異国の収容所から“闇バイト”で集めた実行犯らに指示を出し、高齢者から暴力でもって現金や貴金属を強奪――。世間を恐怖に陥れた強盗グループの「主犯格」たちがいよいよ日本に送還される。彼らは囚われの身にもかかわらず、これまで収容先の入管施設内で「王族のような暮らし」を送っていた。それを可能にしたのが“ルフィの恋人”と呼ばれた女性の存在だ。その素顔に迫った。
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全国各地で相次いだ連続強盗事件の指示役「ルフィ」と見られる日本人容疑者4人のうち今村麿人(38)、藤田聖也(38)の両容疑者が収容先のフィリピンから7日、日本に強制送還される。残る渡邉優樹(38)、小島智信(45)の2容疑者についても近く送還の見通しで、事件の全容解明に向けて事態は大きく動き出した。
4人が収容されているフィリピンの首都マニラ近郊にあるビクタン収容所では4日、渡邉容疑者らによるスマートフォンの使用を黙認したなどとして、所長や警備員ら36人が更迭されたばかりだが、“特別待遇”はそれだけにとどまらない。
「ビクタン収容所ではスマホの利用だけでなく、職員に賄賂さえ渡せば“何でもできた”といいます。特に渡邉と今井の両容疑者は月20万円以上を払ってエアコンやトイレの完備された“VIPルーム”で生活し、時に和牛やマグロを外部から調達して豪勢な食事を摂っていたとも伝えられる。なかでも渡邉容疑者は“ボス”と呼ばれ、世話係を従えるなど収容所内でも別格の扱いだったとされます」(現地で取材する民放キー局関係者)
“地獄の沙汰もカネ次第”を地でいく話だが、渡邉容疑者の「快適な収容所ライフ」を支えた裏には、一人の女性の存在があったという。
裁判資料にある「男女の仲になった」の記述
渡邉容疑者は21年4月に逮捕されるまで、マニラ近郊のカジノが併設された高級リゾートホテルに滞在し、豪遊生活を満喫していたという。
「のちにフィリピンで36人が拘束され、被害額35億円を超す特殊詐欺グループのリーダー格として渡邉容疑者も逮捕されますが、フィリピンから日本にいる“受け子”や“出し子”を遠隔操作する指示役として暗躍した構図は、今回の一連の強盗事件と同じです」(同)
その渡邉容疑者のもとへ、日本で騙し取ったお金を何度も運んでいたのがSという女性だ。Sは渡邉容疑者が率いたグループによる組織的な詐欺事件に関与したとして19年11月に逮捕。翌20年10月に懲役4年6月の実刑判決を受けるが、デイリー新潮ではその裁判資料を入手。
同資料によるとSは1990年生まれ。東京都に住所を置いていたが、渡邉容疑者と知り合った経緯を判決文はこう記す。〈令和元年3月16日、知人からの紹介で(Sは)フィリピン共和国マニラを訪れ、実業家と称する渡邉優樹と会い、男女の仲になった〉。さらに〈(同年)4月2日、渡邉の誘いで再びマニラを訪れ、その際、日本から2000万円の現金を持ち出して渡邉に渡した〉とある。
「出し子」「受け子」のリクルーター兼監督者
Sが関与を問われた事件とは、まず“掛け子”が警察官や金融庁職員を名乗って「口座から不正出金があり、キャッシュカードの封入作業が必要だ」などと電話をかける。次に警察官などを装った“受け子”が被害者宅を訪れ、キャッシュカードをすり替えて詐取。被害に遭った7人は大阪や京都、奈良、東京などに住む71歳から89歳の高齢者だった。
判決文は〈(Sは)受け子兼出し子らのリクルート役として(中略)関与するようになり、その後も、日本とマニラを行き来しながら、リクルート役として、受け子兼出し子らの選別や上位者との仲介、稼働状況の確認等を行っていた〉と認定。つまり末端要員でなく、グループの“幹部クラス”と目されたのだ。
「渡邉と恋仲になったSはフィリピンに計7回渡航し、1回につき数千万円のカネを運んでいた。すべて高齢者などから騙し取ったもので、Sから渡邉にわたった総額は1億円を超えるとされる。そのカネが収容所職員を手なづけるための賄賂の原資になったと見られている」(捜査関係者)
検察側の求刑は「懲役7年」だったものの、Sに〈前科前歴がないこと、被告人が犯罪に関与したこと自体については反省〉し、被害者7人のうち6人に対して計805万6000円を弁済した点などが考慮され、判決で刑期は短縮された。
報酬は「50〜60万円」
実は犯罪収益などで得た現金を運搬する「運び屋」は女性のケースが多いという。実際に運び屋を使ってフィリピンなどへ現金を持ち込んだ経験のある振り込め詐欺グループの元関係者がこう話す。
「女性のほうが警戒心を抱かれにくいことに加え、特にフィリピンのように出稼ぎに行く女性が多い国だと空港の検査でも(女性は)スルーされる確率が高い。そもそも1000万円の現金といっても重さは1キロ程度に過ぎず、スーツケースやキャリーケースに隠すのは難しくない。報酬は“1000万円を運べば50〜60万円”というのが相場だ」
また「現金の運び屋」は受け子や出し子と比べ、リスクは格段に低くなるという。
「万が一、入国時に見つかってもカネで済むケースは多い。フィリピンが犯罪者に人気なのは、物価が安いことと、何よりチップ(賄賂)で融通が利く場面が多いこと。振り込め詐欺の“テレアポセンター(拠点)”が多いのもそのためだ。実際、10年前には金のインゴットを両ポケットに入れてフィリピンから持ち出した人間もいるほど、出入国の管理はユルい。ただし、今回の一件で“犯罪者天国”だったフィリピンも変わるかもしれない」(同)
“海賊王”を騙る卑劣な犯罪者と、威信を懸けた警察当局の攻防がこれから始まる。
デイリー新潮編集部