勤務していた葬儀場で、盗撮や遺体へのわいせつ行為を繰り返したとして、迷惑防止条例違反と建造物侵入の罪に問われていた男の判決公判が、2月3日に東京地裁で開かれた。神田大助裁判官は男に懲役2年6ヵ月執行猶予4年の判決を言い渡した(求刑2年6ヵ月)。【高橋ユキ/ノンフィクションライター】

 判決によれば篠塚貴彦被告(42)は東京・大田区にある葬儀場にて、2021年11月から昨年にかけ3回にわたって、女性の遺体にわいせつな接触を図る目的で安置室や冷凍室などに侵入し、また同じ葬儀場のトイレ個室内にスマホを設置。訪問客25名が用を足す様子を撮影したという。これまでの公判の様子については前回の記事(「葬儀場の職員が、亡くなった「女子高生」の胸を…被害者の母は涙ながらに『娘のお墓に土下座してほしい』」)をお読み頂きたい。

 篠塚被告はかねてより女性のスカート内を盗撮しており、勤務先である葬儀場のトイレにスマホを隠し置き、用便中の女性らの盗撮を繰り返していた。そのうえ「遺体を触ってみたい」という欲求から、少なくとも3年前から、安置室に侵入しては、女性の遺体の乳房や陰部を触るという行為を繰り返していたと判決は認定している。

 初公判と同様、保釈されていた篠塚被告はこの日、弁護人に伴われながら奥のドアから法廷に入った。スーツ姿に白髪交じりの頭髪。開廷まで長椅子に座り、しっかりと前を見据えていたが、その視線は一度たりとも傍聴席に向かなかった。そこには、彼がかつて葬儀場安置室で歪んだ欲望を向けた、女子高校生の母親が、娘の遺影を抱いて座っていた。

 悲しみに暮れる弔問客を狙った女子トイレ内の盗撮、そして、若くして命を落とした女性の遺体への性的な接触――。判決では篠塚被告のこうした犯行について「顕著に窺われる被告人の偏った性的嗜好等を踏まえ、本件各犯行の根は相当に深いといわざるを得ない」と断じている。

「感覚が理解できない」

 たしかに、1月20日の初公判で篠塚被告は「正直ここまで話が大きくなるとは思っていなかった」と繰り返し述べ、自身が重ねてきた犯行の重大性を全く認識していないことが露わになった。

 それどころか、犯行に使ったスマホを「返して欲しい」と発言し、裁判官を困惑させてもいた。

 逮捕時に押収された篠塚被告のスマホには“動画”が残されている。これまで傍聴してきた刑事裁判では、こうした状況において被告人は、犯行道具の返還を求めないことが常であるが、篠塚被告は違ったのだった。スマホが返還されることで、被害者らはインターネット上への画像の流出や、動画を用いた脅迫行為などを懸念し恐れる。

 実際に遺族は閉廷後、「スマホを取り戻して、データを削除すると言っていましたが、もしそうするとしても、削除の作業の時は、撮影した動画を目にしますよね。それも許せないし、そもそも盗撮に使った道具を取り戻したいという感覚が理解できない」と憤りながら語っている。

 さらに、「いまはだいたいクラウドと同期されているから、被告人もデータをクラウドに残したままなんじゃないか。スマホを取り返さなくても、犯行動画を観られたり、ばらまけたりする環境にあるのではないかと考えると気が狂いそうです」と心配し続けている。

「子供の写真が入ってるんで」

 法廷で裁判官は尋ねた。

裁判官:「あなたの“話が大きくなる”とは、どういう意味ですか?」
被告:「盗撮自体の犯罪で、ここまで大勢の方に迷惑をかけるという認識を持ってなかった……」
裁判官:「そうなることが分からないんですか?」
被告:「……やってるときは、そこまで考えてなかった」

裁判官:「スマホを返してもらうつもりなんですか? また使おうと思ってるんですか?」
被告:「そのつもりです。それ自体は便利だから……」
裁判官:「こういう事件を起こして、話が大きくなって、裁判にもなって、それで犯行に使った携帯電話をまた使う。抵抗はないんですか?」
被告:「……言われてみれば抵抗はありますが、子供の写真が入ってるんで」

「どんな気持ちで私たちのこと見てたんだよ!」

 篠塚被告はなんと“自分の子供の写真を手元に持っておきたい”という理由で、女性の遺体へのわいせつ動画が収められたスマホの返還を求め続けていたのだ。

「ここまで話が大きくなると思ってなかった」と繰り返した篠塚被告は、かつて勤務していた葬儀場にも、心痛の癒えないご遺族にも、全く連絡を取っていないという。お詫びがなされぬまま迎えた判決では、「扶養すべき妻子がおり、妻が今後の指導監督を約束している」などといった事情から、4年の執行猶予が付された。

 こうして閉廷となったとき、篠塚被告が決して視線を向けない傍聴席から怒号が飛んだ。

「篠塚! あんなことをして、どんな気持ちであのとき私たちのこと見てたんだよ!」

 遺族が立ち上がり、震えながら叫ぶなか、篠塚貴彦は遺族に目を向けないまま、弁護人に伴われ、足早に法廷から消えた。

 盗撮被害に遭った者たちが不安な気持ちになることも顧みず「自分の子供の写真」を取り返すために、スマホの返却を求め続けた篠塚被告。その大事な子供たちが、今の姿を見てどう思うだろうか。

高橋ユキ(たかはし・ゆき)
ノンフィクションライター。福岡県出身。2006年『霞っ子クラブ 娘たちの裁判傍聴記』でデビュー。裁判傍聴を中心に事件記事を執筆。著書に『木嶋佳苗 危険な愛の奥義』『木嶋佳苗劇場』(共著)、『つけびの村 噂が5人を殺したのか?』、『逃げるが勝ち 脱走犯たちの告白』など。

デイリー新潮編集部