主人公・江戸川コナンが難事件を次々と解決する人気マンガ「名探偵コナン」の劇場版最新作「名探偵コナン 緋色の弾丸」が、4月16日から全国公開されている。

 本作は、昨年に新型コロナウイルスの感染拡大を受けて公開が先送りにされた。そうした経緯もあり、待望の新作へのファンの期待は高まっていた。

 本作は東京−名古屋間で建設が進められているリニア中央新幹線を彷彿とさせる真空超電導リニアが登場し、ストーリーにも大きく関わる。

 真空超電導リニアは最高時速1000キロメートルという設定で、新名古屋駅と芝浜駅を結ぶ。芝浜駅は東京に新設される駅とあり、新名古屋駅は2005年まで名古屋鉄道の駅名として存在した。現在、名鉄名古屋駅と改称されているので、一応は新名古屋駅も芝浜駅も架空の駅という位置付けだ。

 JR東海が運行を計画しているリニア中央新幹線は、実験線で最高時速603キロメートルを記録。あくまでも最高時速603キロメートルは実験での記録にすぎず、JR東海はリニアの最高速度を公式的に時速500キロメートルとしている。

 JR東海は、昨年に公開される予定だったコナンの内容を直前まで知らなかった。そのため、制作に協力していない。そうした事情もあって、最高時速1000キロメートルという途方もないスピード設定になったのかもしれない。

 劇場版公開日の翌日に放送されたテレビ版のコナン「エピソード1002 米花商店街ダストミステリー」では冒頭に真空超電導リニアのテレビCMが流れるシーンがあった。つまり、テレビと劇場版とが連動したストーリーになっていた。

 そのCMでは、真空超電導リニアは名古屋から岐阜・長野・山梨・神奈川を通って東京へ至る、現実に即したルートになっている。

 現実世界では、静岡県が現行のリニア建設計画に難色を示し、そのうえ駅が設置されない。そうした現実を加味して、架空のCMでも省かれる。そんな皮肉めいた話もオマケもついた。

 そうした現実世界とも微妙に連動しているコナンの世界観だが、非現実的とも思える時速1000キロメートルで走る真空超電導リニアも決して荒唐無稽の産物とは言い切れない。

 現在は広くリニアで呼び名が定着しているが、1970年に開催された高速鉄道講演会では“超伝導磁気浮上列車”という名称で存在が初披露された。その場で漢字ばかりが並んだ名前は印象が悪い、覚えづらいとの指摘を受け、以降はリニアモーターカーと呼び換えられて世間に広まっていく。リニアモーターカー、略してリニア。その呼称はすぐに人口に膾炙した。

 当時の国鉄はリニアに研究開発のリソースを注ぎ込むよりも、1964年に開業したばかりの東海道新幹線が需要を伸ばしていたこともあって新幹線の開発・拡大に重きをおいた。

 国鉄はわざわざ大金を投じてまで、実用化できるかどうか未知の新技術に挑戦する必要がなかった。こうした事情から、リニアに出る幕はなかった。そんなリニアの技術は、50年以上もの歳月を経て開発が進み格段に性能は向上している。

 しかし、国鉄でリニアが発表される以前から、現在のリニアを上回るスピードで移動できるロケット列車なる研究が名古屋で進められていたことは、あまり知られていない。

 1949年、名城大学教授の小沢久之丞が時速2000キロメートル超を出せる音速滑走体の構想を発表。小沢教授は、戦前期に菱重工名古屋航空機製作所の航空技術者として重爆撃機の飛龍を設計したエンジニアだった。それだけに、音速滑走体は実現できるとの期待を周囲に抱かせ、期待は膨らんだ。GHQは、戦後に敗戦国・日本に民間航空機であっても飛行機の開発・生産することを全面的に禁じた。そのため、多くの航空技術者は仕事を失い、別の仕事を求める。

 東海道新幹線を開発した技術者たちも、もともとは軍関係の技術者だった。国鉄は技術の離散を危惧し、技術者を雇った。こうした国鉄の取り組みにより、日本の技術力は保たれていく。つまり、新幹線は軍事技術を平和利用したことになる。

 小沢教授は国鉄で職には就かず、学術の世界で研究を続けた。そして、音速滑走体を発表。音速滑走体なる用語は一般的に聞き馴染みがないため、新聞各紙はリニアと同様にロケット列車と平易な表現に言い換えて紹介した。

 夢のような高速移動ができるロケット列車は、受験雑誌でも大きく取り上げられた。その反響は大きく、多くの高校生を魅了する。結果、小沢教授に習いたいという理由から名城大学の志願者が急増するというムーブメントを引き起こした。

 音速滑走体はロケットエンジンを搭載し、真空状態になっている円形状のチューブ内を移動する。この仕組みは、病院や図書館などでカプセルに書類などを入れて移送するといった形で実現している。

 音速滑走体は、実験段階で最高時速2535キロメートルを達成。小沢教授は、これ以上のスピード向上は無意味と考えた。そこから研究の主眼はスピードを高めるのではなく、安全性の向上へとシフトする。

 物を移動させることは可能だから、理論上は人が乗って移動することもできるはず。門外漢ならそう考えてしまいがちだが、実際に人間が乗車するには重力や衝撃に耐えられるのか? といった問題や万が一の事故に備えての安全面をクリアしなければならない。

 小沢教授は実用化における課題をクリアするべく、自作した音速滑走体の装置にカメとカエルを乗せて実験を繰り返した。最終的にロケット列車は実際の鉄道として実用化されることはなく現在に至っている。

 安全性の問題もさることながら、実際の鉄道車両として運行するには騒音や振動といった沿線住民に対する問題もクリアしなければならない。

 東海道新幹線も開業時に各地の沿線住民から騒音・振動に対する苦情が寄せられ、そして名古屋では訴訟にも発展している。

 東海道新幹線の10倍近い速度で走るロケット列車なら、騒音・振動は比較にならないレベルになる。それらによって日常生活を脅かされる住民がいることは想像に難くなく、健康被害が出ることも考えられる。

 こうした懸念材料を払拭することはできず、最高時速2500キロメートル超のロケット列車は幻に終わった。

 音速滑走体が実現すれば、東京−大阪間は15分前後で移動できると試算されていた。つまり、音速滑走体はコナンで描かれた真空超電導リニアの2倍以上のスピードで移動できる。コナンはフィクションだが、現実世界ではフィクションを上回る高速列車の研究開発が進められていたのだ。

 真空超電導リニアだけではなく、コナンでは重要な舞台装置として鉄道が大きな役割を果たしている。今はフィクションでしかないが、いずれ現実となる可能性を秘めている。

小川裕夫/フリーランスライター

デイリー新潮取材班編集

2021年5月5日 掲載