このところ急速に増加していた国内の新型コロナウイルスの1日当たりの感染者数は11月18日、初めて2000人を突破した。分科会の尾見茂会長は衆議院厚生労働委員会で「このままいくと国民の努力だけではコントロールするのが難しく、さらに強い対応をしないといけない事態になる可能性がある」と危機感を露わにした。

 現在の状況は「第3波襲来」と表現されることが多くなったが、7月から8月にかけての「第2波」に比べて(1)感染者数の増加のペースが急激であったこと(2)家庭内での感染の比率は高まったこと(3)感染者に占める高齢者の割合が大きいことなどが特徴である。

 まず感染者数の急増であるが、河岡義裕・東京大学医科学研究所教授らのチームが11月13日付の米科学誌サイエンス電子版に「現在世界で流行中の新型コロナウイルスは、初期のウイルスに比べ、変異によって感染力が3倍から8倍強くなっていたことをハムスターの実験で確かめた。人でも同様だとは断言できないが、変異が感染拡大に影響している可能性は高い」ことを発表した。

 感染に関わるタンパク質が変質したウイルスが6月にスペインで出現し、この変異ウイルスが欧州を起点に世界へ広まり、拡大を続けている(10月29日付ロイター)。

 11月に入り、デンマークでは新型コロナの変異ウイルスがミンクから人へ感染したことが確認されている。ロシア・シベリア地域でも変異ウイルスが出現した。

 新型コロナウイルスはRNAウイルスであることから、変異のスピードが速いことは当初からわかっていたが、世界中で変異を遂げるウイルスに対して、「現在開発中のワクチンがはたして効果があるのか」との声が上がりはじめている。

 変異による感染力の強化に加え、気候の変化も影響している可能性がある。冬が近づくにつれて空気が乾燥すると、ウイルスの感染率が高まるからである。

 人の口から出てくる咳や呼気に伴う粒子は「エアロゾル」と呼ばれている。空中に放出されたエアロゾルは、乾燥して粒子の径が徐々に小さくなっていくが、湿気が多い夏ではそのプロセスに要する時間は長く、冬では短い。夏の場合はエアロゾルは大きいものが多く、冬の場合は小さいものが多いということであるが、大きなエアロゾルは、鼻腔などでひっかかって鼻風邪程度、あるいは無症状の感染で終わる可能性が高い。一方、小さなエアロゾルは、肺まで直接届く確率が高いことから、肺炎を起こしてしまうケースが多いというわけである。

 このことから、本格的な冬に向けて感染者数はさらに拡大する覚悟が必要である。

 日本には約160万の病床があり、人口当たりの数はダントツで世界一であるが、そのうち新型コロナ感染対策病床として使用できる病床は非常に限られている。現行制度の下では、厚生労働省などが全国の医療機関に対し、緊急時に指揮・命令を行うことができないからである。ドイツなど欧州では「病床をコロナ専門にせよ」と命じる権限を政府が有しているが、協力依頼しかできない日本の現状のままでは、今後全国各地で医療崩壊が起きる懸念がある。日本ではPCR検査体制の不備ばかりに注目が集まっているが、「いざ」というときに機能しない日本の医療体制全体にメスを入れることが喫緊の課題である。

 次に家庭内感染の増加だが、筆者は「トイレでの感染リスクが軽視されているのではないか」と考えている。

 新型コロナウイルスの受容体(ウイルスの侵入口)としてACE(アンギオテンシン変換酵素)2に注目が集まっているが、最も多く存在しているのは、肺や喉ではなく、実は小腸や大腸である。小腸や大腸に新型コロナウイルスが感染すると、便と一緒にウイルスも体外に排泄される。

「下水道の水をPCR検査すれば、その地域の住民を個々にPCR検査しなくても、感染状況をいち早く把握することが出来る」とする海外の医学誌の内容が日本でも紹介されているように、排便は咳や呼気とともにウイルスが拡散する主要なルートなのである。

 ウイルスを含む便が付着する便器などに触れて感染するリスクが高いのであるが、このことが政府から発せられるメッセージから抜け落ちてしまっている。

 高齢者が外出を控えても、家族の他のメンバーが外からウイルスを持ち帰れば、トイレを介して家庭内感染を起こしてしまうことから、「トイレをこまめに消毒・洗浄して清潔に保つことが、家庭内感染のリスクを下げるのに効果的である」ことを政府はもっと発信すべきである。

 最後に感染者に占める重症化しやすい高齢者の比率の増加だが、「第1波襲来」の際、政府は緊急事態宣言を出して高齢者の安全確保を優先した。

 しかし、重症化リスクの低い現役層が、失業や収入減少といった形で悪影響を受けたのに対し、高齢者は受け取る年金が減らされることはなかった。本来、緊急事態宣言の恩恵を最も受けたはずの高齢者が負担をほとんどせず、恩恵を受けない現役層ばかりが負担するという政策は、明らかに「世代間不公平」である。

 これに対し、高齢者に外出自粛や子ども世帯との別居という形で負担してもらえれば、現役層は従来通りの経済活動をすることができ、日本経済へのダメージは最小限にできる。鈴木亘学習院大学教授は「新たにアパートを借りるなどして、子ども世帯から一時的に別居する高齢者に家賃の一部を補助したらどうか」と提案している。

 日本全体のことを考えれば、再び緊急事態宣言を出すよりも、高齢者の行動を制限する方が効果的ではないだろうか。

(参考文献)『社会保障と財政の危機』(PHP出版)鈴木亘著

藤和彦
経済産業研究所上席研究員。経歴は1960年名古屋生まれ、1984年通商産業省(現・経済産業省)入省、2003年から内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣情報分析官)、2016年より現職。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年11月26日 掲載