多摩川べりの惨事は、関東一円で多発している強盗事件とつながりつつある。1月19日、東京・狛江で発生した老女殺害事件。背後には「闇バイト」で募った若者らを“にわか強盗団”に仕立て上げる首謀者の存在が見え隠れするのだが……。
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狛江市の民家で大塩衣與(きぬよ)さん(90)の遺体が発見されたのは、19日夕刻だった。両手を縛られて地下の廊下に倒れていた衣與さんは、左肘を開放骨折するなど、激しい暴行を受けていた。
「これより前、12日には千葉県大網白里市のリサイクルショップに2人組の強盗が押し入り、翌日に運転役だった三重県の23歳自衛官が逮捕されている。男の携帯電話を解析したところ、今回の狛江の現場の住所などが通信アプリ『テレグラム』で送られていた。19日午後に千葉県警から警視庁に情報提供があり、調布署員が訪問して事件が発覚したのです」(社会部デスク)
ガレージには2台のベンツが
2階建ての自宅はくまなく荒らされ、4種類の足跡が検出されている。
「死亡推定時刻は正午ごろで、当日の10時半ごろ、現場近くの会社の従業員が衣與さんを目撃している。他の家族はその日、朝から不在で、衣與さんが買い物から帰宅したのは11時ごろ。犯人らは、現金のありかを聞き出すため衣與さんが一人でいる時間帯を狙い、インターホンを鳴らして玄関を解錠させ、正面から押し入ったとみられています」(同)
亡くなった衣與さんは、かつて親族が港区で不動産業を営んでおり、3年ほど前に転居してきたという。
「おばあさんと息子さん夫婦、お孫さん2人の5人家族で、おもに2階の部屋で暮らしていると聞いていました。ガレージには、白と紺のベンツも並んでいました」(近隣住民)
そうした生活が強盗団の目に留まったのだろうか。事件当日、自宅前を行き来していた2台のレンタカーは、すでに押収されている。

強盗・窃盗事件が頻発
関東地方では昨年末以降、強盗・窃盗事件が頻発。前出のリサイクルショップ「てんとう虫」店主の内藤政行さん(76)が振り返る。
「12日の夜、閉店30分前に『これから行く』と客を装った男から電話がありました。店に入った2人組は革手袋をして殴りかかってきて『金庫はどこだ』と迫ってきた。結局、侵入直後に犯人が消火器をまいたため、火災報知機が反応して非常ベルが鳴り、逃げて行きました。声から2人とも25歳前後だったと思います」
金銭の被害は免れたものの、内藤さんは口内を6針縫うケガを負ったという。
「お金ください」「寄付ですよ」
また昨年12月5日に東京・中野区で発生した強盗傷害事件では、7人組の男らによって民家から約3千万円が強奪され、1月21日にはその一人である永田陸人(21)が逮捕されている。
「永田は石川県在住で、所持していたスマホで『狛江』の地名や『欠員が出たら連絡します』との文言が、18日にSNSでやり取りされていた。中野の事件では、すでに34歳の男が起訴されていますが“強盗のために集まった。元々面識はない”と供述している。調布署の捜査本部は、金に困った者がSNSの“闇バイト”募集につられ、首謀者の指示で民家や店舗に押し入ったとみている。首謀者は西日本の広域暴力団の末端構成員との見方もありますが、実態は依然判明していません」(前出デスク)
実際に狛江の現場近辺では、不自然な“所在確認”が多発していたという。ある住民女性が言う。
「昨年のクリスマスの日、チンピラ風の若い男が数人でインターホンを鳴らすので放っておいたら、敷地内に入って窓をドンドンと叩き始めるのです。驚いて『何ですか』と聞いたら『お金ください』『寄付ですよ』と言う。怖くて無視しましたが、翌日近所で聞くと、みなさん同じ目に遭っていた。どんな住人がどんな対応をするのか、下見していたのではと思います」
首謀者は、いまも何処かで爪を研いでいるのだ。
「週刊新潮」2023年2月2日号 掲載