「なにウーロン茶なんか頼んでんだよ」

「ダメっす! ダメっす!」
「おいおい、カメラを止めるな! カメラぁ、止めるな!」

 貸し切りのコテージに野太い笑い声が響き渡り、嫌がる若手社員に向かって“火炎放射”が迫る。これがパワハラではなく、仲間内の飲み会での“悪ふざけ”だったと言われて、一体どれだけの人が納得するだろうか――。

 株式会社エフエムナックファイブ(以下、NACK5)は、埼玉県さいたま市に本社を置くFMラジオ放送局。地元のJリーグチーム・大宮アルディージャのメインスタジアムは、命名権を取得した同社の名前を冠して「NACK5スタジアム大宮」と呼ばれる。

 2018年4月にNACK5に入社したAさんは、2ヵ月後の6月から営業部に本配属となった。そこで出会ったのが、当時の営業部長であるB氏。Aさんに対して“火炎放射”をしかけた張本人である。

「営業部への配属が決まってすぐにBさんから“今夜、空いてるだろ? 歓迎会をするから”と呼び出されました。私はお酒に弱いので、会合の途中でウーロン茶を頼んだのですが、Bさんは“なにウーロン茶なんか頼んでんだよ”、“お前は飲んでも顔が白いから大丈夫だ、飲め!”の一点張り。しかも、“美味しい飲み物を作ってやる”と言うなり、私が飲んでいた焼酎の水割りのグラスに天ぷらを突っ込んで、それを飲むように迫ってきました」

「女性用下着」を着るよう指示

 いまのご時世にこうした「アルハラ」や「パワハラ」を“飲み会での悪ふざけ”で片付けることは不可能だろう。だが、当時のAさんには相談に乗ってくれる相手がいなかった。

「もともと正社員が30人ほどの会社で新入社員は私ひとりだけ。営業部内の先輩に相談しても、すぐにBさんの耳に入ってしまうのは分かっていました。希望して入社した会社だったので自分を押し殺して耐えるしかありませんでした」

 そんな営業部内で“若手いじり”が最もエスカレートするのは、毎年6月下旬から7月上旬頃に軽井沢で開催されるNACK5主催のゴルフカップイベントだという。イベントの開催期間中、営業部員はコテージに宿泊し、夜な夜な飲み会でハメを外すのが常態化していた。

「コテージではそれぞれに寝室があてがわれるのですが、入社1年目のときは、私の部屋の洗面台にメモと一緒に女性ものの下着が置かれていました。“これを着て出てくるように”と。上司からの言いつけには逆らえないので、キャミソールとパンティをつけて他の部員が待つホールに向かいました。ただ、笑いが起きなかったことで、周囲からは“うまくやらなきゃダメだよ”とダメ出しを喰らうばかりでした……」

制汗スプレーとライターで「火炎放射」

 翌19年、入社2年目のAさんは同じイベントで宿泊したコテージで、またもやターゲットにされてしまう。

「先輩たちに囲まれ、ユニットバスのなかでズボンを半分脱がされながら、ビールを頭から浴びせかけられました。そして、ずぶ濡れになった私のところに、Bさんが制汗スプレーとライターを持ってやってきたんです。しかも、当時、流行っていた映画のタイトル『カメラを止めるな!』を連呼しながら、他の部員にスマホで映像を撮らせていた。Bさんはユニットバスにいた私に向かって、制汗スプレーを噴射してライターの火を近づけました。次の瞬間、ボワッと大きな炎が上がって私に向かってきた。さすがに恐ろしくなった私は“ダメっす! ダメっす!”と言いながらシャワー室のカーテンを閉めたんですが……。Bさんは“火炎放射”に脅える私の姿を見て大笑いするだけでした」

 このまま仕事を続けられるだろうか――。そう思い悩むうち、Aさんは夜も眠れなくなってしまう。そして、心療内科を受診したところ、睡眠障害に加え、重度の非定型うつ病と診断される。事ここに至って、Aさんは営業部の上司に退職について相談したそうだが、その内容がB氏の知るところとなる。

「俺の評価もあるし」

「私としては退職するにしても、パワハラについて口外するつもりはありませんでした。しかし、Bさんから呼び出された際に“円満退社にしてやるから、会社に対してネガティブなことを言うな。俺の評価もあるし”と言われました。その言葉を聞いたときに、このまま何もなかったことにされるのは嫌だと感じたのです」

 Aさんは会社側に事情を説明。調査に乗り出したNACK5は、“火炎放射”や飲酒強要などのハラスメント行為があったことを認め、2020年2月、B氏に対して懲戒処分を下した。だが、その内容は<出勤停止2日間>というものだった。退職したAさんはB氏を相手取り、パワハラによって被った精神的・肉体的苦痛に対する損害賠償を求める訴訟を起こしている。

 前代未聞と言える“火炎放射”パワハラに対する処分が<出勤停止2日間>。この判断は本当に妥当なのか。パワハラの事実関係や処分内容、社としての対応なども含め、改めてNACK5に問い合わせると、以下のコメントが寄せられた。

「ご質問にかかる個別具体的な社内処分及びそれに関連する事項等について、コメントは差し控えさせていただきます」

 社内処分の内容はともかく、パワハラの事実関係や社の対応についてまで一切コメントしない姿勢には、さすがに首を傾げざるを得ない。

デイリー新潮編集部