バラエティタレント・つるの剛士さんと言えば、2007年からクイズ番組「クイズ!ヘキサゴンII」に解答者として出演し、珍解答を数々繰り出して大ブレイク。“おバカタレント”の代名詞となり、お茶の間の人気者の仲間入りを果たしたことをご記憶の向きも多かろう。その一方で、5人の父親として育児にも積極的に参加し、その経験を元に教育番組に数多く出演。子育て世代にとっても今やお馴染みの顔である。そんなつるのさんが、2022年12月、国家資格である「保育士」の試験に合格したと、自身のインスタグラムで報告した。“イクメン”から“ホイクメン”へと見事な変身を果たしたつるのさんに、資格取得までの苦労や、現場から見えてきた育児現場の実情、そして独自の少子化対策論を語ってもらった。

園を作ろうと……

 1975年、福岡県北九州市で生まれたつるのさんは、子供の頃から芸能界に興味を持ち、高校2年から再現VTR出演やエキストラとして活動を開始。1997年放送開始の「ウルトラマンダイナ」(毎日放送・TBS系)で主人公のアスカ・シン役を掴むと、子供たちの間で人気者になった。

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つるの剛士さん(以下、つるの) 振り返ってみると、やっぱり子供たちのヒーローであるウルトラマンをやらせていただいたことが、子供に関わるようになるきっかけだったと思います。その後、2004年に長男が生まれまして、イクメンなんていう言葉が普及する前でしたけど、育児休暇を取り、育児に関わらせてもらって。それがご縁で、子供向け番組や、子育て世代に向けた情報番組のお仕事をさせてもらえるようになりました。

――イクメン俳優として知られるつるのさんが、保育士を目指したきっかけは?

つるの 僕、2025年に50歳になるんですよ。人生100年時代と言われますが、まもなくその半分が過ぎる。さらに、2027年には芸能デビュー30周年を迎えるんです。そんな節目が続く中で、この先の人生、一体、何をしていくべきかなと考えたときに、やはり「子供」というキーワードが頭に浮かびました。そんな折、2019年のことですが、うちの子供たちを見てくれていた冒険団(子供たちにさまざまな自然体験させるサークル)の団長さん、この方もパパさんで、いわゆるパパ友なんですが、彼と食事をしているときに「将来、子供たちを預かる園みたいなものを作りたい」という話を聞いたんです。それはとてもいい案だと思いまして、「じゃあ、僕も保育士の資格を取ってお手伝いします!」と。即答でしたね。

コロナ禍の中で

つるの 育児の経験もあるし、子育てについての知識もあると自負していましたから、試験を受ければ受かるだろうという、いま思えば軽い気持ちでしたね。ところが、保育士は短大か大学を卒業していないと、そもそも受験資格がないことがすぐにわかりました。僕は高卒なので、“じゃあ、しかるべき教育機関できちんと勉強しよう”、と考えて、通信教育制の短大へ入ることに。その時も、“仕事の傍らにやれるだろう”といった感覚でしたね。それが2020年の4月で、まもなくコロナ禍が本格化したんです。結果、入学と同じタイミングで芸能関係の仕事はほとんどなくなりました。

――芸能活動は制限されたが、その分、学業に打ち込めたのでは?

つるの そうなんですよ。というか、授業が始まってすぐにわかったことですが、それまで通り、芸能のお仕事をさせてもらいながら資格取得を目指すのは、とても無理でしたね。いくら通信教育制といえども、命を預かる仕事に就くための資格なので、基本的にスクーリング(校舎で授業を受けること)なんです。毎週土日は必ず学校に行き、両日とも丸一日授業が詰まっている。一日でも欠かすと単位が取れませんから。しかも、僕自身もコロナに罹ってしまって。結局、そのときは授業も出られず、卒業は半年遅れることになりましたね。

日本国憲法まで

――苦労された科目は?

つるの 学ぶことは多岐に亘るのですが、特に難しかったのは「栄養」と、「医療」関係ですね。栄養は、食材ひとつひとつの成分を学んだり、離乳食の作り方を一から勉強したりと、かなり細かく勉強します。病気についても“ここまで勉強しなきゃいけないのか!”っていうくらい学びます。あと意外だったのは、日本国憲法でして……。

――え、憲法も学ぶんですか?

つるの 必修科目が被る幼稚園教諭の免許も取ったのですが、要は幼稚園教諭って“教員免許”なんですよ。なので、教員としての一般教養が必要になる。それから、英語も苦労しましたね。卒業、資格・免許取得までに必要な単位が思った以上に多くて本当に大変でした。でも、そうした座学より何より大変で、そして楽しかったのが、教育実習ですね。

――実際に幼稚園で実習生をしたのか。

つるの 2年生の秋、具体的には2021年の10月から11月にかけての1ヵ月間、幼稚園で実習生をしています。その間は仕事を全てお休みさせていただいて。それこそ、実習先の幼稚園を自分で探すことから始まります。受け入れ先が決まったら、実習をスタートできるんです。

教育実習のレポート

――実習で大変だったことは?

つるの 座学はともかく、実習では自分の子育て経験を存分に生かせるはずだと考えていたのですが、自分の子供を育てるのと他の親御さんの子供を見るのは全然違いました。実習でまず痛感したのは、そこでしたね。例えば、泣いている子がいるとします。自分の子供だったらパターンがわかるから対処できるのですが、子供たちはひとりひとり、泣き止ませる方法が全然違う。ところが、先生たちはすごいんですよ。まるで魔法使いのように、一瞬で子供たちの心の中に入って行って、ぱっぱっぱっと泣き止ませてしまう。本当にびっくりしました。1ヵ月後にはなんとか、僕もそれを掴めるようになりましたけど。

――その他に苦労したことといえば?

つるの 実習期間中は、毎日毎日、その日にあったことを分刻みで、事細かく手書きのレポートにまとめなければいけないんですよ。<何時何分、●●ちゃんが××をして、こう対処したらこうなった>といった具合です。それを翌日、先生に渡すと、先生からの感想が返ってくる。このレポートがとにかく大変で、出来事を忘れないように、ポケットにメモ帳を入れて、その都度メモにして、家に帰ってそれをまとめるんですね。これを毎日、ほぼ徹夜で書いていました。正直、しんどかったですけど、やってよかったなと思います。レポートには実習のときの経験がすべて詰まっていますから、僕にとっては宝物です。とはいえ、あまりにも大変で疲れる作業なので、そこで保育士や幼稚園教諭への道を断念してしまう実習生も少なくないため、その是非について今、議論になっているんです。たしかに、手書きというのも時代に合ってない気がしますし、こういう慣習も、少しずつ変化が必要なのかな、と思いました。

今じゃない

――いわゆる“中の人”として幼児教育の現場に関わって分かったことは?

 一番驚いたのが、保育園も幼稚園も同じなんですが、子供たちの遊びやお散歩。あれって、ただ漫然とやっているわけではないんですよ。全て、子供たちにこういうことを学んでほしいという“狙い”が込められているんですね。

――遊びやお散歩の“狙い”とはどういうことか。

つるの 例えば、鬼ごっこをやりましょう、となっても、単に子供たちが鬼ごっこが好きだから、というわけではありません。社会性を学ばせるために鬼ごっこをやらせる、と。公園でどんぐりを拾うのも、季節を学ばせるなど、あらかじめ狙いを決めているんです。そういった狙いをきちんと込めて、子供たちに何をやらせていくかを、月ごと、週ごとに計画しているわけです。これまで僕は、単に子供たちを好きに遊ばせているばかりだと思っていました。また、先生は何に対しても注意するわけではなく、争いが起きてもあえて見守ることもある。対応の仕方にもひとつひとつ、狙いが込められているんですね。

――難関を突破して見事、保育士試験に合格。いよいよ、パパ友との約束だった「園の創設」が動き出す?

つるの はい。実際にもう、園を建設するための土地も取得していて、やる準備はできているのですが……。今がそれを行うタイミングか、といえば、そうではないのではないかと考えていまして。というのも、教育の現場もコロナによって随分と変わったじゃないですか。そして、新たに出てきた問題も沢山あるわけです。実際に園を作って子供たちを直接育てる、見守るということよりも先に、もっと引いた目線で、仕組みの部分などを発信していくことの方が大切なんじゃないかと。そのためにはもっと勉強しなければと考えて、4月から大学に編入する予定なんです。心理学の勉強をして、心理士の資格取得を目指そうと思っています。同時に、様々な課題についての提言や問題提起もしていきたいなと。

閉鎖的な世界

――具体的にはどんなテーマに関心があるのか。

つるの 例えばですが、最近大きな話題になった保育園での虐待問題。ニュースでは一瞬だけ盛り上がりましたが、ああいった事件が起こる背景にはどういうことがあるのかについて、きちんと伝えたいと思っています。つまり、保育界の実態といいますか。まず、あまり知られていないこととして、保育園の先生方の仕事量ですね。純粋に保育の仕事だけであればそこまで大変じゃないんですが、それ以外の仕事がとにかく多いんですよ。運動会やお遊戯会といったイベントが頻繁にありますし、そのたびに会場の設営から壁の飾りつけまで……。もちろん、保護者の方々からすれば、お子さんの成長を見たいという思いがあるでしょうし、園を経営する側からしても、多くの園児に入園してもらうために、保護者向けのアピール材料を作らなければならないというのもわかります。ただ、それによって保育士さんたちが残業や休日出勤を強いられているという現実もあるわけです。幼児教育の世界はとても閉鎖的で、その実情が世間的にはあまり知られていない。そういう現実をまずきちんと伝えたいですね。もちろん、根本の問題として、人間にとって保育園、幼稚園時代の教育が、その後の人格形成においていかに重要で、その役割を担う保育園や幼稚園の先生方の存在がいかに大切かということも、もっと発信していきたいと思います。

お金のことは気にせず育てられるように

――国が進める少子化対策についてもSNSで発言し、話題になった。

つるの 今の制度の下で、子供をたくさん産みたいとはなかなか言えないと思います。うちには5人の子供がいますけど、実感として、“あぁ、この国は子供を産んで育てたい国だな”とは到底思えません。税負担も所得が多ければ多いほど課せられるし。国は、本当に少子化対策をしたいのかなって疑問に思います。今、政府が検討している給付金制度も、所得制限をつけるとか。何を考えているのかわかりません。

――逆に、どんな制度だと少子化対策になるのか。

つるの まず、所得制限なんてやめましょうよ、と。さらに、子供の数が多ければ多いほど、所得税が減税されるようにするとか、とにかく、継続的に、経済的不安を解消する制度を導入しないと意味がないと思います。昨年末、出産一時金の増額が発表されましたけど、別にみんな、出産費用がかかるから子供をつくらないわけではないんです。生まれた子供が大きくなるまで、継続的に少なくないお金がかかる。それを支払えるかが不安なわけで。まして2人目、3人目となればもっと負担が大きくなる 。そこを、“お金のことは気にせず、安心して育ててください”と言える制度にしなければならないと思います。子どもたちは未来の納税者。将来は我々が支えられる立場になるわけですから。

デイリー新潮編集部