新型コロナウイルスの新規感染者数が減少傾向にある一方で、インフルエンザの感染拡大が顕著になっている。メディアと一部の専門家は「3年ぶりの流行」に警鐘を鳴らすが、その感染実態を検証すると、意外な事実が見えてきた。

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「インフルエンザが流行期に入った」と、厚労省が発表したのは昨年12月28日。以降、感染者は増え続け、今月22日までの1週間(第3週)で全国の感染者(定点報告数)は4万7366人を数え、今年最高を記録。同期間に医療機関を受診した推定患者数も約28万7000人と、前週比で約3万人増えた。

 メディア上では「2月中旬以降にピークを迎える」可能性が指摘され、2020年以来となる本格的なインフル流行に警鐘が鳴らされている。

 しかしネットを中心に広がるのは「マスクをしている人はまだ多数を占めるのに、なぜ今年に入ってインフル感染者が急増しているのか?」といった疑問の声だ。なかにはマスクそのものの有用性や「インフルの強毒化」を疑う声も出てくるなど、議論百出の様相を見せ始めている。

 多くの人が首を傾げるのも当然で、その謎を解くには、報道で示される数字の“トリック”の種明かしから始める必要がある。

19年比では2割以下の感染者

 直近のインフルエンザ感染者数4万7366人(第3週)は、昨年の71人(同)、21年の58人(同)と比べると、確かに大幅に増えている。が、コロナ禍が始まった20年の8万3238人(同)と比較すると6割未満、19年の26万8220人(同)とでは2割以下の感染者に過ぎない。

 つまりコロナ以前の例年と比べると、流行の規模は決して大きなものでないことが分かるのだ。とはいえ、過去2年と比べて感染者数が急増しているのは事実であり、その理由を東京歯科大学市川総合病院(呼吸器内科部長)の寺嶋毅教授がこう話す。

「インフルエンザの主な感染経路は接触・飛沫感染のため、マスク着用によって感染を防ぐ効果があることは間違いありません。それでもなお、今年に入って感染者が増えているのには複数の理由が考えられます。第一が、いまだマスクを着けている人が多いとはいえ、過去2シーズンと比べると、若い人を中心にマスクの着用率が下がっている点です」

 さらに昨年末以降、国内移動だけでなく、海外からの入国者が増えている点も、インフル感染者を押し上げた要因と見られている。アメリカやオーストラリアでも日本より一足早くインフルエンザが流行したが、やはり要因として“ノーマスク”や移動の自由などが挙げられているという。

注意が必要な「高齢者」と「9歳以下の子供」

「日本でいま流行っているインフルエンザはH3N2と呼ばれるもので、昨夏、オーストラリアで流行した型と同じです。感染力は弱くはありませんが、オーストラリアでの報告事例からは重症化や致死率が高いといった点は確認できず、“今年のインフルが強毒化している”との指摘は当たらないと考えます」(寺嶋氏)

 ただし、それでも注意しなければならない年齢層があるという。

「インフルエンザによる入院患者(第3週)のうち、5割を占めるのが9歳以下の子供たち。そして3割を占めるのが60歳以上の高齢者です。過去2シーズン、インフルエンザの流行がほぼゼロだったため、特に4歳以下の子供については本来なら有していたはずの免疫の獲得や蓄積の機会を逸している可能性があり、注意が必要です。またインフルエンザに罹患することで、子供はインフルエンザ脳症を、高齢者は肺炎を引き起こすリスクがあり、どちらも命に関わる疾患のため、流行の強弱にかかわらず軽視はできません」(寺嶋氏)

 過度に恐れる必要はないが、対策を怠らないことも重要ということだ。増えている家庭内感染を防ぐためにも、ワクチンの予防接種はいまからでも遅くなく、マスクや手洗いなどの習慣も変わらず有効という。

デイリー新潮編集部