あまりにも個性的過ぎる

 4年ぶりに地方民にとってはどうでもいい日々が始まった。オリンピックのことではない。東京都知事選挙である。都知事選なんてものは一言で表せばこうなる。

<目立ちたがりのヤツらが派手なパフォーマンスを繰り広げ、外野はどれだけヤツらがヘンなことをやらかしたり、発言するかを動物園かのように観察する4年に1度の珍イベント>

 本当に目立ちたがりの見本市のような騒動が数週間続くわけだが、タレント候補が多いだけに、メディア(特にTV)にとっては取り上げやすいのである。あとは、「衣服を身に着けていない姿のポスター」を出す候補者だったり、ドクター中松や、過去でいえばマック赤坂や羽柴秀吉、外山恒一、後藤輝樹といった「あまりにも個性的過ぎる」キャラが登場して、メディア映えするのだ。

 基本的に都知事選は「芸能ニュース」のようなものだろう。1995年の青島幸男以来、テレビで名を馳せた著名人ばかりが知事の座を獲得してきた。石原慎太郎→猪瀬直樹→舛添要一→小池百合子といった具合だ。

全国ニュースで流しすぎ

 そして今回も小池百合子か蓮舫が勝つだろう。タレント路線は続くのである。しかも今回は「女の戦い」やら「学歴詐称&二重国籍問題」など面白いイシューが存在する。さらには史上最多・56人の候補者が乱立するだけに珍行動を起こす者が出てくることだろう。

 先ほどのポスター問題はその象徴だし、政見放送で自身のYouTubeチャンネルを宣伝する者も出るなど、完全にカオスである。

 で、まぁ、東京都民はそれでも構わない。元々東京に42年間住んだ私は「自分の街の選挙だから、ヘンテコリンなヤツが出てもまぁそれも選挙」と思ったのだが、現在佐賀県唐津市在住のため、違和感をかなり覚えている。

 あまりにも都知事選を全国ニュースで流し過ぎなのだ! テレビの場合、東京のキー局が情報番組も含めて作るため、それを系列局に卸すこととなる。佐賀県の場合、地元に拠点を置く局はNHKとフジテレビ系のサガテレビしかないが、その他は福岡の日テレ系、TBS系、テレ朝系、テレビ東京系の番組が流れることとなる。テレビ東京系はさておき、とにかく他の局は都知事選報道が多過ぎるのである。

チャンネルを変えても都知事選

 そりゃあ日本の首都は東京ではあるが、正直、地方民からすれば「なんでオレらと関係ない都市の首長選挙にそこまで時間使うの?」ということになる。私が東京にいた頃、仮に佐賀県知事選の様子を連日のように見せられたら「なんも関係ないだろ!」とキレたことだろう。

 だが、日本のテレビは東京一極集中的な面が強いため、「都知事選みたいな芸能ニュース流しとけば全国の人も喜ぶだろw」と思っている節がある。これは、「原宿でタピオカミルクティー店が長蛇の行列」といった企画と同じようなものだ。

 本当に、我々地方民は東京都知事選への選挙権もないワケで、小池百合子や蓮舫の人柄やら実績なんて興味がないのである! イヤならチャンネル変えろ! と言われるだろうが、チャンネルを変えても都知事選のことを放送しているのだ。

 思えば、メディア使いが巧みな小池氏は、豊洲市場の移転問題でも随分と全国ニュースを作り上げてきた。「土壌汚染」「盛り土問題」など色々あった末に「大山鳴動して鼠一匹」といった状況で築地から豊洲への移転は無事終了したが、あれだけ移転に反対した小池氏は、移転後は豊洲のことを問題視せず。

供託金を支払えば

 あくまでも自分に注目させるために共産党も味方にして「盛り土問題」を大々的にメディアに報じさせたのだろう。華があり、キャッチーなワンフレーズを繰り出す小池氏はテレビメディアにとっては「寵児」ともいえる存在だ。蓮舫氏も同様である。だからこそ「これは数字が取れる!」とばかりにこの2人がメディアに取り上げられまくる。いや、私にとっては次の参議院選挙で地元の山下雄平氏が勝つかどうかの方が重要なのだが……。なんてことは思う。

 そして、いわゆる「泡沫候補」の皆さんも300万円の供託金を支払えば全国的知名度を得られるワケだ。そこでいかに目立つかがYouTubeのチャンネル登録数やオンラインサロンの会員獲得に繋がるか、ということである。

 小池氏や蓮舫氏も都知事選は自身の露出機会をドッカーンと増やすチャンスである。まぁ、それはいいが、頼むから東京都の選挙権を持っていない人間をそこに巻き込まないでもらえないか? 地方紙は通信社の都知事選関連記事を掲載しなければいいが、テレビは容赦なく東京の局が制作した番組をオンエアする。

 地方局は制作余力がないため、これらを流すことになるが、その情報いらないんです! 地方局も少しは報道人としての矜持を持ってください! そして、東京のキー局の皆さまにおかれましては「都知事選みたいな芸能ニュースは全国的に関心があるだろ」的に安易に作らないでもらえませんか? 都知事選がいかに地方に、そして日本全体に影響を与えるか、という深掘りだったら歓迎しますんで。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ、佐賀県唐津市在住のネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』『よくも言ってくれたよな』。最新刊は『過剰反応な人たち』(新潮新書)。

デイリー新潮編集部