皇室をお守りすべき「皇宮警察」で、あろうことか皇族方への陰口が横行、パワハラや不審者侵入なども頻発している――。本誌(「週刊新潮」)は昨年、そう報じていた。1月20日の「年頭視閲式」には、天皇皇后両陛下が初めて出席されたのだが、組織はにわかに変わるはずもなく……。

 ***

 コロナ禍の影響で3年ぶりの開催となった年頭視閲式は1985年に始まった行事だが、昭和・平成時代を通じて天皇陛下が出席された例はない。

「86年には皇宮警察創立100周年の節目で、浩宮時代の陛下が出席されていますが、“内輪の新年ごあいさつ”といった位置付けであり、皇族方のご出席もこれまでありませんでした。それが今年は、両陛下そろってお出ましになったのだから、極めて異例です」

 とは、宮内庁担当記者。

「側近によれば、陛下はコロナ禍で皇宮警察の活動に触れられる機会がなくなる中、一昨年秋に皇居へ移られてから初めての視閲式でもあり、日頃の成果をご覧になりたいご意向だったとのこと。そうしたお気持ちを侍従職が内々に皇宮警察へ伝え、先方からお出ましの願い出があって実現したというのです」

愛子さまへの看過しがたい陰口が

 当日は皇居・東御苑で、10部隊およそ280人の皇宮護衛官らが両陛下の前を行進。その総指揮官は、「ノンキャリア組」のトップである山口孝幸・護衛部長が務めていた。本誌で報じた通り、愛子さまに対して、看過しがたい陰口を放った人物である。さる皇宮警察関係者によれば、

「護衛部長は当日、国歌吹奏に続いて人員報告を行い、視閲官である松本裕之・皇宮警察本部長(キャリア)の傍で部隊の指揮を執っていました。部長と同じく、やはり愛子さまを罵っていた池田好彌(よしや)・警務課調査官も、宮内庁長官や警察庁長官など来賓が居並ぶテント内に控えていました」

 というのだ。

 宮内庁関係者が明かす。

「今回の陛下のご出席は、“皇宮警察に感謝の念をお持ちであり、地道な努力をねぎらいたい”というのが表向きの理由ですが、愛子さまへの陰口を含め、数々の“実態”が報じられるにつけ、大いにお心を痛めておられました。ご自身が出席なさることで、取りも直さず国民へのアピールにもなる。陛下は、先々の良好な関係を願って、あえて皇后さまとともにご出席を決められたのです」

 同時にそれは、

「問題の絶えない組織に対し『こうして観ていますから、しっかり頼みますよ』という、無言のメッセージを送られたともいえます」

 となれば幹部から若手まで士気も高まり、皇室のため思いを新たにするところだろうが、陛下にご臨席を賜ったからといって“不祥事の百貨店”が劇的な変化を遂げるとは到底思えない。何しろ、その根はきわめて深いというのだ。

「存在がパワハラそのもの」

 先の皇宮警察関係者が言う。

「昨春まで本部の警務課で広報を担当し、現在は赤坂護衛署のナンバー2に就いている人物など、毎朝の署内の朝礼で、こんな“訓示”を繰り返していました。いわく『(本誌の)記事は事実無根だ』。その一方で『俺の名前は出てないから潔白だ』と。この人物は警務課時代、ある幹部にパワハラの嫌疑をでっち上げ、いきなり池田調査官と一緒に自宅に押し掛け、幹部の妻に『ご主人には将来がないから新たにスタートを切ってください』と告げて追い詰めるなど、存在がパワハラそのものでした」

雅子皇后も誹謗中傷

 皇宮警察で「自浄作用」が働かないのは今に始まったことではない。先述した通り護衛部長とは、プロパー職員の最高ポスト。通常は任期1年で定年退職を迎えるのだが、

「これまで護衛部長に上りつめたOBの中にも、ご対象を堂々と罵ってきた人が少なからずいました」(同)

 というのだ。

「平成の終盤に就任した2人の護衛部長など、体調を大きく崩されていた雅子皇太子妃殿下(当時)に対し、予定時刻通りにお出ましにならなかったことなどをしばしば論(あげつら)ってきました。部下とのミーティングや酒の席で、正常な状態でないことを意味するジェスチャーとともに誹謗していたのです」(同)

 こうした体質が脈々と受け継がれているのであれば、皇室との信頼構築など望むべくもない。

「悪口だけではありません。中には、根拠のないうわさを吹聴する者もいました。かつて宮家を担当する護衛第3課(現在の護衛第2課)に所属し、高円宮家の側衛官を務めていた人物は、長女の承子(つぐこ)女王殿下について『ツグちゃんは、腰のあたりに刺青を入れてるんだ。だから結婚は難しいかもな。イギリス留学中にやっちまったんだよ』などと、訳知り顔で口にしていました。確かに留学中には“胸にヤモリの刺青入れたい”などと書き込まれたブログがご本人のものではないかと報じられ、騒ぎになったこともありました。とはいえ、側衛官としての自覚に著しく欠けると言わざるを得ません」(同)

 つまりは、モラルなどどこ吹く風なのである。

高御座に座って携帯で写真を

 さらに今回、自らの“悪事”を打ち明けるのは、さる皇宮警察OBである。このOBが十数年前、本部に勤務していた頃の話として、

「京都御所で恒例の一般公開が行われていた晩秋のことです。私は警備や手荷物検査などの応援のために出張し、期間中は現地に滞在していました。閉門後は毎日、不審者などがいないか調べる『検索』を京都護衛署の護衛官と合同で行い、その日はたまたま高御座(たかみくら)と御帳台(みちょうだい)が保存されている部屋(紫宸殿)を見て回っていたのですが……」

 高御座とは、皇位継承儀式において用いられる玉座であり、御帳台は皇后の御座所。2019年10月の即位の礼でお目見えしている。

「京都護衛署の人から『せっかくだから高御座で写真を撮っていったらどうですか』と勧められたのです。玉座の前ではなく、座ってという意味だったので驚きましたが、その人は『東京から来た人はよく撮っていますよ。我々(京都の護衛官)もやってます』と言う。そこで誘われるまま、互いに高御座に座って携帯で写真を撮り合いました。紫宸殿は庭に面しているのですが、検索中の護衛官や宮内庁の職員からも、特に注意はありませんでした」(同)

 昨今の「バイトテロ」も真っ青、常軌を逸した悪ふざけと言うほかない。

陛下専用の御寝室でベッドに仰向けに

 続いて、こんな“告白”も。皇宮警察は那須、葉山、須崎の各御用邸に護衛官派出所を常設しているのだが、ある御用邸で勤務歴のあるOBは、

「ある時、御用邸の管理事務所の所長さん(宮内庁職員)が、派出所の私の上司に気を利かせて、普段は入れない場所を特別に案内してくれました。私もご一緒し、陛下専用の御寝室まで見せてくれたのです。まさしくキングサイズのベッドでしたが、ちょうどその所長さんが席を外した隙に、何を思ったか上司がそのベッドにバーンと仰向けになり『撮ってくれ』と言うので、言われるまま『撮りますよ』と、携帯で撮ってしまいました」

 懺悔したとて許される行為では決してないのだが、これらは言うまでもなく、腐敗した組織の一断面でしかない。現在でも皇居を見渡せば、身近な場所でその一端を垣間見ることができるというのだ。

精神的障害のある人への警戒が強化

 先の皇宮警察関係者が続ける。

「皇居や赤坂御用地には時折、精神疾患を抱えていると思しき人たちがやって来て、各門で立ち番をしている護衛官に『雅子さまに会わせてほしい』『(陛下を指して)お父様に会いに来た』などと話しかけてくることがあります。そうした際に護衛官は、住所、氏名や年齢などを聞き取った上で、身元の分かる保険証などを持っていれば、『お会いするために必要な手続きです』などと言いくるめて記載事項を記録し、所持品をくまなく調べた上で容貌の撮影までしているのです」

 というのも、

「皇宮警察では1992年2月14日に起きた『バレンタイン事件』というものが知られています。赤坂御用地内で行われていた懇親会に、招かれていないにもかかわらず精神疾患の女性が入り込んでしまい、出席されていた皇太子殿下(当時)の傍まで近づいたという事案でした。御用地の正門にいた護衛官が誤って入構させてしまったのですが、こうした経緯もあって精神的障害のある人への警戒は強化されてきました」(同)

“やってますアピール”

 2004年から皇宮警察にも警察官職務執行法が一部準用され、職務上必要な場合は所持品検査が認められている。とはいえ、「雅子さまに会うために必要」などと偽って写真を撮影するとは、およそ適切な手法とは言い難い。職務質問の実態に詳しい清水勉弁護士が言う。

「過去に赤坂御用地で闖入事件が起きたのは、あくまで別の精神障害者に対する警備上の問題であり、何ら犯罪の兆しのない精神障害者に職務質問を行う理由にはなりません。相手がうまく断れないのをいいことに、不当に個人情報を収集していると言われても仕方ありません」

 実際に、そうして集めたデータは、

「本部で警備計画を担う警備第1課がストックし、陛下や皇族方が地方へお出ましになる際には、事前に行う現地警察との打ち合わせの場で『お土産』と称して提供していました」(前出・皇宮警察関係者)

 というから、あきれた“やってますアピール”である。

しらじらしい模範回答

 一連の体たらくについて、皇宮警察に質すと、

「皇宮警察では、これまでも適切な職務執行に努めており、職員に不適切な行為が認められた場合には、その都度厳正に対処しております。また組織の体制についても、その時々の情勢において適切なものになるよう努めているところです」(警務課の原田聖爾広報官)

 実にしらじらしい模範回答を寄せるのだが、『皇宮警察』(河出書房新社)の著書もある皇室ジャーナリストの久能靖氏は言う。

「皇室の方々は、24時間お傍でお守りする護衛官を家族同然に遇しています。にもかかわらず悪口を言うとは、信頼を大きく裏切ることを意味します。なぜそこに思いが至らないのでしょうか。高御座に座ってしまう件もしかり、組織としての使命を見失っているとしか思えません」

 このままでは、歴史的な両陛下のご視察も無になりかねないのだ。

「週刊新潮」2023年2月9日号 掲載