以前より減っています」

 とは、自身の子どもが小学校受験をした経験から、現在は受験情報をウェブ上で発信している狼侍氏。

「たしかに、代々、私立小学校に子どもを通わせてきたような資産家の家庭に加え、昨今では、パワーカップルと言われるような共働き層でも私立小学校に通わせる家庭が増えてきています。しかしコロナ禍が明け、公立の小学校や、中学受験を回避しようという動機が薄れ、またリモートワークが減少したことなどで、今はメディアで報じられているほど小学校受験が過熱しているわけではないのです」

 ごくごく一般的な家庭にも、十分チャンスがあるという。

「人気校の高い出願倍率が注目されますが、繰り上げ合格や記念受験を勘案すれば、実質倍率は2〜3倍くらいの学校も多いですし、視野を広げれば倍率1倍台の学校もあります。小学校受験は決して手の届かない世界ではないと思います」

「教室」の選び方

 しかし、試験の点数という明確な合否基準がある中学校受験とは違い、「行動観察」「運動テスト」「巧緻性テスト」など、評価基準が不明瞭であることが多いのが小学校受験の特徴でもある。それゆえに、一般的には、中学受験でいうところの塾にあたる「教室」への入会が“最初の一歩”だとされている。

「教室に通うことは受験における必須項目です。その理由の一つは、教室で複数の子どもがいる中で学習をすることの重要性です。特に『行動観察』などの科目は、そういう環境下で考査に臨むことになるので、あらかじめ慣れておく必要があるでしょう。それになかなか言うことを聞いてくれない幼児に教室ナシで教え込める聖人君子な親はなかなかいませんからね」

 さらに、と続ける。

「教室に通うことで、親も学べるというのも大きな理由です。考査の内容は教室が情報収集し、保護者にフィードバックしてくれます。それは教室に入らないと得られない重要な情報ですし、願書の書き方、面接対策なども教えてくれる。そして、小学校受験という異質な世界観に馴染めるかというのも大事です。“いや、こんなの無理”と感じたならば、受験自体を見直す必要があります」

 その一方で、「いきなり教室選びから入るのはやめた方が良い」という狼侍氏。

「小学校受験は筆記試験だけではなく色んな要素が問われますし、その要素が学校によって違ってくる。なので、教室選びは1か月我慢して、まずはどんな小学校があるのか、調べたり見に行ったりしてほしい。その上で、例えば、早慶に行かせたいのか、男子校、女子校がいいのか、大学受験はさせたいのかなどの方向性を決めましょう。子どもが年中以下ならおおまかな志望を決めてそのあたりに強い教室を選ぶ。年長なら第一志望を決めてその学校にピンポイントで強い教室を選ぶのが良いでしょう」

 小学校受験における教室は、おおまかに分けると二種類ある。知名度の高い「大手教室」と少人数制の「個人教室」だ。こうした中からどのように教室を選んでいけばいいのか。有料版の記事【難関校合格の保護者と個人教室の先生が明かす ベールに包まれた「小学校受験」のウラ】では、狼侍氏や教室の現役講師による解説を交え、知られざる教室の実態や現実的な選び方などについて、具体的な教室名を挙げながら詳報している。

SNSの情報

 さて、肝心な教室選びさえ済めば、あとは受験まで一直線といきたいところ。その過程で受験に臨む家庭を惑わすのが、SNS上に蔓延る様々な情報だ。学校側が入試問題や評価基準を公にしていないことが多いため、ブラックボックスと化しているのが小学校受験の特徴といえる。それゆえに、ネット空間では、経験者が特定の小学校の対策記事を数万円単位で販売している実情があるのだ。

「個人が高額で販売するような記事に、核心に触れる情報はほとんどありません」

 と先の狼侍氏。

「よく、『個人情報を含むので有料にさせていただきました』として、数万円もの価格を設定している記事を見かけます。大切な個人情報であるなら、5万円でも10万円でもネット上で出せるものではないはずですから、詭弁であることは明らかでしょう。どんな場合でも、センシティブで本質的な情報は、みだりにSNSなどで公開することはなく、一定の信頼関係がある相手にのみ伝えられるものではないでしょうか。ウェブ上で情報発信をしている身としては、半ば自己否定に繋がってしまう面もあるのですが、SNS空間の情報には惑わされないよう注意すべきだと思います」

 だからこそ、特定の小学校の対策ではなく、データの分析や、戦略の立て方などの発信に注力しているという狼侍氏。その目線から、「ネットよりも、リアルな人間関係を構築していくべき」とも話す。

「やはり、SNS上の身元の分からない人との繋がりと、直接顔の見えている関係性は、質が違います。受験経験者の“本音”は、直接の信頼関係があってこそ聞くことができるものですし、紹介制の個人教室への伝手も得られるかもしれない。その意味で、小学校受験に臨むことを、勇気を出して周囲に対して伝えることも重要だと思います。『そういえばあの人が私立小の出身だったよ』と、経験者と繋がれる可能性も広がることでしょう。ご縁は思わぬところに転がっているものです」

 小学校受験が「誰でも目指せる」選択肢になったとはいえ、情報との向き合い方が問われる世界ともいえそうだ。先に述べた有料記事では、「教室選び」以外にも、元私立小教員による「学校側が見ているポイント」など、小学校受験の“勝ち筋”について、約7000字にわたって紹介している。

デイリー新潮編集部