ついに「ルフィ」グループの強制送還が実現した。2月7日午前、4人のうち先行してフィリピン当局から日本当局に引き渡されたのは今村磨人、藤田聖也両容疑者。早朝5時から始まった“世紀の移送劇”をフィリピン・マニラから実況中継する。
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AM0500 収容所前では記者たちが足止め入れない
まだ薄暗い午前5時。警視庁から逮捕状が出ている4容疑者が収容中の「ビクータン収容所」が入る首都圏警察本部前には、3、40人の報道陣が詰め掛けていた。これまでは申請してパスさえもらえば、報道陣は収容所前まで自由に出入りできた。だが、この日は全員足止め。「どうして、この一番大事な時に入れてくれないんだ」といった不満の声があちこちから上がっている。
テレビ局の記者を中心に守衛と押し問答すること約2時間。午前6時45分。ようやく所長らしき人物が出てきて「入っていいぞ」と声をかけた。全員駆け足で車に飛び乗り、敷地内へと入っていく。
収容所前はいつもと違って、緑色の庇がある玄関前には近づけなくなっていた。許された取材スペースは、玄関から20メートルくらい離れたところ。3、40人の警察官がすでに待機していて、報道陣の前をがっちりガードしていた。
AM0720 所長が「ファイブ、ミニッツ」と叫んだ
7時20分。所長が「ファイブ、ミニッツ」と叫ぶと、報道陣に緊張が走った。10分ほどすると遠方から、白バイ2台、「SWAT」と書かれた警察車両1台、白いワンボックスの移送車5台、黒いワンボックスカー1台からなる物々しい車列がやってきた。
車列は玄関前に停車。すぐに今村・藤田両容疑者は車に乗り込んだようだが、記者からは警備員の人垣や車列が邪魔をしてまったく見えない。立ち位置によって写真が撮れた社と撮れなかった社に別れたようだ。二人を車に乗せると、車列は車で40分ほどの距離にあるニノイアキノ国際空港第一ターミナルへと向かっていった。
AM0815 空港でレムリヤ司法相の会見スタート
一方、空港にも早朝5時頃から50人ほどの報道陣が詰め掛けてきた。受付を済ませた社から搭乗口近くの待機室に案内される。前日、メディアには8時からレムリヤ司法相の記者会見があるとの案内が来ていたが、メディアの目的は会見よりも、今村・藤田両容疑者の姿を確認することである。
収容所前では二人を歩かせるなどして“晒して”くれなかったが、空港では撮らせてくれるに違いない。当初はそんな楽観論が出回っていたが、どこかの社が「ここでも晒さないみたいだ」と言い出すと、みなが窓に張り付き出した。
窓からはこれから二人が搭乗する9時40分発のJAL746便が見える。飛行機と搭乗口の間にはボーティングブリッジで結ばれていたが、それとは別に、機体と地上をつなぐタラップが設けられていた。「おそらく二人は地上から入れるに違いない」。誰かがそう口にすると、カメラマンたちは窓に張り付いた。
8時15分。白い民族衣装をまとったレムリヤ司法相が現れ、記者会見が始まった。
AM0915 今村・藤田両容疑者が搭乗
「これから今村と藤田を日本政府に引き渡す。渡辺と小島については、今日の裁判で告訴が棄却されたら明日引き渡す。日本の捜査員もそのために数名残る。今回の告訴は虚偽であった可能性が高く、今後はこういったことが起きないように対策を強化したい。日本とは犯罪引き渡し条約を締結していないが、今後は迅速に強制送還が執行できるよう、より緊密に協力していきたい」
会見が終わったのは8時45分ころ。その頃、JAL便前の地上には、日本の捜査員らしき数人が動線を確認するなど慌ただしく動いていた。まもなく二人が現れるに違いない。一般乗客も騒ぎに気づいていて窓から地上を覗き込んでいる。皆が固唾を飲んで見守るなか、とうとう“その時”がやってきたーー。
9時15分。視界の端から、先導の警察車両と2台の白いワンボックスカーが現れた。車列はゆっくり弧を描くようにJAL便へと向かっていき、タラップ前で停車した。
AM0940 JAL746が離陸
最初に現れたのは藤田容疑者だった。青色の短パンに上は紺のTシャツ、マスクをしている。サンダルの色はオレンジだった。後ろ手で拘束され、捜査員に挟まれながら、ゆっくりタラップを上がっていった。歩を進めるごとに、右足ふくらはぎにはびっちり入る刺青が目に入った。
続いて、同じ服装の今村容疑者が現れ、同様に上がっていった。サンダルだけ違って、白黒の縞模様だった。藤田容疑者に比べると、図体がでかく、その分動きが緩慢に見える。うつむきながら今村容疑者はタラップを一歩ずつ上がっていき、やがて機内へと消えた。
その後、JAL746便はほぼ定刻の午前9時44分に離陸。日本時間の午後12時20分、機内で2容疑者は警視庁に逮捕された。成田空港到着は午後2時55分になる予定だ。
残る渡辺優樹、小島智信両容疑者の裁判も、7日午前に告訴が棄却された。明日、二人も日本へ移送される見通しである。
デイリー新潮編集部