孤独死などで遺体が長時間放置された部屋は、死者の痕跡が残り悲惨な状態になる。それを原状回復させるのが、一般に特殊清掃人と呼ばれる人たちだ。長年、この仕事に従事し、昨年『事件現場清掃人 死と生を看取る者』(飛鳥新社)を上梓した高江洲(たかえす)敦氏に、ゴミに埋もれて暮らす30代女性について聞いた。

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 最近は、心に何らかの病を抱えている人を「メンヘラ」とよく言う。

 高江洲氏はこれまでそういう人々にたくさん出会った。

「30代の女性から、引っ越し後の残置物撤去の依頼がありました」

 と語るのは、高江洲氏。

「彼女は、私が以前に出演したテレビ番組を観たそうで、『この人なら自分の事情を汲んでくれるのではないか』と思い、連絡したと言っていました」

『片付けられない女たち』

 高江洲氏は早速、女性のアパートへ向かった。

「私を出迎えたのは、細身の女性でした。音楽に関わる仕事をしているとのことですが、見るからに繊細な神経の持ち主のようでした」

 アパートの間取りは2DKだった。

「彼女に案内されて玄関のドアを開けると、思わずはっと息を飲みました。部屋中に大量のゴミ袋や衣類が乱雑に放置され、足の踏み場もないほど山のように積み重なっていたんです。キッチンもゴミの山で、到底料理ができる状態ではありません。ゴミ屋敷になっている風俗嬢の部屋を何度も目にしたことがありますが、それと全く同じでした。その惨状を見て、ある一冊の本を思い出しました」

 高江洲氏が思い出したのは、2000年にアメリカの心理療法士のサリ・ソルデンが出版した『片づけられない女たち』という本だ。ゴミの中に埋もれるようにして暮らす女性は、神経系の障害であるADD(注意欠陥障害)が原因と指摘。全米でベストセラーになり、日本でも大きな反響を呼んだ。

「彼女は、おそらく自分にも精神的に問題があることをおぼろげながら自覚していたのでしょう。会社勤めをしていますから、社会生活は問題なく送れていたのだと思います。しかし、掃除や洗濯ができない、整理整頓もできない……。家事が全くできない人のようでした」

 高江洲氏は、彼女になぜこんなにゴミを溜め込むのか聞いてみた。

「下着は、数日穿いては脱ぎ捨て、新品を使っているそうです。臭うのは嫌だからゴミはビニール袋にまとめるそうです。でも、どうしてもゴミ収集日にゴミを出すことができないと言っていました。朝早いのが苦手なら、夜中のうちに出す手もあると思いますが……。この女性は、とにかくゴミを処分することができない人なんです」

4年ごとに

 ある程度時間が経てば部屋にゴミは入りきらなくなるはずである。彼女はどうするつもりだったのだろうか。

「いよいよ限界に達し、もはや新しい部屋に移り住むほかないという状況に陥った時、彼女は私に清掃を依頼してきたのです」

 高江洲氏は、いつものように手際よく、ゴミの山を次々と片付けていった。

「彼女は、私の仕事ぶりに目を丸くしていました。そして、部屋が綺麗に片付いた時、信頼しきった表情で私の顔を見ていました」

 この清掃以来、女性は定期的に高江洲氏に連絡するようになったという。

「1回の清掃に40万円前後かかります。それ以来4年ごとに彼女から連絡があります。つまり、部屋がゴミでいっぱいになる度、私が清掃し、引っ越しをしているというわけです」

デイリー新潮取材班

2021年5月14日 掲載